勇者の軌跡13:勇者、エルフを「聖女」にする

「ふっふっふっ、それではさっそく始めようではないか。大丈夫、最初ちょっと痛いだけだから。」

 教会の個室にエルフを連れ込んだ俺は、手をワキワキさせながらエルフににじり寄っていた。

 もちろん、安心させるために笑顔を作ることも忘れていない。うむ、完璧だ。

「な、何をするつもり?!痛いって何?!あと、笑顔が怖いのよ!!」

 失礼な、こんなハッピースマイルの勇者さんなんて、滅多にお目にかかれないんだぞ?

「大丈夫大丈夫、俺に任せなさい。天井のシミを数えているうちに終わるから。ぐへへ。」

 俺はより安心させるために、優しい言葉をかけた。もちろん笑顔も忘れずに。

「何わけわかんないこと言ってるのよ!!...はっ、もしかして私をはずかしめるつもりじゃあ...?」

 エルフが何かわけのわからないことを言って顔を真っ赤にしているが、そんなことはどうでもいい。俺の願望を達成させるのだ!

「何を訳の分からんことをぬかしているんだ、この脳みそピンクの駄エルフが。これからお前を『聖女』にするための条件を満たしていくだけだ。」

 ・・・・・・

 一瞬の静寂が辺りを包み、それを打ち払うかのようにエルフが声を上げた。

「え?私が『聖女』になるの?というかなれるの?!」

「おう、そうだ。心配するな、その辺はちゃんと『当事者』の女神に聞いてきたからな。くっくっくっ。」

「だから、その邪悪な顔で笑わないでよっ!!」

 ん?おお、いかんいかん。つい願望が顔に出てしまったか。まあいい。このまま押して参る!

「さて、まずは2つほど確認したいことがある。」

「確認したいこと?それって、『聖女』になるために必要なの?」

「モチのロン、それ以外で何があるんだ?」

 俺がそう言うと、エルフはもじもじ君しながら、

「えっと、その...、私のことに興味が『ありません。』」

「即答するなーっ!!」

 まったく、照れてみたり怒ってみたり、忙しい奴だ。

 しばらくプンスコしていたエルフだが、ようやく落ち着いたらしく、話の続きを聞いてきた。

「確認したいことは2つ。」

 1.(駄)女神への信仰心。

 2.(駄)エルフ自身の「魔力」量。

 エルフは、「うーん」と考えて、

「1は、それなりにあると思うわ。『信者』とまではいかないけど。まあ、エルフ族からしたら『異端者』扱いされるけどね~。」

 ふむ、俺が知っている情報通り、エルフは神を信仰していないな。まあ、彼女らが信仰している「精霊」は「神」と相反するものだと思われているからな。

「それで、2はたぶん多い方だと思うわ。エルフ族は魔力と精神力に適性があるから、少なくともその辺の魔術師よりは多いんじゃないかしら。」

 これも情報通りだな。しかし「精神力」はともかく、エルフ族は使わないであろう「魔力」にも適性があるとは思わなかったわ。

 あ、「精神力」というのは、エルフが精霊を使う時に消費する力で、俺たちが「魔術」を使う時に消費する「魔力」みたいな感じらしい。

「分かった。それじゃあ、あとは『人間の言葉が話せる』ようになればOK牧場だな。」

 そう言うと、エルフがきょとんとした顔になった。

「へ?『人間の言葉が話せる』が条件なの?治癒術とかで唱えている言葉じゃダメなの?あと、『おっけーぼくじょう』って何?」

 術を使う時に唱えるのは所謂いわゆる「呪文」だからな。英語は話せないけど、英語の歌は歌えるみたいな感じかな?知らんけど。

「そうだ、そもそも『聖女』は『基本』人間が就くそうだ。だから人間とのコミュニケーション...意思疎通が必要ということになる。あと、『OK牧場』は俺の世界で『大丈夫』の常用句だ。気にするな。」

「ふーん、そうか。確かに相手に伝わらないと困るものね。で、それを解決する方法ってあるのよね?」

「当然だ。俺の『自動翻訳』スキルを『一時的に』お前に付与する。その間に祭壇で祈りをささげて『聖女』にしてもらう。」

 うむ、完璧な策だ。異世界の竹中半兵衛重治だな。

「分かったわ。それで、私はどうすればいいの?」

「特に何もする必要はない。というか、何もするな。アホみたいに突っ立っていればいい。」

「・・・何か、微妙に馬鹿にされた気がするけど、まあいいわ。それじゃあ、早速やってちょうだい。」

 言われるまでもない。ちゃっちゃとやるか。

「分かった。念のために聞くが、『聖女』になるのに異存はないか?拒否るなら今のうちだぞ?」

 一応、本人に確認を取る。無理強いは良くないからな。

「いいわよ。『魔王』を倒すために必要なんでしょう?その適性が私にあるんだったら、断る理由はないわ。」

 よし、意思確認完了。あ、クーリングオフは出来ませんので、その辺よろしこ。

「よし、じゃあやるぞ。じっとしていろよ?」

 そう言って、俺は両手でエルフの肩をつかむと、顔を近づけた。

「ちょちょちょちょちょちょちょっと!いきなり何するつもりよっ!?」

 エルフが耳まで真っ赤にして驚いている。

「何するつもりって、これから俺のスキルを付与するんだよ。聞いていなかったのか?」

 人の話はきちんと聞きなさいねー。勇者さんのお願いだよ。

「き、聞いてたけど、まさかこんなことをするなんて思ってなかったから、その...、心の準備が...ゴニョゴニョ」

 む、それもそうか。確かに心の準備は必要だな。

「そうか、それじゃあ、準備が出来たら言ってくれ。」

「わ、わかったわ。少し待っててちょうだい。」

 エルフがそう言うと、後ろを向いて深呼吸をしだした。あ、深呼吸の仕草って、ここでも同じなんだ。正に「世界共通」ってか?

 しばらく深呼吸をして、ぶつぶつ呟いた後、「よしっ」と言ってこちらを向いた。

「待たせたわね。いいわよ。やって頂戴。・・・でも、は、初めてだから、優しくしてね?」

 と、顔を赤くしてそう言った。ふむ、確かにスキルの付与は俺も初めてだからな。不安になるのは分かるのだが、なぜ顔を赤くするのだ?エルフは不安になると顔が赤くなるのか?まあいいや。無問題だ。

「おう、俺も初めてだから、気を付けるわ。」

 俺は再びエルフの肩をつかみ、顔を近づけると、エルフは頬を赤く染めて目を瞑り顔を少し上げ、口を尖らせてきた。

 何だ、そのひょっとこみたいな顔は?でも、そんな顔をしていても美少女なのは流石と言うか、なんと言うか。期待しているような顔が、また微妙にムカつく。

 ・・・もしかしてコイツ、思いっきり勘違いしているんじゃないか?

 ふっふっふっ、面白い、ではその期待を見事にぶち壊してしんぜよう。よこしまな考えを抱く者は、勇者様が成敗してくれる!

 そう思った俺は、一度顔を離し、頭を振りかぶり、


 ガンッ!!!


 思いっきり「ヘッドバット」を見舞った。ボボ・ブ●ジル直伝だぞ(うそ)。

 流石に俺も少しダメージを受けた。こいつ、意外と石頭だな。

 一方、想定外の攻撃を食らったエルフは、

「いったぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーいっ!!」

 と叫んで、頭を抱えてうずくまっていた。

「なっ、何てことするのよっ!目から火花が飛んだじゃないっ!!」

 と、こちらを向いて涙目で訴えている。

 うむ、成敗完了。邪な考えを持つものは、こうなるのだ!

「仕方ないだろう。こうしないと、スキル付与が「失敗」するらしいからな。」

「う~~~~~~~~っ」

 エルフは、頭をさすりながら俺の方を恨めしそうに見ていた。

 ちなみに、スキル付与云々のところは嘘である。あの駄女神からは、「頭を付ければその者にスキルが一時的に付与される」と説明されたからな。

「よし、これでお前は『自動翻訳』スキルが使えるはずだから、試しに誰か呼んでみるか?」

「そ、そうね。だったら、教皇のお爺さんを呼んでみるわね。」

 そう言って、エルフが教皇の爺さんを呼ぶと、扉を開けて爺さんが入ってきた。

「エルフ殿の声で呼ばれた気がしましたので、伺いましたが、もしや、エルフ殿は我々の言葉が解るようになったのですか?」

「おう、俺が今解るようにしたんだ。尤も、その効果は長くて1刻位(約2時間)だがな。」

「本当にしゃべれるようになっていたのね...。え、待って、スキル付与の効果ってそんなに短いの?」

「そらそうだろう。あくまで暫定措置なんだから、そんなもんだ。」

 そう話していると、教皇の爺さんがまた感動していた。

「おお、そのようなことができるのですか!さすがは勇者様ですな!!」

 相変わらず暑苦しく感動している爺さんを放っておいて、俺たちは礼拝堂に戻った。

 俺は、エルフと共に祭壇に行くと、

「ほれ、女神にお願いしてきな。心配するな。その辺はきちんと話を付けてきたから。」

「・・・何かとんでもないこと言ってたけど、まあいいわ。それじゃあ、早速やってみるわ。」

 そう言って、エルフが女神像のある祭壇の前でひざまずく。

 しばらくすると、エルフの体からまばゆい光があふれ出し、その光が治まると、微妙に雰囲気が変わったエルフがいた。

「どうやら、無事に『聖女』になれたようだな。」

 そう俺が言うと、エルフはこちらを振り向いて、慈愛あふれる笑顔を見せた。

「そうね。あなたの言ったとおり、女神様から『聖女』として認めてもらえたわ。」

 エルフがそう言うと、礼拝堂に歓喜の声が上がった。

「この地に『聖女』様が誕生する瞬間を見ることができるとは!」

「『聖女』様、御覚職おめでとうございます!」

「おお、神よ、この地に勇者様のみならず、聖女様も使わせていただいたこと、まことに感謝いたします。」

 皆、女神像のある祭壇に向かって感謝の祈りをささげていた。

 祭壇の前にいた俺は、その光景を見ながら、うんうんと頷いていた。はっはっはっ、感謝するがよいぞ愚民ども。

 そんなことを思っていたら、いつの間にか俺の横に来ていた聖女(エルフ)が俺の腕を組んで、こちらを見てきた。

「ふふっ、これで、もっとあなたの力になれるわ。改めてよろしくねっ♪」

 と言って、満面の笑みを見せた。

 うっ、これは結構な破壊力だな。見た目がちびっ子じゃなかったら、間違いなく堕とされていたなこれは。


 こうして、勇者のパーティに聖女(エルフ)が仲間になった。やったね!

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