勇者の軌跡24:勇者、2度あることはタントアール(by SE●A)
さて、今俺たちは、文字通り「熱湯」しか湧水しない温泉宿に来ている。
ただ、俺が芸人のプライドを削って冷ましたお湯に俺と聖女が入って、温泉を堪能した。
聖女は、こんなに大きな風呂に入るのは初めてらしく、大いにはしゃいでいた。
あと、この温泉には「美肌効果」があるらしく、温泉から上がった彼女はお肌つやっつやになっていた。
「はぁ~、気持ちよかったぁ~。」
とは聖女の弁。風呂上がりの姿は...、うん、やっぱりちびっ子だった。いい匂いはするけどな。
風呂上がりにキンキンに冷えたビン入り牛乳を腰に手を当てて飲み、まったりとした後、旅館で夕食を食べてその日はそのまま就寝した。
しかし、ビンが普及していることもそうだが、「冷蔵庫」が普通にあるのがびっくりだ。
この世界にはラノベでよくある「魔石」に該当するものがないから、恒常的に魔力を供給する物が存在しないため、「魔道具」の「冷蔵庫」は出来ないらしい。
つまり、俺のいた前世と同じか似た技術で作られているようだ。過去の勇者の尊い犠牲に感謝だな。な~む~。
次の日、朝食を食べた後、旅館の主人と女将から事情聴取を行った。
それによると、以前にも熱湯が出ることがたまにあったが、今回のように常時熱湯が出ることはなかったそうだ。
「この状態が、10日ほど続いている状態なのです。」
とは女将の証言。
冷まそうとしても、この辺りには『源泉』以外の水源がなく、膨大な出費をしないといけないため無理なのだそうだ。
なるほど、そういうことか。それなら、食事の時に出されたのが「他の町から仕入れてきたお茶」だったのも分かる。
「魔術でなんとかならないの?...、と言っても、これだけの量をやろうとすると、魔力が持たないか。」
聖女が言うとおり、魔術の中に「氷結」系統はあるが(俺が使える「エターナル・ブリザード」もこの系統)、この量を全て氷結魔術で処理しようとしたら、国全部の魔術師がやって
今ある分だけなら何とかなるだろうが、今の所「無尽蔵」に湧いてくるからな。
「そもそも、私たちが使える魔術は、補助系ばかりで、水とかは使えないのです。」
と主人が言った。
主人の話では、「ハーフリング族」は、「魔術」自体を使うことはできるが、
「俺の世界では、地下水がマグマ...溶岩に地下水が熱せられて『温泉』になるんだが、『沸騰』するほど熱しようとすると、『何か』高温なものに『直接』熱せられないと無理な気がするんだよな~。」
まあ、この世界でそれが通用するかどうかは分からんが、何か「意図的」なものを感じる。
「ねえ、もしかしてこれって、前の『モンスタースタンピード』の時と同じ...。」
と聖女がひそひそ声で俺に話しかけた。
おいコラやめろ、「フラグ」を立てるんじゃない。俺もなんとなくそんな気がしていたんだ。「2度あることはタントアール」なのか?
つーか、この前のちびっ子サキュバスが「魔王の指示で魔族が世界中に散った」と言ってたな。マージーでーすーかー。
そんなことを思っていると、旅館の娘が思い出したかのように、こんなことを言ってきた。
「そう言えば、ちょうどその頃、山の頂上付近に『何か』落ちてきたのを見たことがあるんです。」
「そんなことを言ってたわね。その後特に何も起こらなかったから、『何かの見間違いじゃない?』ということになったんだけどね。」
女将もその時のことを思い出したようだ。
なんでも、その山と言うのはこの近くにある火山で、その山頂、つまり火口近くに落ちたらしいので確認しに行けなかったらしいのだ。
うむ、思いっきり怪しい。でも行きたくない。面倒くさいし。でもな~、このままにしておくわけにもいかんしな~。どうすべ。
「それじゃあ、私たちが確認しに行ってあげるわ。勇者、アンタもいいわよね?」
俺が悩んでいると、聖女がこんなことをほざいた。おいコラロリババア、勝手に決めるんじゃない。・・・まあ、今回に限っては乗ってやってもいいか。
「まあ、今回は仕方がないわな~。もしかするともしかするし。」
「あ、ありがとうございます。」
俺が渋々了解すると、主人がお礼を言ってきた。
「んで、調査して原因が分かったら、どうするの?一回報告のために戻って来た方がいい?それとも、解決できるならその場で解決する?」
そう、俺が主人に確認すると、少し悩んで、こう言った。
「できれば、その場で解決していただけたらありがたいです。
よし、契約成立だな。
「ほんじゃ、ちゃっちゃと行きますか。ほれちびっ子、ちんたらしていないで行くぞ。」
「誰がちびっ子よ!でも、行くって言ったって、どこに行くのか
聖女がそんなことを聞いてきたので、俺は「当然」の如くこう答えた。
「んなもんあるか。そんなものなくても、『心・配・ご・無・用』だ!」
そう言って、俺は聖女の手を握ると、
「秘技『ご都合主義ワープ』!!」
と叫んだ。その瞬間、俺たちは姿を消した。
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「・・・・・・」
その場にいた旅館の親子は、突然消えた勇者達に呆然としていたが、主人が呟くようにこう言った。
「流石は勇者様。私たちの考えが及ばないことをされる...。」
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俺たちがワープアウトしたのは、何と源泉の場所であった。
「・・・そう言えば、王都の南の町で、この魔術を使っていたわね。相変わらず非常識なことするわね...。」
一緒にワープした聖女が、呆れてそう言った。失礼なちびっ子だ。
俺たちが辺りを見回していると、源泉の
「あ、あれってもしかして、『ブレイズドッグ』じゃないのかしら...。?」
ほほう、あの火を吐いている(ように見える)わんこたちが熱湯にしていたわけだな。とりあえずあれを何とかすればいいか。
「ねえ、あの『ブレイズドッグ』達、私が倒してもいい?」
と、珍しく聖女が提案してきた。
「別にいいけど、倒せるのか?結構数いるけど。」
「多分大丈夫。と言うか、私の契約している『水の精霊』がすごく怒っているみたいだから、やってもらおうかな、って。」
ふーん、まあ、そういうことならいいか。危なくなったら、俺がフォローすればいいだけだし。
「あっそ。そんじゃま、そっちは任せるわ。で、そのわんこの傍にいるアイツは、もしかして...。」
「『魔族』ね。また性懲りもなく悪さをしているのね。」
うん、分かってましたよ、ええ。と言うか、3度目だろ!この調子だと、「悪いことは全て『魔族』の所為」になるだろうが!俺はそれでも構わんが、ワンパターンは飽きられるんだぞ!!
「珍しく怒っているわね。そんなに『温泉』の邪魔をされたのが
などと、明後日の方向の感想を述べるアホ聖女であった。
そんなことを言っていると、ようやく魔族の男(聖女観察結果)がこちらに気づいて、慌てだした。
「な、何だお前たちは!何故ここが怪しいと思ったんだ!?」
いや、別に「ここ」が怪しいなんて思ってなかったよ?「ご都合主義」でここに来たんだから。いやー、毎度のことながら「ご都合主義」有能。
「くっ、ブレイズドッグども、加熱を一旦やめて、アイツらを始末しろ!その間に俺は逃げる!!」
ん、あの「見た目燃えている」わんこ達はあの魔族の
魔族の指示で、20匹は居るブレイズドッグたちが一斉に襲い掛かってきた。魔族の男は、その隙に逃げ出そうとしている。
「ほんじゃ、あとよろしこ。」
俺は聖女にそう言うと、俺は逃げだそうとしている魔族の逃げ道を塞いだ。
「なっ!?」
「チッチッチッ、『勇者からは逃げられない』のだよ。」
しかし、こいつらいっつも逃げようとするよな。潔く戦おうとは思わないのか?まあいいけど。結果は同じだし。
<魔族の男が現れた!魔族の男は逃げだした!しかし勇者に回り込まれてしまった!>
「ま、まさかお前が『勇者』なのか?!クソッ!!」
<魔族の男の攻撃!ミス!勇者は笑いながらひらりと躱した!コマンド?>
「ん~、前みたいに『光線技』を使ってもいいけど、ワンパターンになるからな~。どうすべ?」
あ、そうだ。折角「熱湯風呂」があるんだから、鉄板ネタをやってもらうか。
コマンド一覧
[たたかう]
[ぼうぎょ]
[まじゅつ]
[アイテム]
[ほばくじゅつ][拷問縄]←New!!
[にげる]
まずは、逃げられないように捕縛する。
「な、何だ!?動けない!!」
動けないようにしたんだから、当然じゃボケ。そして俺は、身動きが取れなくなった魔族の男を煮えたぎる源泉の
「な、何をするつもりだ?なぜ背後に回る??ま、まさか、この俺をここに突き落とそうとしているのか!?」
いえす、あいどぅ。よく分かりましたねー。まあ、この状況だったら嫌でも分かるわなー。クックックッ。
コマンド一覧
[たたかう]
[ぼうぎょ]
[まじゅつ]
[アイテム]
[ほばくじゅつ][拷問縄]
[おす]←New!!
[にげる]
「ほんじゃま、見事なリアクションを期待しているよー。」
「ま、待て!押すな!!押すんじゃないぞ!!!こんなところに突き落とされたら、しn」
魔族の男がお決まりの「振り」をしてきたので、ご要望にお応えして沸騰している源泉に突き落とした。
どっぼーーん。
「ぎゃあああああっ!!!」
俺は
しばらくすると、魔族の男が塵になって消えてしまった。
「何だ、期待して損した。もう少し面白いリアクションがとれんのかい。これだから素人は困るんだ。」
<勇者の攻撃!勇者は魔族の男を熱湯風呂に突き落とした!魔族の男を倒した!>
<勇者は経験値を得た!レベルアップ!勇者はいろいろ強くなった!>
さて、期待していたものは見れなかったけど、こちらは片付いた。聖女の方はどうなっているかな?
そう思って見てみると、水の精霊(と思われるダイナマイトボデーな御方)がわんこ達をボコボコにしていた。
・・・まあ、あっちもそろそろ片が付くかな。しかし、ちびっ子聖女が契約している「水の精霊」が
そんなことを思っていたら、戦闘が終わった。水の精霊は、スッキリしたような表情をして消えていった。
相当激おこぷんぷん丸だったようだな。スッキリしてもらって何よりだ。
俺が聖女の元に歩いて行くと、彼女が気付いて声をかけてきた。
「アンタの方も終わったみたいね。それじゃあ、戻りましょう。」
「そうだな。」
俺たちは、再び「ご都合主義ワープ」を使って温泉旅館に戻った。
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「まさか、『魔族』の仕業だったとは...。」
旅館の主人が、そう呟いた。あれ、以前にも聞いたような。デジャヴュ?
「ともかく、ありがとうございました。それで、報酬の件ですが...。」
主人が不安そうな感じで俺に聞いてきた。
「金銭は要らん。その代わり、俺たちのパーティメンバーに加入してくれる人物を紹介してくれ。」
俺たちがここに来た目的の一つ、「ハーフリング族」のパーティメンバーをスカウトすること。それをお願いした。
「は、はあ。勇者様がどのような人物をお求めなのか分かりませんので、私たちの種族が住む場所の長へ紹介状を
それは有り難い。俺らだけで行ったら警戒されるだろうからな。
「あんがと。それじゃあもう一泊してから出発するか。」
「そうね!更にお肌ピッチピッチになるわよっ!!」
聖女が張り切っているな。こんなちびっ子でもやはり「女」、「美」については強い
「私たちも、本日は目一杯サービスさせていただきます。」
旅館の女将が、そのように言って頭を下げた。うむ、良きに計らえ。
次の日、俺たちは主人に教えてもらったハーフリング族が暮らす場所に向かって出発した。
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勇者達が旅立った後、勇者が「源泉って一つしかないのか?他にもあるかもしれないから探してみたら?」と言っていたことを思い出し、確認するため、家族総出で辺りを捜索したところ、複数の源泉が見つかった。
その後、
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