勇者の軌跡15:勇者、珍しく勇者らしい行いをする

「隊長、ここは我々では防ぎきれません!」

「よし、お前たちは下がれ!第4小隊、交代して魔物からの侵攻を防げ!」

「はっ!」

「隊長!第2魔術師隊準備できました!」

「よし、魔術師隊攻撃開始!魔物どもを殲滅せんめつせよ!!」


 えー、現在例の魔物に襲われている南の町で、討伐隊が魔物の大軍団と戦闘中であります。

 しっかし、アホみたいに魔物が多いな。辺り一面魔物だらけじゃねーか。

 そりゃあ、少しばかりの討伐隊を差し向けても役に立たんわ。まさに数の暴力。戦いは数だよ兄貴!だな。

 それにしても、いろいろな魔物がいるなー。ゴブリンやコボルト、ウルフタイガーもいる。時々いる色違いは上位種なのかな?

 お、あそこにちみっ子王女がいる。

「オホホホホ!私に逆らうなど、百万光年早いのですわ!!」

 おー、ウルフの軍団を片っ端から撲殺している。あんなちっこい体なのに、すごいパワーがあるな。あとちびっ子らしくすばしっこい。

みなぎってまいりましたわーっ!」

 あのちみっ子王女、ここに来るまでは戦闘の役に立つのかいな?と思っていたけど、いざ戦闘に入ると思いっきりバーサーカー(狂戦士)になるのね。

 あいつ護衛いるのか?ってくらい強いわ。あれでボンテージファッションを身に着けてむちを持っていたら、「ちみっ子王女」ならぬ「ちみっ子女王様」だわ。

 あと、「光年」って俺の認識では「距離」の単位で「時間」の単位ではなかった気がするのだが...、この世界では違うのかもしれんな。

「・・・で、アンタは何をしているの?」

 兵士の傷を癒していた聖女が、こちらにやってくるなりジト目でそう言った。

「ん?こいつが無謀にも俺にバックアタックを仕掛けてきたので、罰として『骨抜き』にしてやっているのだ。」

 そう言った俺のそばに、仰向けになって腹をモフモフされているブレードタイガー(上位種)がいた。

「うにゃぁ~、ゴロゴロ...。」

 ブレードタイガーとしての迫力はどこにもなく、ただのデカい猫に成り下がっていた。

 こいつが襲ってきたときに、「タイガーって猫だよな?『チュー●』を与えるとどうなるかな?」と思って、実際に「チ●ール」を与えたら、攻撃をやめて一心不乱にペロペロしだしたので、「モフる」でムツゴ●ウさんみたいに「よーしよしよし。」とモフリ続けて今に至る。

「ブレードタイガーの上位種って、結構な強さなんだけど、アンタにかかるとただの猫になるのね...。」

 聖女が、感心を通り越して呆れている。何故だ。

「ということで、討伐よろしこ。」

 ふにゃふにゃになったブレードタイガー(上位種)は、成すすべなく聖女の精霊術で倒された。


 <聖女の攻撃!聖女は精霊術を使った!ブレードタイガー(上位種)を倒した!>

 <勇者と聖女は経験値を得た!レベルアップ!勇者と聖女はいろいろ強くなった!>


「うわっ!何!?今頭の中で変な声がしたわよ?!!」

 ほぅ、俺が「コマンド」を使った敵を俺以外が倒しても、あのアナウンスが流れるんだな。ちなみに、俺はもう慣れた。

「心配するな。俺が関わった戦闘に参加すると、頭の中で説明してくれるみたいだ。」

「そ、そう...。それにしても、最後の説明が結構雑なのね...。」

 聖女は、そんな感想を漏らした。分かるぞ。最初の頃の俺もそうだったから。


 それからさらに数刻経過。

 魔物の大群はようやく殲滅された。よかったよかった。

「勝ったぞー!」「うおおおお!」「やったー!!」

 あちこちで勝鬨かちどきを上げる声が聞こえてきた。

「勇者様!流石でございますわ!!あの魔物の大群を一瞬で壊滅させるなんて、私、感動いたしましたわっ!!!」

 と、やたらテンションが高いちみっ子王女がこちらにやってきてそう言った。

 実は、ついさっきまで討伐隊がわちゃわちゃしていて、一向に数が減らなかったので、面倒くさくなった俺が「ボルテッカ・インフェルノ」を使って魔物ごと辺り一面焼け野原にしたのだ。

「・・・最初から、アンタがやっていれば簡単に終わったんじゃないの?」

 聖女がそんな事をぬかしてきた。違うんだなー、そうじゃないんだよ。

「チッチッチッ、甘いなちびっ子聖女。そんな事をしたら、討伐隊の経験にならないだろうが。」

「なんと!私たちのために『あえて』戦われなかったのですのね!素晴らしいですわ!!」

 ちみっ子王女が感動している。うむ、苦しゅうない。もっと褒め称えよ。

「・・・絶対『面倒くさいから参加しない』と思っていたわよね。」

 などと聖女がつぶやいていた。失礼な。まったくもってその通りだ。

「それでは勇者様。後片付けが済みましたら王都に戻りましょう。私、手伝ってまいりますわ!」

 と言って、ちみっ子王女は後片付けをしている兵たちの元へすっ飛んでいった。何ともアグレッシブな王女だ。

「やれやれ、ようやく終わったわね。」

 そう聖女が言ったとき、俺のニュータイプの勘が「キラリラリーン☆」と働いた。

「いや、『この事件の黒幕』を倒していない。」

「え?」

 聖女が素っ頓狂な声を上げるが、俺は気にせず、

「ほんじゃま、ちょっくら行ってくるわ。秘技『ご都合主義ワープ』!!」

 そう言って、俺はその場から姿を消した。

 ----------

 ここは南の町を一望できる小高い丘。

 そこに、一人の魔族が立っていた。

「な、何だあれは...。あれだけの魔物が、たった1回の魔術で壊滅だと...?」

 彼は、たった今起こったことが信じられなかった。

 実は、この魔族が魔物たちをけしかけ、街を襲わせていたのだ。

 あと少しで町を潰すことができたところに、一発の火炎魔術が魔物の集団に襲い掛かり、全てを燃やし尽くしてしまったのだ。

「信じられん、いったい何者が...。」

 そう呟いていると、後ろの方から突然、魔力の反応が現れた。

 魔族が慌てて振り向くと、そこには一人の少年が立っていた。

 ----------

 俺がワープアウトしたところに、一人の男が驚いた顔をして立っていた。まあ、突然現れたらそうなるわな。

「よう。お前さんが『この事件の黒幕』だな。ん?もしかしてお前、『魔族』なのか?」

 俺はそう話しかけた。まさかとは思うが、念のため、確認は必要だ。

 すると、その男は、

「なっ!お、お前は何者だ!?なぜ俺が『魔族』だと分かったのだ?!!」

 などと言いおった。アホだコイツ。わざわざ自分から正体を明かしたな。

「何だ、本当に『魔族』だったのか。あの担当者の言っていたことが正しかったのか...。」

 うーむ、まさか本当に当たっていたとは。担当者よ、アホ呼ばわりして済まなかった。しかしなんか悔しいのう。悔しいのう。

 そんなことを思っていたら、魔族の男が、

「くそっ、一時撤退だ!」

 などと抜かして逃げようとしたので、素早く回り込んで、逃げ道を塞いだ。

「なっ?!」

「チッチッチッ、『勇者からは逃げられない』のだよ。」

「なっ、『勇者』だと?!それでは、お前が...」


 <魔族は逃げだした!しかし、勇者に回り込まれてしまった!コマンド?>


 うーん、「魔族」と言ったら「闇」、「闇」と言ったら「光」。ということで、


 コマンド一覧

[たたかう]

[ぼうぎょ]

[まじゅつ]

[アイテム]

[こうせんわざ][ベリーナ●ス光線]←New!!

[にげる]


 俺は、腕を✕字にクロスさせ、

「くらえ、『ベリー●イス光線』!!」

 と叫ぶと、クロスした部分から7色の光線が発射され、魔族に命中!

「ぎゃあああああっ!!」

 魔族は、断末魔の声を上げて、塵になった。


 <勇者の攻撃!勇者は光線技を放った!魔族を倒した!勇者は経験値を得た!レベルアップまであと少し!>


 ありゃ、レベルアップしなかったか。まあいいや。

「よし、事件解決。んじゃ、戻りますか。」

 そう言うと、俺は元の場所にワープした。

 -----------

 こうして、魔族の陰謀による魔物の襲撃事件は、勇者達の活躍(というかほぼ勇者のみ)により無事解決した。

 勇者達は、後片付けが終わった討伐隊と共に王都に戻って行った。

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