第四章:毎度おなじみ流浪のパーティ
勇者の軌跡26:勇者、漁師町で「干物」を作る
「アサシン」を新たなパーティメンバーに加えて、とりあえずさらに西に向かって旅を続けていた。
「何か有益な情報があるといいけどな~。」
俺がそう呟くと、聖女が呆れた顔で答えた。
「アンタね~、そんな行き当たりばったりなことでいいの?」
相変わらずお真面目なこって。いいんでね?この位ゆる~い感じで旅を続けても。ケセラセラだ。
「ゆうしゃ、このさきにさんぞくのしゅうだんがいる。けいけんちうはうは。」
そんな話をしていたら、索敵に行っていたアサシンが戻ってきた。早速「獲物」を見つけてきたか。流石はプロ。
「そうか。ほんじゃま、我々の成長の
ククク、俺たちの前に現れたのが運の尽き、萩の月。
「アンタ、また悪い顔に...、いつものことか。何だか『山賊』に同情してしまうわ。」
聖女が「またか」と言う顔で呟く。何を人聞きの悪いことを言うのだ。この世の悪を成敗するだけだろうが。
「てなわけで、今回はアサシンさんがやっちゃってください。あ、手助け
俺たちのパーティの中で、アサシンが一番レベルが低いからな。遠慮せずまるっと稼いでくんなまし。
「もーまんたい。じゃあ、れっつまーだー。」
と言って物凄いスピードで走っていった。
「それにしても、アサシンの格好、あれ何?全身真っ黒のタイツを着ているけど。」
「あれな。何でも『目立ちにくくなるための仕事着』だそうだ。」
確かに、暗闇の中で暗殺業をするのであれば、抜群の効果があるのだろうが。
「『目立ちにくく』って、思いっきり目立ってるんだけど?」
うん、聖女の言うとおり、今「昼」だから、周りから浮きまくっている。まあ、本人からすれば「
「別にいいんじゃね?本人は気にしていないし、どっちにしろ『結果』は同じなんだから。」
とかなんとか言っているうちに、アサシンがひと仕事終わって戻ってきた。
「ただいま。れべるはあがったけど、あんまりおいしくなかった。」
そっかー。まあ、レベルが上がったんなら良しとしますか。
「わたしがぼけても、はんのうがなかった。」
あ、そっちの「おいしくない」なのね。まあ、素人には難しいかもな。人族は「芸人」を
「それじゃ、『おしごと』もーどかいじょして、ふだんぎにもどる。」
と言ったかと思ったら、あっという間に普段着に着替えていた。
しかし、このパーティを
信じられるか?この中で俺が最年少なんだぜ?一人はロリババア、一人は合法ロリ。ばいんばいんやゴージャスな人たちは全員モブだし。うーん、チューイングボーン。
そんなことを思いながら、「見た目」お子ちゃまの二人を引率しながら先に進んでいくと、程なくして漁師町に着いた。
漁師町と言っても、海に出たわけではなく、アホみたいにデカい湖の
「私、海は見たことがあるんだけど、こんな大きな湖は初めてよ。何これ、向こう岸が見えないじゃない。」
と、聖女が言った。
ちなみに、この聖女はエルフの里を追い出されて、この大陸に来るのに船で海を渡ってきたんだそうだ。大変だったねー。(興味なし)
「ここから、むこうぎしにいくのに、ふねで
とはアサシンの弁。
確か、手
琵琶湖の最大幅が22kmとかだったから、やっぱり大きいな。
ん?何で「手漕ぎボート」で計算したかだって?
理由は簡単。ここに泊まっている船全部に「オール(
それにしても、さっそく情報収集をしているとは、流石アサシン。伊達じゃないな。
「にしても、漁をしている船が見当たらないが、今日はもう終わったのか?」
そんなことを呟いていたら、近くにいた漁師と思われるおっちゃんが俺に向かって話しかけてきた。
「ちげぇよ、あんちゃん。『終わった』んじゃなくて『出来ない』んだ。」
ほう、それは「トラブル」の予感。うん、聞かなかったことにしよう。「
俺が、「へー、ほー、ふーん」と、適当な相槌を打ってスルーしようとしていたら、聖女がものすごい勢いで話に加わってきた。
「え、『出来ない』って、どういうこと?何で?どうして!?」
なんかすごい必死だなおい。何か重要な事でもあるのか?
「それじゃあ、『お魚』が食べられないじゃない!折角楽しみにしていたのにっ!!」
単に食い意地が張っていただけでござった。まあ、コイツの原動力は「食」だからな、多分。
・・・そう言えば、アサシンの姿が見えないな。あ、あそこでいろんな人に話を聞いている。アンタ仕事早いな。
まあ、聖女ほどではないけど、折角ここまで来て新鮮な魚が食べられないというのは嫌だからな。話位は聞いてやるか。
「んで、おっちゃん、何で『出来ない』の?」
「ああ、つい数日前から、湖に巨大な『魔物』が現れて、船を沈めてくるんだ。全く、このままだとお
そう、おっちゃんが言ったので、俺と聖女は顔を見合わせた。
「ねえ、もしかして...。」
「言うな。フラグを立てるな。俺も『タント
全く、何で行く先々でお前らは悪さをしているんだよ!尤も、「そいつら」の仕業と決まったわけじゃないから、今の所何とも言えんが。
「なあ、おっちゃん。その『魔物』って、今回初めて出たのか?それとも前にも出たことがあるのか?」
俺がそう聞いたのは、もし今回初めてだったら、「あいつら」の仕業の可能性が高まるからだ。
すると、漁師(と思われる)おっちゃんは、「うーん」と考えて、こう答えた。
「いや、今回だけじゃなくて、前にもちょくちょくあったな。ただ、その時は1日から2日で治まったんだが、今回は未だに続いているんだ。」
成程、前にもあったのか。すると、微妙になってきたな。もしかしたら、単に「虫の居所」が悪くて、長期化しているとも考えられるしな。
そんなことを考えていたら、聞き込みを終えたアサシンが戻ってきたので、俺はおっちゃんに礼を言って、その場を去った。
「う~~~~ん...。」
何だろう、何か「違和感」がある。何だろう、さっきのおっちゃんが言っていたこととこの風景が微妙に食い違っている気がする。
「どうしたの?今日の夕飯でも考えていたの?今日はお魚が食べられると思っていたけど、こんな状態だったら無理ね。」
俺が悩んでいると、聖女が能天気な事を言ってきた。
「まあ、新鮮な魚は無理かもしれないけど、『干物』とか保存食だったらあるだろうから、それで我慢するんだな。」
刺身も旨いけど、干物を
「「ひもの?」」
おう、シンクロさせてきたか。
「魚を開いて、『太陽』...『日光』に当てて乾かすんだ。乾かすことによってたんぱく質がアミノ酸に変化してうまみが増すんだ...、と言っても分からんか。」
俺の説明に聖女とアサシンはそろって「?」と言う顔で首を
「分かりやすく例えると、保存食の『干し肉』の魚版だな。」
そう言うと、二人は納得したように頷いた。
「なるほどね~。あんな感じなのね。そのまま食べるとすっごく硬くて
「ゆうしゃ、その『ひもの』、ここにもある?わたし、たべたことない。」
「あるんじゃね?干して保存食にするのは『干し肉』があるから、思いつくはずだが。」
アサシンの質問に俺がそう答える。ここでは作っていないかもしれないが、「物」自体はあるだろう。
そんなことを思って、魚屋(らしき店)に行って聞いてみたら、なんと「ない」そうだ。
俺が「干物」の説明をすると、魚屋のおっちゃんが「そう言えば、そうだな。なんでその発想に至らなかったんだ?」と言っていた。知らんがな。
「「ないのか~。」」
二人とも、テンションダダ下がりである。
「仕方ないな。俺も食べたいから、作ってみるか。」
そう言うと、二人は驚いて俺の方を見た。
「「できるの?」」
仲いいなお前ら。というか、思考パターンが一緒なのかも知れん。
「分からん。とりま、やってみるわ。つーことで、『ブツ』を買うとするか。」
そう言って、ちびっ子二人が並べられている魚たちに目移りしている間に、前世の「アジ」と「ホッケ」に似た魚を買った。
買った魚をその場で開いてもらい、店の軒先の空きスペースに並べる。
ワクワクしている二人と不思議そうな顔をした魚屋のおっちゃんが見ている中、俺は開いた魚たちに向かって手を突き出す。
「そんじゃま、やりますか。秘技『やればできる、干物乾燥』っ!」
と俺がそう叫ぶと、開いた魚に向かって「ブォォォォォ」という音と共に手から熱風が吹き出し、みるみるうちに魚が乾いて行き、あっという間に「干物」になった。
「よし、出来た。俺の知っている『干物』と同じだ。」
俺が干物の出来具合を確認している後ろで、聖女たちギャラリーが目を丸くして固まっていた。
「アンタ、出来ないことないんじゃないの...?」
聖女が呆れた声でそう呟いていた。何を言うか。俺もそう思っていたんだ。「ご都合主義」万能。
その後、出来た干物を炙ってギャラリーたちと試食をした。
皆「旨し!旨し!」と言って夢中で食べていた。俺からしたら、魚に下味をつけていなかったからか、多少「薄味」になってしまったが、この世界に来て初めて食べた干物に満足していた。あー、「白飯」欲しいなー。
こうして、小腹を満たした俺たちは、今日泊まる宿屋に向かった。
余談だが、干物を食べたことがトリガーになったのか、宿屋で夕食を摂ったときの聖女の食いっぷりは半端ではなかった。
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勇者が作った「干物」は、この後漁師町にあっという間に伝わり、試行錯誤しながら出来た物が漁師町の主力商品として世間に広く知られるようになったりする。
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