勇者の軌跡25:勇者、2人目の仲間ゲットだぜ!(ただしちびっ子)

 俺たちは、ハーフリング族の温泉旅館の主人から教えられた「ハーフリング族の集落」に向かっていた。

「それにしても、ずいぶんと山奥にあるのね。これも『斥候せっこう』の職業に関係があるのかしら?」

 聖女がおもむろにそんなことを聞いてきた。

「さあな。無関係ではないかもしれないが、その辺はよく分からん。」

 そんなことを話しながら、山奥へと進んでいくと、ふと人の気配がした。

「ん?」

「どうしたの?」

「いや、今一瞬人の気配がしたような気がしたんだが...。」

「そうなの?私にはわからなかったけど。」

 ・・・確かに気配は感じた。すぐに消えたけど。

「・・・どうやら、目的地は近いみたいだな。」

 さらに山道を進んでいくと、時々人の気配がしてすぐ消える。ふむ、確かに「斥候」として優秀だな。ただ、気配の消し方が「俺からしたら」雑だ。自信があるのか、少しおごりがあるような気がする。

 そんなことがありながら、さらに進むこと一刻(2時間)。明らかに不自然な広場に着いた。ぱっと見ただの広場だが、複数の人の気配がする。

「あ、休むのにちょうどいい場所じゃない。少し休憩しましょう?流石に歩き疲れたわ。」

 俺の後ろについてきていた聖女がそうこぼした。まあ確かに、ここまで休憩なしで二刻(4時間)も歩きっぱなしだったから仕方ないけれど。

「それでもいいが、ようやく『目的地』に着いたんだから、ちゃんと休ませてもらおうぜ。」

 と俺が言うと、聖女がいぶかしげに俺の顔をうかがう。

「何言っているの?大体、『目的地』に着いたって言っても、ここには何にもないただの広場みたいだけど...、あっ。」

 うん、ようやくちびっ子でも気が付いたか。

「・・・そういえば、不自然な光景よね。ここ『だけ』人の手が加わっている感じがするわ。」

 That's right(その通り)。彼女にはまだ「人の気配」をうまく感じることができないみたいだが、この「違和感」に気づいた点は流石だな。

「もしかして、『ハーフリング族』って、『幻影』の魔術が得意なのかもしれないわね。」

「それか、相手を惑わすスキルを持っているかだな。ともかく、照れ屋の『ハーフリング族』の方々に出てきてもらいますかねぇ。」

 俺がそう言いだすと、聖女が心配そうな顔をして聞いてきた。

「どうするつもり?あまり手荒なことをするのは良くないと思うんだけど。」

 まあ、彼女が心配する気持ちも分からんではない。今までは相手が「明確な敵」だったので、多々手荒な真似をしてきたからな。

「心配するな。わざわざ心証を悪くすることなぞせんわ。」

 ・・・さて、旅館の家族に抱いた「あれ」が合っていれば、俺が今からやることに対してある「反応」をするはずだ。

 俺は、旅館の時と同じく「気をつけ」の姿勢をとり、声を上げた。

「ごめんくさい!」

 すると、一見何もない広場から「ドドドドドっ」と「コケる」音が聞こえてきた。

「あ、こりゃまったくさーい!」

 ドドドドドっ!

「あーくさい!」

 ドドドドドドドっ!!

 うむ、予想通りだ。では、「仕上げ」をするか。

 俺は、隣でアホみたいに突っ立っている聖女に向かって、あることをお願いした。

「・・・えっ?そ、それ言わなきゃダメなの?」

 当たり前だ。芸人を目指すならば、恥ずかしがっている場合ではないぞ、ちびっ子。

「ご、ごめんやしておくれやしてごめんやっしゃぁ~...?」

 ズドドドドっ!!!

 盛大に「コケる」音がすると、目の前の景色が変わっていき、複数の家が見えてきた。

 そして、その場に10人ぐらいのちびっ子達が倒れていた。

 そのうちの一人が、起き上がりながら俺たちを見てこう言った。

「まさか、こんな手段で我らの『幻影術』を破るとは...。お前たち、いや、あなた方はもしや、『流しの芸人さん』では...?」

 やはりな。あの旅館の親子を見ていて、俺と同じ「芸人」をリスペクトしていると感じていたんだ。あ、「芸人」と言っても人族の「芸人職」ではないぞ?

「違うわよっ!旅館の娘にも言われたけど、コイツはともかく、私は『聖女』よっ!!」

 いや別に間違ってはいないだろ?いい加減その「無駄な」プライドは捨てて、その辺のわんこにでも食わせなさい。

「『聖女』...、と言うことは、こちらの方は...。」

 コケていた人たちが次々と立ち上がり、俺の方を見ている。

「おう、『流しの芸人』こと『勇者』だ。よろしくなっ!」

 俺は自己紹介をして、笑顔を見せながらサムズアップした。

「アンタ、ついに自分で認めたわね...。」

 聖女が呆れた顔でそう言った。お前も早く認めなさい。楽になるぞ?

「そしてこれは、旅館の主からの『紹介状』である!皆の者、頭が高い!控え居ろうーっ!!」

 と言って、旅館の主人に書いてもらった「紹介状」を懐から出し、目の前のちびっ子たちに見せつけた。

「「ははぁーーーーーっ。」」

 ちびっ子たちは、それを見ると土下座をしてきた。うむ、ノリがよくて結構結構。勇者さん大満足である。

「何やってるのよ、アンタ達...。」

 と、戸惑った声で聖女が呟いた。む、ノリが悪いぞちびっ子。早くこちらの世界に来なさい。楽しいZE?


 そんなことがあって、俺たちは集落の人たちに歓迎された。特に俺は同じ「芸人リスペクト」同士と言うことで意気投合し、旧知の仲のような感じになっていた。

 そしてこの後、集落の人たちは俺たちの為に歓迎の宴を開いてくれた。俺は族長たちと「芸人」について大いに語り合い、聖女は集落の女子(見た目)達と楽しそうに話をしていた。

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 次の日、俺たちはここに来た目的である「パーティメンバー勧誘」の相談をするために、族長の家を訪れていた。

「おお、これは勇者様に聖女様、ようこそお越しくださいました。」

 昨日の件もあって、族長は快く迎えてくれた。

「いえ、こちらこそあのような歓迎の宴を用意していただき、ありがとうございました。」

 聖女がお礼を言って頭を下げ、俺もならってお辞儀をした。

「いえいえ、何分急でしたので、あの程度の持て成ししかできなかったことをお許しください。」

 そのような事を言って、族長とその家族が頭を下げた。

 まあ、こちらはアポなしで突撃してきたような感じだし、何より俺たちはぱっと見「人族」のパーティに見えるからな。警戒されても仕方ないわ。

 そうそう、昨日の宴の席で族長から聞いたんだが、何故「人族」を嫌う...、と言うか「無視」しているのかと言うと、俺らが言う「芸人」の扱いが余りにも酷いので「相手にしない」と決めたからだそうだ。

 それについては、俺が説教してやったと話したら、物凄く感謝された。うむうむ、やはり良いことをすると気持ちがいい。

「それで、ご用件は『パーティメンバーとなる人物の紹介』でしたな。勇者様は、どのような人物をお求めなのでしょうか?」

 あ、そうか。宿屋の主人には詳しい条件を言ってなかったからな。

 ということで、俺が提示した条件は以下の通り。

 1.「斥候」職のエキスパート。

 2.俺たちの旅についてこれるだけの体力。

 3.場合によっては「暗殺」を頼む場合があるため、そのことに抵抗がない。

「戦闘力自体は、あるに越したことはないが、こちらが求めているのはあくまで『斥候、諜報能力』なので、最悪無くてもいい。実際の戦闘は俺たちがするからな。」

 俺がそう言うと、族長は考えるそぶりを見せた。恐らく該当者がいるか考えているんだろう。

「勇者様、その条件に見合う人物は、この集落内の者でよいですか?」

 そう、族長が俺に聞いてきた。対象がハーフリング族全体なのかどうかと言うことだろう。

「うん、この集落に今居る人達だけでいい。わざわざ他の集落や『お仕事中』の人たちに『無理して』お願いすることでもないから。」

 俺がそう答えると、族長が頷いた。

「分かりました。ではですね...。」

 族長が話し始めた時、族長の後ろにいたちびっ子(おそらく族長の娘)が口を開いた。

「ちちうえ、そのやくめ、わたしがする。」

 族長が驚いて振り向く。

「お前がか?つい先日『仕事』が終わって戻ってきたばかりだというのに...。」

 うーん、状況がよく分からんから何とも言えんが、大丈夫なのかこの子?口調からすると、小学生低学年か幼稚園児と思ってしまうのだが。

 そう思っていると、聖女も同じことを考えていたようで、族長に聞いていた。

「えーっと、気持ちは嬉しいんだけど、本当に大丈夫なの?私も経験して分かったけど、結構大変よ?休みなしで一日中歩いたり、しょっちゅう魔物や賊に襲われたりするから。後コイツ勇者の相手。あ、それが一番大変かも。」

 おいコラ待てこの大飯食らいの腐れロリババア、俺の相手が大変とはどういうことだ。読者が勘違いするだろうが!言っておきますが、コイツは「攻略対象外」なのでそのような事は一切合財全くありませんから。「フリ」じゃないぞ!?

 俺が心の中で、そうちびっ子聖女に毒付いていると、族長がこんなことを言ってきた。

「聖女様、この子は私の娘なのですが、こう見えても今年で『23歳』になるんですよ。実は先日とある『任務』から戻ってきたばかりなんです。」

 マジっすか。まさかダンジョンのある町にいたデカい嬢(美人巨乳受付嬢のこと)より年上とは。びっくりしたでがんす。フンガー。

「えっ、そうなの!?どう見ても私より年下に見えるんだけど。」

「せいじょさま、うそはいけない。あなたはどうみても10さいぐらい。」

「うるさいわねっ!これでもこの『勇者』と同い年なのよ!」

 うむ、なんとも醜い争いだ。あと、嘘は言っていない(聖女曰く「エルフ年齢」では俺と同じ「15歳」らしい)がお前、実年齢は俺のオカンとタメだろうが。

「それに、いまこのしゅうらくにいるひとで、ゆうしゃさまのじょうけんに『ぴったんこ●ンカン』なのは、わたしぐらい。」

 と、この族長の娘(見た目小学生低学年)が言ってきた。つーか、お前は何故「ぴったんこカ●カン」を知っている?誰かの入れ知恵か?

「う~~~む、確かに、ここにいる者で勇者様の条件を満たせるのは、お前ぐらいしか居らんが...。」

「だいじょうぶい。ちちうえはしんぱいしすぎ。これでもじぶんのみはじぶんでまもれる。たぶん。」

 族長が悩んでいるところに、当の本人がやる気を見せた。最後の言葉が不安だが、気にしない。まあ、そうなったら俺が守ってやればいいし。

「・・・分かった。それではお前に任せる。それでは勇者様、聖女様。不出来な娘ですが、役には立つはずなので、よろしくお願いします。」

「うん、まかされた。どーんとこい。」

「まあ、本人が『大丈夫』と言っているから、それを信じましょう。最悪、コイツが何とかしてくれるだろうしね。」

「おう、任せろ。と言うことで族長、アンタの娘さんを借りていくぜ。」

 それぞれが納得したところで、族長の娘が正式なパーティメンバーになった。

「そういえば、アンタの職業を聞いていなかったな。『斥候』か?」

 俺が族長の娘に聞くと、予想外の答えが返ってきた。

「んにゃ、わたしのしょくぎょうは『アサシン』。とくいなのは『おそうじ』。」

 おおっ、「アサシン(暗殺者)」か!これは予想以上の収穫だ!!

 俺が感動していると、族長が誇らしげに話しかけてきた。

「勇者様、これでも腕前は超一流です。親バカと思われるでしょうが、自慢の娘です。」

 親が自慢できる子供がいるのは良いことだよ。親バカでもいいじゃん。

 そんなことを思っていると、族長の娘(アサシン)が何かかしこまった感じで俺に話しかけてきた。

「そんなわけで、ゆうしゃさま。これからよろしく。」

「おう、よろしくな。あと、パーティメンバーになるから、『様』はいらないぞ。」

「わかった。それじゃああらためて、よろしく、ゆうしゃ。あとついでにせいじょも。」

「『ついで』って言うなーっ!!」

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 そう言うことで、俺達のパーティに新たなメンバー「アサシン」が加わった。2人目の仲間ゲットだぜ!

 あ、そうそう。族長から「アサシン」(族長の娘)への「NGワード」を教えてもらった。今度戦闘中に使ってみるべ。デュフフ。


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