勇者の軌跡20:勇者、同じ展開に辟易する

 えー、現在銭ゲバ所長の依頼でデカメイド嬢と一緒にダンジョン2階層を調査中です。

「えっと、ここには『ザコワーム』と言う、人族の子供くらいのサイズになったミミズの魔物が生息しているはずなんですが...。」

 と言って、目の前の光景を見るデカメイド嬢。

 そこには、広場を埋め尽くさんばかりの巨大なミミズ達がうにょうにょしていた。

「あれって、もしかしなくても『ジャイアントワーム』でしょ。」

 聖女が冷静な分析をする。ていうか、お前見たことあるんかい。

「直接見たのは今回が初めてよ。年長エルフたちが話していたから覚えていただけ。」

 あっそ。んじゃま、ここもきれいにして先に進みますか。

「あ、そうだ。このまま俺が倒したら、お前聖女に経験値が入らないから、何か補助魔術かなんかかけて『一応』戦闘に参加してくれるか?」

 1階層で俺が動く木を一人で全部倒しちゃったから、聖女に経験値が入らなかったんだよな。

「・・・分かったわ。とりあえず何か適当な強化魔術をかけておくわね。」

「おう、それじゃあ早速...、って、あれ?アイツらどこに行った?」

 俺がいざ戦闘を始めようとデカミミズ達の方を見たら、対象がいなくなっていた。あれ、逃げた?「勇者からは逃げられない」が発動していなかったけど。

「おそらく、地中に潜っていて、こちらが動いたら襲い掛かってくるのだと思います。」

 とデカメイド嬢が説明してくれた。

 ほほう、小癪こしゃくな真似をしてくれるじゃあーりませんか。


 <ジャイアントワームたちが現れた!ジャイアントワームたちは地中に潜って様子をうかがっている!コマンド?>


「地中にいるのであれば、出てきてもらいましょうかねぇ。と言うことで、」


 コマンド一覧

[たたかう]

[ぼうぎょ]

[まじゅつ]

[アイテム]

[ちょうひっさつわざ][パワーゲイザ●]←New!!

[にげる]


「そんなところに隠れていないで、出てきなさーい。超必殺技、『パぅワぁぁぁぁ、●イザぁぁぁぁぁぁっ!!』」

 と言って、俺が地面をぶん殴ると、巨大な「気」の間欠泉かんけつせんがそこら中から噴き出した。

 ズドドドドドドドォッ!!

「「「ギャアアアアアアッ!!」」」

 それを食らったデカミミズどもは、地上に出てきた途端に倒され、消滅していった。


 <勇者の攻撃!勇者は超必殺技を使った!ジャイアントワームたちをすべて倒した!>

 <勇者と聖女は経験値を得た!レベルアップ!聖女はいろいろ強くなった!>


 うん、聖女はレベルが上がったな。良きかな良きかな。まあ、俺はさっき上がったから仕方ないか。

「・・・何だろう、強くなってうれしいはずなんだけど、何だか釈然としない。」

 何か聖女がブツブツ言っているが、最近は戦闘後によくこうなるので気にしない。キモイし。

 ・・・で、あとに残されたのは、巨大な「茶色」の物体。え、もしかして「うんk『違います。』」

 さっきより早く再起動したデカメイド嬢が、速攻で否定した。おかしい、声に出していないはずだが、もしかして「エスパー」か?

「あれは、『良質な土』です。ここで採取できる土は、畑には不可欠なもので、これのおかげで作物の量と質がほかの場所と比べて高いのです。決して『う●こ』ではありません。」

 なるほど、確かにミミズは土壌を良くするって言うからな。しかしアンタ、俺が言おうとしたことをはっきりと言ったね。そのミニスカメイド服から見える御御足おみあしで聞かなかったことにしてあげませう。


 そんなわけで、障害物がなくなった俺たちは、3階層に向かった。

 デカメイド嬢がデカミミズたちが残したうn...良質な土を欲しそうに見ていた。もしかしたら、こいつも所長と同じ銭ゲバなのかもしれん。

 ----------

 3階層に来ました。で、

 ま た こ の 展 開 か 。

 目の前に、またもや性懲りもなく魔物がひしめき合っていた。

「え~、もしかして4階層もこんな感じなのか?いい加減飽きてきたんだが。」

 同じネタの連続使用は2回までだぞ。まったく、これだから素人は困るんだ。同じネタが受けたからと言ってずーっとやっていたら、そりゃあ飽きますわな。これは説教だな。

「この状況で『飽きた』と言えるのがすごいというか、なんと言うか。」

 聖女が呆れた声でそう言った。ふむ、ようやく俺の素晴らしさが分かってきたようだな。もっと褒めたまへ。

「えっと、この階層には、『モブピッグ』と言う豚の魔物が生息している『はず』なんですが...。どう見ても違いますよね?」

 お、ようやくこのデカメイド嬢も慣れてきたようだな。結構結構。

「そうだな、『豚』というより『猪』だなありゃ。」

「あの姿からすると、『マッスルボア』じゃないかしら?」

 まだ距離があるというのに、聖女が魔物の姿を見てそう言った。

「お前、あんなに遠くのものが見えるのか?」

「まあね、エルフ族は『狩猟民族』だから、遠目が利くのよ。」

 大平原の小さな胸を張って聖女がドヤる。無意識かもしれないが、何だか哀れである。

「んで、あの猪どもは今どんな状態だ?」

 遠目が利くらしいので、どういうアクションをしてくるか聞いてみた。

「・・・何か、足で地面を蹴っているみたいね。突進してくるんじゃないかしら?」

 ほう、ここの猪もそういう行動をとるのか。「猪突猛進ちょとつもうしん」は全世界共通なのか?

「ほんじゃま、ここもきれいにお掃除しましょうかねぇ。聖女は念のため、俺の後ろに下がって結界を張っていてくれ。」

「・・・分かったわ。それじゃあ無駄に胸『だけ』デカいアンタ、結界を張るからこっちに来てくれる?」

「あ、はい。分かりました。」

 何を張り合っておるのだこのちびっ子聖女は。まあいい、そんなことよりこっちの準備をするかな。


 <マッスルボアが現れた!マッスルボアたちは勇者に向かって突進してきた!コマンド?>


「『薙ぎ払う』と言ったら『アレ』でしょう。と言うことで、」


 コマンド一覧

[たたかう]

[ぼうぎょ]

[まじゅつ]

[アイテム]

[しょうかん][巨神●]←New!!

[にげる]


「出でよ、破壊の限りを尽くした古の兵よ!そして我が命に従い目の前に迫りくる有象無象を薙ぎ払え!!」

 俺が「しょうかん」を選ぶと、某ナウ●カに出てきた巨●兵が現れた。

 その直後、●神兵の口からビームが発射され、目の前に迫ってきていた「マッスルボア」たちを薙ぎ払った。


 <勇者の攻撃!勇者は古の生物兵器を呼び出した!生物兵器の攻撃!マッスルボアたちをすべて倒した!>

 <勇者と聖女は経験値を得た!レベルアップ!勇者と聖女はいろいろ強くなった!>


 お、やっとレベルが上がったな。いやー、月並みだけど強くなるってワクワクするな。

 そんなことを思っていると、召喚した巨神●がドロドロになって崩れ落ちてしまった。


 <古の生物兵器が消滅しました。今後この生物兵器は使用不可となります。>


 へぇ、召喚した者が消滅すると、使えなくなるんだなー。まあ、別にいっか。特に困ることはなさそうだし。つーか、ここも原作通りかよ。

 などと思いながら、マッスルボアがいたところを見ると、何故かミートペーパーに包まれて、ご丁寧に紐で縛られている精肉が山積みになっていた。

「うう、欲しい...。でも『調査』が目的だから、これを持って帰って、もしばれたら懲罰動議にかけられちゃうよぉ...。」

 と、恨めしそうな顔をしたデカメイド嬢がそう呟いていた。まあ、気持ちは分からんでもないが、諦めろ。

「そういえば、これって、ここに置いて行っても腐らないのか?」

 ふと疑問に思ったので、デカメイド嬢に聞くと、

「あ、はい。このダンジョン内で落としたアイテムは、時間経過が止まっているようで、腐敗などは一切しません。」

 だそうだ。へーへーへー。(ボタンを押す仕草をする)

 ラノベでまず間違いなく出てくる「インベントリ」とか「マジックバッグ」みたいなもんなんだなー。知らんけど。


 そんなわけで、俺たちは「どうせまた魔物がてんこ盛りなんだろうなー」と思いながら、4階層に移動した。

 移動している途中で、俺はふとマッスルボアの成れの果てである精肉の山積みを見て、

「飛ばねえ豚はただの豚だ(キリッ)」

 と言うと、聖女が呆れたような顔で、

「何『キリッ』とした顔で意味の分からないことを言っているのよ...。」

 などとほざいた。解せぬ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る