勇者の軌跡12:勇者、女神に「聖女」の条件を聞く

「・・・とりあえず、立ち話もなんですから、こちらへどうぞ。」

 そう言って、女神は俺を奥へと案内した。

 そこは、何もない空間にポツンとちゃぶ台が置かれていた。

「どうぞ、お座りください。ああ、お茶とお菓子も持ってこなくちゃ♪」

 俺が座る(魂なのに座れるのかという無粋な指摘はなし)と、女神は楽しそうな感じで奥からお茶と茶菓子を持ってきた。

 来る人いないのか?と思ったが、そもそも論として神にホイホイ会いに行けるのか?と考えたらそんなわけないわな~。

「うふふ、私が呼び寄せた魂以外でここに来てくれたのは、あなたが初めてですよ。」

 そう、嬉しそうに女神は話した。やっぱりそうか。

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「・・・それで、そのいけ好かない同僚が、陰で私の悪口を言っているみたいなんですよ。全く、そんな性格だから信者が増えないんですよ~。そう思いません?」

 そう、愚痴をこぼしていた。

 あれから数時間(ここに『時間』の概念はないが、感覚としてその位)、女神の(一方的な)話が続いている。

 俺としては、要件を済ませてさっさと帰りたいのだが、そんなことを言うタイミングすらないくらい、ずーーーっと喋り続けているのだ。

 それにしても、最近の俺は「長話を聞かされる」呪いにでもかかっているのか?やだそんな呪い。誰かはらって。できれば「ばいんばいん」の巫女さんでお願いします。

 そんなことを思っていたら、

「そういえば、なぜここに来たのですか?何か私に聞きたいことがあるとか?」

 そう女神が言ってきた。やったぜ、ようやく本題に入れるってもんだ。

「そうだ、あんた『聖女』の任命者だろ?覚職条件ってなんだか教えてくれないか?」

「『聖女』ですか...。確かに、私が認めたものに『聖女』の力を与えていますが、なぜその条件を...、ああ、そういうことですか。」

 女神は、何かを察したらしい。

「いま地上にいる『聖女』では、魔王に対抗することはできませんからね...。」

 うむ、やはり当事者だと話が早い。

「条件ですが、特に難しいことはありませんよ。神(主に私)への信仰心が高いことと、神聖魔術...、例えば『光魔術』や『治癒魔術』が使えること。」

 ふむふむ、なるほど。ちなみに、俺は「光魔術」が使える。「神に選ばれし者」だからだろうな。知らんけど。

「あとは、それなりの『魔力』がある者ですね。」

 それはそうか。魔術は使えるけど魔力が低かったらぶっちゃけ「使えない」からな。

 ・・・ん、その条件なら、あてはまるやつを知ってるぞ。

「なあ、その条件のほかに、『人間の言葉がわかる』ってのはあるのか?」

 そう俺が聞くと、女神は不思議そうな顔をした。

「え?...まあ、『聖女』は基本人族が対象ですから、その条件はありますね。ただ、同じ種族の言葉を理解できないことはないと思いますが...。」

 ん?そうすると、ここでは前世のような、同じ人間でも地域によって言葉が違うということはないのか?まあいいや。

「それじゃあ、例えば俺が持っている『自動翻訳』スキルを貸したりすることってできるのか?」

 そんな質問をすると、女神は困ったような顔をした。

「うーん、そのような事はできませんね~。それは『私』が『勇者』であるあなたに授けた能力ですから。」

 まあ、そうだろうな。そんな都合がよく行くわけないか。

「あ、ただ、『一時的』に同じスキルを付与することはできますよ。」

「え、マジで?」

「はい、尤も、それが出来るのは、『神の使徒』である『勇者』だけですけどね。」

「ほうほう、で、そのやり方って?」

 ・・・

 なるほど、そうするのか。

「わかった。それじゃあ、さっそくその条件を満たしてくるので、承認よろしこ。」

「はい、わかりました。」

 よしよし、そうと決まれば善は急げだ、ちゃっちゃと現実世界に戻るとするか。アディオス・アミーゴ!

「あ、あの...!」

「ん?」

 俺を呼び止めた女神が、なぜかもじもじ君している。う●こが漏れそうなのか?

「ま、またこちらに来てもらえますか...?」

 あれ、今度は「もう会うことはないでしょう」とは言わないんだ?

「あー、うん。都合がついたらまた来るわ。」

 そう言うと、俺は光に包まれた。

 光に包まれる瞬間、女神が嬉しそうに微笑んでいる気がした。

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「・・・さま、勇者様!」

 俺を呼ぶ声が聞こえたので、目を開けると、ドアップになった教皇の爺さんの顔があった。

「うおっ!びっくりした!急に目の前に現れるな!思わずサミング(目つぶし)するところだったわ!!」

「おお、気が付かれましたか!先ほどからお声をかけてもご返事がありませんでしたので、心配しておりました。」

 ・・・どうやら、俺が祈り始めてから10分ほど経っていたようだ。

「ところで、先ほど『当事者に聞いてくる』と仰られておられましたが、もしや...?」

 教皇の爺さんが、真剣な顔をして尋ねてきた。

「おう、ばっちり『女神』から聞いてきたぜ。『聖女』になる条件。」

 と言って笑顔でサムズアップすると、周りから驚嘆きょうたんの声が上がった。

「おお!本当に女神さまにお会いになられたのですね!!」

「流石、『神の使徒』と言われる勇者様だ!」

 周りは、こぞって俺を称賛していた。はっはっはっ、それほどでもあるぞ。

「オーケーオーケー、それではさっそく始めるとするか。」

 と言って、俺はそばで呆けている哀れなモルモット(エルフ)を見て、ニヤリと笑った。

「な、何、その邪悪な笑顔は?ものすっっっっごく、いやな予感がするんだけど?」

 HAHAHA、何を言っているのかね、このちびっ子は。あ、逃げようとしても無駄だぞ?「勇者からは逃げられない」のだから。

「さあさあ、忘れないうちにすぐやろう、今やろう、ちゃっちゃとやろう!爺さん、どこか空いている個室はない?」

 俺は、逃げようとするエルフを羽交い絞めフルネルソンにして、教皇の爺さんに教えられた部屋へ引きずっていった。

「キャーっ!助けてーっ!勇者に酷いことされちゃうーっ!!」

 エルフは必死に叫ぶが、悲しいかな、皆には言葉が通じなかった。残念!

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 なお、この後、頻繁に神託が下りてきて、その度に勇者が教会に呼ばれることになるが、その理由は当事者以外誰にもわからない。

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