勇者の軌跡22:勇者、温泉を求めてさらに西へ

 俺たちは、ダンジョン調査の依頼を終え、さらに西へと歩いていた。

 何故西に向かっているかと言うと、とても重要な情報が入ったからである。

「それにしても、アンタがあんなに興奮するなんて、珍しいわね。」

 隣を歩いている聖女が、そんなことを言った。

「まあな。俺にとって、ひっじょーーーーーーーーーに大事だからな。ぶっちゃけ他のことを後回しにしてもやらねばならんのだ。」

 俺がそう力説すると、彼女は若干引いていた。む、この重要性がわからんとは。そんな事だから「ゴブリン」に間違われるのだ。

「そ、そう。でも『シャワー』は宿屋でいつも浴びているじゃない。それと何か違うの?」

 そんなことをぬかしてきた。ふむ、では説明してやろう!

「チッチッチッ、違うんだな~ちびっ子よ。『シャワー』はどちらかと言うと『体の汚れを落とす』ことを目的にしているが、俺が言っている『風呂に入る』は『その日の疲れをとる』ことが目的だからな。」

「へ、へぇ~。」

 む、今のは「20へえ」位行くと思ったのだが、まだ情報量が足りなかったのか。

 ちなみに、この世界には前世の「シャワー」があったりする。恐らく過去の勇者からの技術搾s...提供だろう。合掌。

「あと、『シャワー』は『寝ぼけた体を覚ます』と言う役割も持っているから、本来なら朝浴びるものなんだ。」

「へぇ、そうなの。でも、『その日の疲れをとる』だけだったら『お風呂』に入らなくても『寝る』ことで足りるんじゃないの?」

「まあ、それでもいいんだが、風呂でリラックス...寛ぐことでぐっすり眠れて、朝『元気ハツラツぅ~♪』になるんだ。」

 と言ったが、実のところは「習慣」だな。前世では1日でも風呂に入らなかったら、体がムズムズしてきたからな。

「ただまあ、それが出来たのは、俺がいた土地が水が豊富で、文字通り『湯水のように』使えたからだけどな。」

「それって、アンタの『前世』の話よね?確かに、それだけ水があれば、その『お風呂』に毎日入れるわけね。何だか羨ましいわ。」

「お前は『水の精霊』と契約しているんだから、水の心配はないだろうが。」

「そうなんだけど、無限に出せるわけじゃないからね。精神力にも限りがあるから、アンタが言う『お風呂』に使うだけの量は無理よ。」

 そうなのか。確かワンルームの風呂釜に必要な量って、確か160ℓぐらいだからな。攻撃に使うならまだしも、生活用水となると違うんだろうな。

「それで、今向かっている『温泉』っていうのは、その『お風呂』の大きい版なのね?」

「そうだ。あと、風呂にはない温泉特有の『効能』と言うのがあるんだ。今向かっている『温泉』にあるかどうかは分からんがな。」

「『こうのう』?」

 聖女が首を「コテン」とかしげた。うむ、天然なのかどうか分からんが、あざとい。普通の男ならイチコロだな。俺には効かんがな。フハハハハ!

「そう、『効能』。温泉によっていろいろあって、『美容効果』なんてのがあるところが人気だったな。」

「『びようこうか』?」

 む、これも通じないのか。専門用語ではないと思うのだが、この世界では一般的ではないのかもしれん。まあ、単にこのちびっ子が知らないだけかもしれんが。

「分かりやすく言うと、『その温泉に入るだけで、綺麗になるよー』と言う感じだな。『美肌効果』...、肌がきれいになるとかもあったな。」

 そう言った途端、聖女がすごい勢いで食いついた。

「綺麗になるの!?お肌ピチピチになるの!!?その『温泉』に入るだけで!!!?」

 近い近い。興奮しすぎだ。しかし、いつの世も女性は『美』に対する欲求が凄まじいな。まあ、こいつは見た目は中学生だが歳はうちのオカンと同じだからな。いろいろあるんだろう。

「まあ、今向かっている『温泉』にその効果があるかどうかは分からn」

「そうと分かったら、さっさと行くわよ!ほら、グズグズしないで!!」

 と言って、俺を置いて聖女が全速力で走っていった。どんだけ必死なんだよ。

「全く、人の話はちゃんと聞きなさいねー。おーい、そんなに急ぐとコケるぞー。」

 ・・・あ、コケた。うむうむ、俺の『フリ』に見事に答えたな。芸人として順調に成長してくれていて、勇者さん嬉しいぞ。

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 温泉がある場所までは、まだまだ距離があるみたいなので、途中の町で一泊することにした。

 そのとき、宿屋にいた冒険者らしき連中から、温泉のある場所を教えてもらった後、意外な情報を聞いた。

「ハーフリング?」

「そう、『ハーフリング』。大人になっても見た目が子供の種族で、その特性を生かして『斥候せっこう』の職に就いているものが多いんだそうだ。」

 おお、俺が求めていた「斥候」に適性がある種族がいたぞ!これはさっそくスカウトに向かわねば!

 ちなみに、その「ハーフリング族」についての情報は、王都の仕事斡旋所の資料にはなかった。

 種族自体の人数が少ないことと、人族のパーティは基本人族で構成されるため、ここにいる一部の冒険者ぐらいしか知られていないとのこと。

「その『ハーフリング』の夫婦がその『温泉』がある場所で宿屋を経営しているんだ。」

 ほうほう、それはまた好都合だな。そのハーフリングの夫婦は流石にスカウトは無理だろうが、誰か紹介してくれるだろう。

「やったわね。アンタが求めていたパーティメンバーがその『ハーフリング』なのね。」

 聖女が自分のことのように喜んでいる。

「そうだな。まだ仲間になってくれるかどうかは分からんが、交渉はしてみるつもりだ。」

 そう、俺たちが話していると、教えてくれた冒険者たちが苦笑いをしている。どうした、腹でも下したか?正露●飲むか?

「盛り上がっているところ悪いんだが、アンタたちに協力してくれるかどうかは分からんぞ?」

 なぬ、どういうことだ。何か条件でもあるのか?例えばポワ●ワの花を見つけてこないといけないとか。

 そんなことを思っていると、別の冒険者が思い出したかのように口を開いた。

「あー、アレか。あいつら、俺ら人族に興味ないからな~。何か興味を引くことをしないと、話すら聞いてくれないかもな~。」

 何ということでしょう、ただでさえ初めて聞いた種族なのに、興味があることなんぞ分からんぞ?

 そんなことを考えていたら、聖女がその冒険者に向かって尋ねた。

「ねえ、それって何か思い当たることってないの?何でもいいんだけど。」

 すると、冒険者が彼女を見て、

「ん、アンタ『エルフ』か?修道服を着ているからてっきり人族と思っていたんだが...。そうすると、何とかなるかもな。」

 と、何か思いついたようなことを言った。

「アイツらは、人族には興味がない...というか、『無視』しているんだが、それ以外の種族に対しては友好的なんだ。」

「もしかしたら、アンタたちだったら話くらいは聞いてくれるかもな。」

 なんと、もしかしてこのちびっ子聖女が「初めて」俺の役に立ったのかもしれない。でかしたぞ、ちびっ子。

「・・・もしかしてアンタ、『初めて役に立ったな』とか思っているんじゃない?」

 と、俺をジト目で見るちびっ子聖女である。何故バレたし。

 しっかし、本当に人族は他種族に嫌われているね~。これは、後々苦労するかもしれないな。

 俺は、その後も情報収集を行い、情報をくれた冒険者たちに情報料を渡して、夕食を摂った後、疲れがたまっていたのかすぐ寝てしまった。

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 翌日、俺たちは食料などの消耗品を補充した後、温泉のある場所に向かって町を出た。

 途中、何度か魔物の襲撃を受けたが、全ておいしくいただきました。いろいろな意味で。

 そうしているうちに、遠くの方に湯気が立っているのが見えてきた。

「あっ、湯気が見えてきたわ。あそこに『温泉』があるのね?」

 ワクワクしながら、聖女が聞いてきた。

「多分そうだな。『温泉』までもう少しだ。」

 そうこうしているうちに、辺り一帯から湯気が立ち上っているところにある「旅館」のような建物に着いた。

「ここが『ハーフリング』の夫婦が経営している宿屋なのね。」

「そうだな、まずは温泉を楽しんでから話を聞いてみるとするか。」

「そうね!早く入りましょう!!」

 と言って、ちびっ子聖女が俺の手を引いて旅館に入っていった。

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