勇者の軌跡18:勇者、初ダンジョンアタックする

 あの後、3回ほど賊の襲撃を受けたが、何の問題もなく打ち払い、順調にレベルも上がり、無事(?)町に着いた。

 宿屋に泊まった翌日、俺たちは情報収集のため、仕事斡旋所に向かった。

 斡旋所に着くと、いかにも西部劇のバーのようなスイングドアを開き、中に入った。

「お邪魔しまんにゃわ~。」

 入るときに挨拶は必要。これ常識。ほれ、聖女もしなさい。

「お、お邪魔しまんにゃわ...?」

 む、まだ羞恥心があるのか。いかんな。まだまだ「芸人」として鍛えねばならん。これは俺の「義務」だからな!

「・・・アンタの思っていること、全部まるっとごりっと違うからね。」

 聖女が呆れたような声でそう言った。何故だ。

 中に入ると、全員から一斉に注目を浴びた。主に聖女の方に、だが。

 すると、奥にいるいかにもモブ冒険者らしい禿げ散らかしたおっさんが、聖女に向かって禁断の言葉を口にした。

「あん?ここはガキの来るところじゃねえぞ?さっさと帰ってママのおっぱいでも飲んでぐぼらぁっ!!」

 おう、こりゃまた見事な「バー●ナックル」がおっさんの顔面にクリーンヒットしたな。「口はわざわいの元」でっせ、おっさん。

 攻撃を食らったおっさんは、ものすごい勢いで吹っ飛ばされ、壁をぶち抜いてそのまま星となった。合掌。

 そんなラノベのテンプレイベントをこなした俺たちは、受付に行って要件を説明した。

 あ、くだんのトラブルに関しては、俺が「勇者」とわかると、ここのご厚意で「何もなかった」ことになった。別に何も「力」は使っていませんよ?職員たちは怯えたような目をしていたが、気のせいだ、うん。

 んで、応対した受付嬢(ラノベのテンプレらしく美人で巨乳、年齢は21歳)の話を聞いた限りでは、特に目新しい情報はなかった。残念!

 さて、どうすっかな~、と思っていたら、美人巨乳受付嬢がおもむろにこんなことを言ってきた。

「勇者様、もしよろしければ、お願いしたいことがあります。」

 ん?またか。何か町に着くたびお願い事をされるのだが、これは「勇者」の宿命なのか?やだそんなの、面倒くさい。

 まあ、今回は美人巨乳お姉さんがお願いしているから、受けてやるか。おっと聖女よ、俺の後ろで殺意の波動を漏らすのはやめたまへ。

「んー、内容によるけど、何?」

 一応、予防線を張っておく。小間使いみたいなことをやらされるんだったら、後ろの殺意の波動を漏らしている娘をけしかけてとんずらする。

「ありがとうございます!実は、この町の近くに『ダンジョン』があるのですが、そこの調査をお願いしたいのです。」

「え?ダンジョンってあるの?」

 いや、ダンジョン自体はあると思っていたけどな。本当にあるとテンション爆上がりだな。「異世界」で「ダンジョン」はマストアイテムだろう!(偏見)

「はい、詳しくは所長の方から説明がありますので、所長室にご案内します。さ、どうぞこちらへ。」

 と言うと、美人巨乳受付嬢は俺の手を取り、所長室のある2階へ連れて行ってくれた。

 反対の手は、嫉妬に満ちた顔の聖女に両手でがっちり握られていた。傍から見ると、親に無理やり引っ張られていく小学生のようだ。


 所長室に着くと、中に通され、受付嬢は戻っていった。同時に聖女から殺意の波動が消えた。

「勇者様、この度は我々のお願いを引き受けていただき、誠にありがとうございます。」

 所長と思われるおっさんが、深々と頭を下げた。

「いや、まだ引き受けるとは言ってないけど...、で、その『調査』って何をするの?」

「は、はい。実は、町の近くのダンジョンで『モンスタースタンピード』の兆候があるのです。」

 モンスタースタンピード...、ダンジョンからモンスターがあふれ出すやつか。ラノベイベントでよくあるものだな。

「モンスタースタンピード...、あれって確か、ダンジョンを長年放置していてダンジョン内にモンスターが一杯になったときに起こるって聞いたことがあるんだけど?」

 聖女が思い出したかのようにそう言うと、所長が、

「はい、確かにその通りなのですが、私たちにとって『ダンジョン』は貴重な収入源なので、管理を怠ったことはないのです。」

 と言った。

 この世界の「ダンジョン」は、今言っていたように管理を怠るとモンスターがあふれて多大な被害を出す「らしい」のだけど、きちんと管理しておけば、いろいろな資源は取れるし、モンスターは素材として高く売れるそうなので、町からすれば「金の生る木」なのである。

 そりゃあ、むざむざ「金の生る木」を枯らすようなことはせんわな。

「なるほど、それでダンジョンの『調査』をしてほしいということね。」

 こら、俺のセリフを取るな、このロリババア。泣くぞ。

「私はいいと思うけど、アンタはどう?一応、リーダーだし。」

「報酬次第だな。まさかと思うけど、『勇者』だからってタダ働きさせようって魂胆こんたんじゃないよな?」

 そう俺が指摘すると、所長のおっさんは明らかに動揺した仕草をした。

「そそそ、そのような事は...、ゴニョゴニョ」

 こいつ、そのつもりだったな。罰として、あの受付嬢をくれ。それで手を打ってやろうではないか。なんと慈悲深い勇者様なんだろう。

 てなことを思っていたら、横にいたアホ聖女がとんでもないことを言い放った。

「私は別にいいわよ?人助けをするのが『勇者の使命』なんでしょう?」

「お前は何を言っているのだ。仕事に対する報酬を払うのは当然のことだ。『勇者』だから無償で引き受けるだろうと思われたら困るZE?」

「それじゃあ、この依頼は断るの?」

「それは、このおっさんの態度次第だな。俺は『仕事を依頼するなら、それに見合った報酬をくださいね』と、至極真っ当な事を言っているだけだ。」

 俺が王都で小間使い扱いされていたけど、無償ではやっていない。金額の大小はあれど、きちんと報酬をもらっているのだ。

「俺らに依頼したってことは、それなりの危険があるんだろ?危険がなければ自分たちで行くからな。で、どうすんの?」

「・・・・・・」

 所長のおっさんは黙りこくってしまった。

「別にやってもいいぞ?俺もここで断った後で町に被害が出たら、寝覚めが悪いからな。」

「そ、それでは...?」

 おっさんは顔を上げて、助かったような顔をしたが、

「その代わり、報酬はこちらの言い値になるけど。当然だよな?こちらとしたら依頼を受けて『あげる』立場なんだから。」

 と、俺が提案した。さて、どうする?

「わ、わかりました。それで結構ですので、お願いします...。」

 所長のおっさんは、苦虫を100匹ほど嚙み潰したような顔をして俺の提案を了承した。ざまぁ。

「よし、契約成立だな。念のため契約書を作成するか?言っておくけど、もし反故にするようなら『勇者』権限で『ものすっごく酷いこと』をするからね?おK?」

「は、はい...もちろん、そのような事は致しません。」

 所長は青い顔をして頷いた。よし、言質げんちはとった。別に脅してなんかいませんよ?ククク(悪魔の笑み)。


 その後、依頼内容を聞いて、仕事斡旋所を後にした。

「ねえ、何もあそこまでしなくてもよかったんじゃない?」

 と聖女が言ってきた。流石は聖女様、慈悲深いこって。

「かもしれんが、俺はああいう『勇者だったらタダでやってくれるだろう』と来る奴が大っっっっっっ嫌いでな。そんな奴に希望通り無償でやったらつけあがるだけだから、ここで釘を刺しておく必要があるんだ。」

「・・・確かに、そう言われればそうなんだけど。あ、もしかして、『転生者』の記憶の影響とか?」

「まあ、それもあるかもしれんな。それじゃあ明日の準備をしに市場へ行くか。」

「そうね!」

 ・・・さて、あの所長は大人しくしているかな?もし逆恨みでこちらを襲撃してきたら、容赦なくこの町を地図上から「文字通り」消し去るだけだ。

 一応、民衆に被害が出ないように配慮はするか。恨むんだったら欲の皮が張ったあのボケ所長にするんだな。グフフ。

「・・・ねえ、今ものすごっく悪い顔をしていたわよ?」

「誰が『オークみたいな醜い顔をしている』じゃ!『イキュラス●ュオラ記憶消去』すんぞボケ!」

「言ってないわよ、そんなこと...。」

 そんなことを言いながら、市場を回って準備を整えていった。

 ----------

 翌日、俺が期待(笑)していたことは残念ながら起きず、何事もなく町から歩いて10分位の所にある、目的のダンジョンに着いた。

 すると、ダンジョンの入り口にいた人物に声をかけられた。

「お待ちしておりました。」

 そこには、意外な人物が待っていたのである。

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