勇者の軌跡21:勇者、偶にはいいことをする
「くらえ!『ルス●トルネぇぇーーードぉぅ!!』」
「ギガガガガ...」
<勇者の攻撃!勇者は武装を使った!ミスリルゴーレムをすべて倒した!勇者と聖女は経験値を得た!レベルアップまであと少し!>
はい、今俺たちは4階層でまたもや予想通りと言うかひねりも何もないというか、魔物の大群を倒したところです。
デカメイド嬢曰く、ここは「ザコゴーレム」と言う石の魔物(ゴーレム)が配置されていたらしく、貴重な石材の供給場所となっていたそうだ。
まあ、俺たちはそれよりはるかに希少価値が高い「ミスリル銀」を目の前にしているんだけどな~。
流石に我慢が出来なかったらしく、デカメイド嬢は興奮しながら俺にお願いしてきた。
「ゆ、勇者様!これを少し、いえ、ほんの一欠けらもらってもよろしいでしょうか!?私のできることでしたら、何でもします!!どうかお願いします!!!」
相当必死だなおい、これはこの娘が銭ゲバなのか、ブラックな職場環境なのか分からんな。まあ、両方かも知れんが。
あと、「何でもする」って言ったよね?つーことは、あんなことやこんなことをしても文句はないと。おいこら聖女、背中に怒りの籠った「暫●拳」を放つんじゃない。地味に痛いわ。
「いや、別に俺はいいけどさ、あとでバレたら責任は持たないけどおK?」
そう言うと、冷静さを取り戻したデカメイド嬢は考え込んでしまった。
「・・・懲罰は流石にまずいわね。下手すると奴隷落ちになるから...、でも、目の前にある宝の山を見逃すわけにも...、う~~~~~ん...。」
うんうん唸っているデカメイド嬢に、俺は「これはブラックの方だな。どんだけ搾取しているんだ、あの銭ゲバ所長。」と同情しつつ、最下層の情報を聞いてみた。
「・・・え?あ、つ、次の階層のことですね?えーっと、最下層は魔物がいない『はず』です。」
ん、そう言えばそんなこと最初に言っていたな。ラノベでよくあるダンジョンだったら最下層にはボスがいて、それを倒すとダンジョンから出る転移魔方陣が出るもんだが、この世界は違うのか?
「いえ、最下層には確かに勇者様の仰られていた『ボス』は居たのですが、
なるほど。ラノベによくあるボスを倒すとダンジョンが消えてなくなるとかはないのね。ボスのリポップ(復活)も無いみたいだし。あと、「地上への転移魔方陣」はないそうだ。
「ということは、あの魔物の大群を配置した『元凶』がいるってことかしら?」
お、珍しく聖女が鋭いことを言っているな。これは、明日空からミサイルでも降ってくるかな?やだそんなの、面倒くさい。
「ほんじゃま、その『元凶』さんと『おはなし』しに行きますかね~。(ニヤリ)」
「アンタ、いつもながら悪い顔をしているわよ...。」
俺が意気揚々と次の階層に行こうとすると、聖女がそんなことをほざいてきた。デカメイド嬢も「うんうん」と同意している。何故だ。
俺たちが最下層に入ると、何もない広場に子供みたいな姿をした魔物?が驚愕の顔をしてぽつんと立っていた。
「あ、アンタたちどうやってここまで来たのっ!?ま、まさかアタシが配置したモンスターを『全て』倒してきたのっ!!?」
アホみたいな顔をして突っ立っていたちびっ子がそう叫んだ。あ、よく見るとコイツ「魔族」だ。えー、またですかー。
「そうよっ!あの程度の魔物なんて、私たちにかかれは有象無象と同じだわっ!!」
と、聖女がドヤる。いや、お前倒してないやん。全部俺が倒したやろがい。
「くっ、...まあいいわ。アタシは『サキュバス』。これでも『魔王様』の信頼が厚い部下なのよ?」
ちびっ子魔族が頼んでもいないのに自己紹介を始めた。
「えっ!?お前あの『サキュバス』なの?...ああ、『子供』の『サキュバス』なのね?親御さんはどうしたの?あんなことをしちゃだめでしょー?」
ここでもちみっ子王女と同じように、優しい勇者さんを演じた。すると、
「おいこら待たんかいワレ、アタシはこれでも『立派な』大人じゃ!あんまりいちびっとるといてこますぞボケ!!」
あれ、何かまた関西弁で怒られた。解せぬ。というか、この世界の「サキュバス」ってちびっ子なの?!そっちの方が驚きだわ!!
そう思ってちびっ子聖女とデカメイド嬢の方を向くと、聖女は「知らない」、デカメイド嬢は「そうです」という反応を見せた。マジでか。
俺が凹んでいると、デカメイド嬢がそのちびっ子サキュバスに向かって叫んだ。
「な、何でこんなことをするんですかっ!こっちは困っているんですよ!?」
まあ、そうだな。分かるぞ、その気持ち。
「いろいろ仕事が増えて大変なんですから!仕事が増えても給料増えないんですよ!!いい加減にしてくださいっ!!」
思いっきり個人的事情だったでござる。あと、それはあの銭ゲバ所長に言いなさい。
「そんなこと決まっているじゃない。でも教えてあげなーい♪」
そんなことをこのちびっ子サキュバスがほざきおった。あ、ちょっとムカついた。理由はある程度察しているが、これは直接本人の口から言わせないといけないな。さあ、「
「と言うわけで、秘技『高●式交渉術』!『さしすせそ』の『さ』!!」
俺はそう言うと、ちびっ子サキュバスに猛スピードで近づき、斧爆弾(和訳)をかました。まずは1HIT!!
<●町式交渉術「さ」:先んじて撃て(先制攻撃)>
お、説明あ~りが~とさ~ん。
「続いて、『さしすせそ』の『し』!おらおらおらおらぁ!!」
苦しそうに首を抑えているちびっ子サキュバスをタコ殴りにした。
<高町●交渉術「し」:しこたま撃て(飽和攻撃)>
「ちょ、ちょっと待っt」
何かちびっ子サキュバスが言っていたようだが、気のせいだな、うん。
「『さしすせそ』の『す』!コンボ発動!!」
俺はパンチやキックを織り交ぜながら、連続して必殺技をぶちかました。
<高●式交渉術「す」:すかさず撃て(連続攻撃)>
ちびっ子サキュバスは既にズタボロの状態だ。
「『さしすせそ』の『せ』!バックアタック!!」
俺は背後に回り、「鉄●靠」を放った。ちびっ子サキュバスはその勢いで広場の端まで吹っ飛んでいった。
<●町式交渉術「せ」:背中から撃て(背面攻撃)>
広場の端で
<高町●交渉術「そ」:それから話を聞いてやれ(停戦交渉)>
「・・・アンタ、女子供にも
こちらに歩いてきた聖女が、ドン引きしながらそんなことを言ってきた。当然である。何事も遊び半分でやってはいかん。
ちなみに、同じくドン引きしているデカメイド嬢は少し離れた位置で待機させている。非戦闘員は近寄っちゃダメです。いろいろ危険だから。
あ、あと、これは「戦闘」ではなく「交渉」なので、コマンドは出ませんでした。多少「戦闘」らしきことはしたけどな。「交渉」に力は必要。力こそパワーだ。
聖女の精霊術で無理やり起こされたちびっ子サキュバスは、俺を見て「ひっ」と悲鳴を上げた。うむ、「躾」は十分だな。はっはっはっ。
それから、このちびっ子サキュバスから事情を聴いた。終始怯えていたが、そんなの関係ねぇ。おっぱっぴー。
話によると、ここで「モンスタースタンピード」を発生させ町を壊滅させようとしていたこと。このダンジョンの魔物はクソ雑魚ナメナメクジクジナメクジクジだったので、ご丁寧に強化してやったこと。
あと、これは全て「魔王」からの指示で、世界中のあちこちで同じようなことをやっていることが分かった。
全く、面倒くさいことをしやがって!いい迷惑だわ!!うん、決めた。魔王をぶっ飛ばす。元からそのつもりだったが、面倒くさいことをしやがった元凶は排除するのみ!
「あの~、それで、アタシはどうなるのでしょうか...?」
ちびっ子サキュバスが、そんな眠たいことをほざきおった。
「ん~、このままあの銭ゲバ所長の前に突き出してその場で始末してもいいし、アンタが証人となるのであればここで始末してもいいけど、どうする?」
俺がデカメイド嬢に確認を取ると、少し考えて彼女は答えた。
「・・・そうですね、所長の前に突き出した方が確実なのでしょうが、何か嫌な予感がしますから、この場で始末をお願いします。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!見逃してくれるんじゃなかったの?!」
ちびっ子サキュバスが、絶望した顔をして俺に言ってきたが、そんなこと知らん。
「いつそんなこと言った?悪いことをしたツケはしっかり払ってもらわねぇとなぁ?てなことで、あとは聖女よろしこ。」
と、俺が聖女に振ると、彼女は「え?」と言う顔で俺を見た。
「え、私が?アンタがするんじゃないの?」
まあ、話の流れからするとそうだな。
「別に俺でもいいけど、もう少しでレベルが上がるんだから、お前が倒しなさい。『聖女』になって覚えた神聖魔術の確認にもなるだろ?」
そう俺が言うと、聖女は少し考えて了承した。
「分かったわ。そういうことなら、私がとどめを刺すわね。という訳で、あなたに恨みは...、結構あるけど、悪く思わないでね?」
そう言って、聖女が神聖魔術をちびっ子サキュバスに向かって放った。
「キャアアアアアア!」
神聖魔術を食らったちびっ子サキュバスは、塵になって消えていった。前の時もそうだったが、魔族って、死ぬとき塵になるのか?どうでもいいけど。
「・・・ふう、無事にレベルが上がったわ。ありがとう。」
無事サキュバスを倒した聖女が笑顔でお礼を言ってきた。うむ、もっと感謝しなさい。
「これで、このダンジョンも元の状態に戻るんですね?」
「多分な。ん?元に戻るということは、もしかして残してきたアイテムも消えるのか?」
デカメイド嬢の質問に俺が答えると、彼女の顔が青くなった。
「そ、そんなことは...、い、急いで確認しましょう!!」
デカメイド嬢は、物凄いスピードで戻っていった。お前、下手すると俺らより足早いんじゃね?というか、俺たちを置いて行くな。リポップした魔物に会っても知らんぞ?あ、そう言えばあの「ミニスカメイド服」は魔物の認識を阻害するんだったな。忘れてた。
俺らがデカメイド嬢に追いついたとき、地面にへたり込んだ彼女がアイテムが「あった」場所を見つめていた。
何とか失意のズンドコ(誤記ではない)から這い上がってきたデカメイド嬢と一緒にダンジョンを出て町に戻ると、報告書をまとめるために仕事斡旋所に戻った彼女と別れた。
「ところで、俺の認識では『サキュバス』って、相手を魅了する術を使ってくるんじゃないのか?」
そう俺が隣を歩いている聖女に聞くと、彼女は呆れたような顔をして、
「何言ってるのよ、私たちがあのサキュバスと会った時からずぅーーーーっと魅了術を受けていたわよ。何故か分からないけど私達には効かなかったけどね。」
そうなのか?「勇者」だからそういう状態異常系は効かないとかあるのか?たとえそうだとして、俺の周りの者もその恩恵を受けているのかな?まあいい。分からんことを考えても時間の無駄だ。
そんなことを思いながら、俺たちは少し早いが宿屋に戻って行った。
・・・あっ、あのちびっ子サキュバスに説教するの忘れてた!けど、まあいいか。説教しても無駄になったし。
----------
次の日、報酬をもらいに仕事斡旋所に行くと、目の下に隈を作ったデカメイド嬢(受付嬢姿:以降「デカい嬢」)が迎えてくれて、一緒に所長室に入った。
「報告書は先ほど確認しました。まさか『魔族』の仕業だったとは...。」
そう言って、所長は難しい顔をした。
「それで、報酬の件だが。」
俺がそう言うと、所長は覚悟を決めた顔でこちらを見た。
「これだけの金額をくれ。あとこれは『報酬』ではなく『勇者』としての『お願い』だけど、ここの職員の待遇を良くしてあげなさい。特に給料の面。」
金についてはそこまで困っていないから、一般的な報酬額を要求した。俺からしたら大した苦労も危険もなかったからな。
待遇については俺の気まぐれだ。ちょっとしたお節介だな。
それを聞いた所長とデカい嬢は、「え?」と言う顔をした。
「金に執着するのも程々にしておきな。そんじゃ、これで依頼達成だから、報酬をもらったら帰るわ。お疲れ~。」
そう言って部屋を出る際、所長とデカい嬢が深々と頭を下げた。
----------
「ふふっ。」
突然、聖女がこちらを見て笑いかけてきた。何それキモイ。
「アンタも、偶にはいいことするのね。」
「まあな、これでも『勇者』だからな。」
俺がそう答えると、おもむろに聖女が腕を組んできた。
相変わらず何の感触もないが、彼女が楽しそうなら別にいいか。あったかいし。
「さて、次はどこに行きますかね~。」
そう言って、報酬を受け取った後、町で消耗品の補充や装備の更新をしてから、宿に戻った。
高町ファンの皆さん、ごめんなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます