勇者の軌跡閑話2:エルフ、「聖女」へのいきさつを語る

 勇者の生まれ故郷に近い宿場町で、正式に勇者のパーティメンバーとなった私。

 それから、王都に向かうまでにアイツ勇者のことを見てきたけど。

 ・・・アイツ、おかしいくらい強い。いくらザコばっかりとはいえ、20体以上いる魔物をあっさり倒すなんて信じられないわ。

 まあ、流石にアイツも無傷という訳にはいかなかったみたいだから、私が治癒術で治してあげたら、すごく感謝された。

 そんなことがありながら、次の宿場町に向かっていた時、盗賊に襲われている馬車を見つけたの。

 すぐ助けに行かなきゃ!そう思って走り出そうとした私をアイツが引き留めた。

 アイツが言うには、事情が分からないからとりあえず盗賊たちに聞いてみよう、だって。

 最初聞いたときは呆れたけど、アイツなりに何か策があるんだろうと思って、その場はアイツの提案に従ったの。

 アイツが盗賊たちの元に行って話しているのを見ていたら、急に目の前が暗くなって、それからの記憶がないの。

 で、気が付いたときには周りは盗賊たちと思われる屍が転がっていて、一面血の海。

 ふと見ると、アイツが盗賊の頭らしき男をぶっ飛ばしていた。まさか、これ全部アイツがやったの?

 私がこちらに戻ってきたアイツにそのことを確認したら、「え、ああ、まあな。」と何か歯切れの悪い返事をした。

 やっぱりアイツも同族相手だと何か思うところがあるのかもしれない。そう思った私は「あえて」深くは聞かなかった。感謝しなさいよね。

 その後、助けた馬車に同乗させてもらって、王都まで連れて行ってもらった。

 私たちが助けたのは、なんとこの国の「教皇」と、御付の修道女(シスター)。

 教皇のお爺さんは、何か威厳がありながら、親しみやすい印象を受けた。

 一方、シスターの方は何かおっとりして頼りない感じ。それで、おっぱいがすっごく大きい。何よあれ!?

 隣のアイツがそのシスターをいやらしい目で見ている。あ、なんかムカつく。

 私だってあと100年くらいしたらあれ以上のナイスバディーになるのよ!!見てなさいよっ!!

 ・・・あれ、「人族」の寿命ってどのくらいだったっけ?

 ・・・アイツには、精々長生きしてもらわないとね♪

 そんなこんなで、私たちは無事王都に着いた。

 その間、教皇のお爺さんがそれはそれは延々と話し続けていた。

 最初は何言っているか分からなかったから、いつのまにか寝ちゃっていたけど、次からアイツが「わざわざ」通訳してくれたもんだから、ものすっごく疲れちゃったわ。はぁ。

 王都に着いた次の日、私達はお城に呼ばれて王様に謁見した。何言っているのかわかんなかったから、黙ってアイツの真似をしていた。

 その後、晩餐ばんさん会がもよおされて、おいしそうな料理がたくさん出てきた。

「いくらでも食べていい」と言う感じで言われた気がしたので、遠慮せず食べまくった。

 時々、人族の貴族?が私の所に来たけど、何を言っているのか全然わかんなかったから、無視して食べ続けた。

 美味しい料理をお腹いっぱい食べて、一息ついて周りを見たら、アイツが小さな子と楽しそうに話していた。

 その子は、誰かに呼ばれたみたいでアイツから離れていったので、アイツの元に行って問いただしたの。

 アイツが言うには、あの子はこの国の王女で、話しかけられたから適当に相槌を打っていたらしい。そんな風には見えなかったけど。

 まあいいわ。あんな小さな子に嫉妬するなんてみっともないしね。あと、途中でアイツが余計なことを言ってきたので、ちょっと小突いてやった。

 晩餐会が終わると、私達は「あの」教皇のお爺さんがいる教会へ向かった。

 正直行きたくなかったけど、アイツがどうしても聞きたいことがあるそうなので、渋々ついて行った。

 教会に着いたら、教皇のお爺さんを筆頭に司祭様やシスターたちが出迎えてくれた。

 そのとき、シスターたちを見た途端、また意識がなくなって、気が付くと教皇のお爺さんが私達に向かって挨拶をしてくれていた。

 そう言えば、なんか最近よく意識がなくなるのよね。疲れがたまっているのかしら?

 私達は、教皇のお爺さんに連れられて、教会の中に入っていった。

 私は、人族の教会に入るのは初めてだけど、広いわね。それに何だかきらびやか。

 私が中をきょろきょろ見ていると、祭壇と思われる場所に着いた。

 そこで、アイツが教皇のお爺さんと何か話していたと思ったら、急に祭壇の前にひざまづいて祈り始めた。

 すると、アイツの体が輝きだして、10分位してようやく元に戻った。

 心配してアイツの顔を覗き込んでいた教皇のお爺さんとアイツが何か話して、私の方に振り向いた。物凄く邪悪な笑顔と共に。

 私は嫌な予感がしたので、逃げ出そうとしたら、アイツは私を捕まえて人のいない部屋に連れ込んだの。

 私は身の危険を感じたわ。まだアイツのことをよく理解していないから、ここで強引に「絆」を結ばれるのは嫌。

 そう思って抵抗したら、アイツは「『聖女』になるための条件を満たす」と言ってきた。

 え、「聖女」?私が??

 もしかして、そのために私をここに連れ込んだの?何、さっきまでの私、ものすっごく恥ずかしいんだけど!!

 まあ、そんな些細なことがあったけど、アイツから聞いたところでは、どうやら私は「聖女」になれる条件を「ほぼ」満たしているようだ。

 で、唯一条件を満たしていない「人族の言葉が解る」も、アイツが解決できる手段を持っているそうだ。

 まあ、アイツの役に立てるなら、「聖女」になってもいいか。

 アイツにそう伝えると、アイツは私の肩をつかんで顔を近づけてきた。

 えっ、ちょちょちょちょちょちょっと待って!いきなり何しようとしてるのっ!?

 何?こうしないと「スキルの付与」が出来ないですって!?

 私は、アイツに一旦待ってくれるように言った。アイツは私の言葉に従って待っていてくれた。

 落ち着け、落ち着け私。これは「聖女」になるための試練。そう、「仕方ない」ことなのよ。

 私は覚悟を決め、アイツに「スキルの付与」をお願いした。

 私は目を瞑り、その時を待った。あー、ドキドキするーっ!!

 ふと、アイツの顔が遠ざかる気配がしたら、次の瞬間、頭に強い衝撃を受けて目から火花が出たような錯覚を受けた。

 アイツ、何したと思う?私に「頭突き」をしてきたのよ!?それも思いっきり!!

 私はあまりの痛みのため、うずくまってしまった。当然猛抗議したけど、アイツは「こうしないとスキル付与に失敗する」と言ってきたのよ!

 ぐぬぬ、そう言われると仕方がない。私が「聖女」になるって決めたんだから、これも試練なのよね?

 アイツが「誰か呼んでみろ」と言ったので、とりあえず教皇のお爺さんを呼んでみた。

 そうしたら、扉を開けて教皇のお爺さんがやってきた。あ、お爺さんが言っていることが分かる。

 こうして、「聖女」になるための条件を満たした私は、祭壇の前に行き、女神像に祈りをささげた。

 すると、意識が一瞬遠くなり、頭の中で声が聞こえた。

「あなたを『聖女』として認めます。勇者と共に『魔王』を打ち倒してください。」

 これが、「女神様」の声なのかしら。威厳があるけど優しい声。

 そう思っていると、意識が戻ったので目を開けた。

 ・・・何だか凄い「聖なる力」を得た気がする。どうやら、本当に私は「聖女』になったようだ。

 教会の皆も、アイツも喜んでいる。

 これで、またアイツの「パートナー」として役に立つことができるわ。ありがとう、女神様。

 後は、アイツが私に「あんなこと」をした責任を取ってもらわなくちゃね。フフッ。

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