第二章:勇者と聖女
勇者の軌跡10:勇者、王女に「聖女」の話を聞く
登城する日、俺たちは宿を出て王都の奥にある城へ、用意された馬車で向かっていた。
「流石王族、豪勢な馬車だなー。」
「そうね、昨日まで乗っていた馬車が普通だったから、より豪華に見えるわね。」
昨日まで乗っていた馬車は、教皇の爺さんが「お忍び」で行ったため、ごく普通の馬車だったのだ。
その
なんてことを思いつつ、窓の外を眺めながら馬車に揺られること10分程で、城に着いた。
それから、あれよあれよという間に謁見時間になり、俺たちは国王と謁見した。
謁見自体はすぐに終わった。本当に顔見世程度だったようだ。
その後、晩餐会が催される事となったので、俺たちは煌びやかな衣装に着替えさせられ、貴族たちの歓迎を受けた。
俺は、貴族たちの挨拶攻めにあい、食事に手を付ける暇さえなかった。どんだけ必死なんだよ、ここのお貴族様たちは。
一方、エルフはというと、テーブルに陣取って出される食事を次々と平らげていた。給仕の方々ご愁傷様です。
しっかし、あのちんまい体のどこに入っていくのか?と思うほど食うよな、あいつ。エルフって、皆
時たま、エルフに声をかけてくる貴族のお坊ちゃんたちがいたが、あいつは人間の言葉がわからないから、文字通り「何言ってんだこいつ?」という顔をしてひたすら料理を食べていたな。
それで大体のガキどもは撃沈していたが、
謁見の時に、俺がお願いしたからな。兵隊さんは頭が固くて融通が利かないけど、任務に忠実だから決められたことはしっかりやってくれるのよね。優秀優秀。
さて、俺への挨拶ラッシュがひと段落着いたので、飲み物片手に
振り向くと、そこには誰もいない。俺が「?」となっていると、下の方から先ほどと同じ声で「勇者様」と呼ばれた。
俺が目線を下げると、そこにはゴージャスなドレスを着た小学生高学年ぐらいの女の子が、眩しいくらいの笑顔で俺のことを見上げていた。
「・・・・・・」
しばらくお互い見つめあった後、再び目線を戻して「あれ、誰もいない?」と言うと、
「勇者様?!いま目を合わせましたわよね?!!明らかに私を認識してましたわよね?!!どういうことですの?!!!」
と下の方でゴージャス小学生がプリプリ怒っていた。
仕方がないので、そのちびっ子に話しかけようとした時、俺の第255感が「やべぇよやべぇよ」と警鐘を鳴らした。
む、これは傍から見たら小学生女子に絡んでいる危ない男になってしまうではないか。よし、ここは一つ善良で無害な勇者さんを演じるとしよう。
「えーっと、お嬢ちゃんどこの家の子?迷子かな?親御さんは一緒じゃないの?」
と、迷子になった小学生を気遣っているように振舞うと、このゴージャス小学生から、
「待たんかいコラ、何を寝ぼけたことをぬかしてけつかるんじゃワレ。どタマかち割ってのーみそチューチュー吸うたろか!」
などと、思いっきり関西弁で怒られてしまった。何このょぅじょ怖ぇ。
俺がそんなことを思っていると、我に返ったゴージャス小学生が、
「オホン!勇者様はご冗談がお好きなようで。私少しばかりブチぎ...はしゃいでしまいましたわ。オホホホホ。」
と言った。
「申し遅れました、私、この国の第一王女ですの。お見知りおきくださいませ、勇者様。」
というと、この
「これはこれは、王女様とはつゆ知らずご無礼な発言をしてしまいました。お許しください。」
と、形式的な返答をすると、ちみっ子王女は真に受けたようで、
「いやですわ、勇者様。そのように畏まらなくてもよろしいのですよ?それに、私より勇者様の方が地位が上ですので、敬語は不要ですわ。」
と慌てて答えた。ふっ、このちみっ子王女、ちょろいな。
その後、俺たちはいろいろな話をした。
尤も、ちみっ子王女の方が一方的に話していて、俺は「はあ」「ひー」「ふうん」「へえ」「ほう」など相槌を打つばかりだった。
ちなみに、このちみっ子王女、俺と同い年でしっかり成人していた。驚き桃の木
「ところで、勇者様、御一緒のエルフ様とは、どのようなご関係で?」
ちみっ子王女が、おもむろにそんなことを聞いてきた。
「ん?彼女はパーティメンバーだが。」
「そ、そうでしたの。ちなみに、あの方は『聖女』様ですの?」
聖女?なにそれおいしいの?
「いや、『聖女』とかじゃなくって、『精霊術師』兼『魔術師』と言った感じかな?てか、『聖女』って何?」
「あら、申し訳ありません。てっきり勇者様のお相手であれば『聖女』様とばかり思っておりましたので。」
いや、あんな大飯食らいのロリババア、攻略対象外です。
「『聖女』様のことですわね。私も詳しいことは存じ上げませんが、<『勇者』のそばに『聖女』あり>、と伝記に書いてありますの。」
「伝記によれば、聖女様は神に認められた存在と言われておりまして、<慈愛の心で傷ついたものを瞬く間に癒す>、とありますわ。」
・・・ほう、つまり「聖女」とは、治癒魔術のエキスパートということか?
これから先、エルフの治癒術だけじゃ追いつかないことが起こるだろうから、その「聖女」がいてくれると助かるな。
それに、勇者の俺とペアみたいな存在らしいし。
「ふーん、一度会ってみたいけど、この国にいるの?」
そう聞くと、ちみっ子王女は首を横に振り、
「いいえ、私は存じ上げませんの。もしかしたら、教皇様が何かご存じかもしれませんわ。」
あのやたら話が長い河童ジジイか。まあ、この後教会に行くつもりだったから、丁度いいか。
「・・・あ、お父様が呼んでいますわ。勇者様、それではこれで失礼させていただきますわ。勇者様のこれからのご活躍、切に願っておりますわ。」
そう言って、また見事なカーテシーをすると、国王のところへ戻っていった。
それにしても、「聖女」か。もしどこかにいるのなら、是非パーティに加わってほしいな。
そんなことを思っていたら、散々料理を食い散らかしたエルフが、口の周りをべたべたにしてやってきた。
「ねえ、勇者。あんたと一緒に話していた子、誰?もしかして、あんな小さな子に手を出したとか?」
そんなことをぬかしてきたので、
「するか、んな事。あれは、この国の第一王女様だ。大体、ちびっ子はお前ひとりで手一杯『ゲシッ!』あだっ!?」
おい、人が話している途中でローキックを放つのはやめろ。
「まったく、そんなことより、これが終わったら教皇の爺さんのところに行くぞ。あと、口拭け。」
「えー、本当に行くのー?何か、聞かなきゃいけないことでもあるの?」
まあ、気持ちは分からんでもない。
「ああ、さっきあのちみっ子王女から、興味深い話を聞いたからな。」
俺がそう言うと、口元を拭いたエルフが不機嫌そうに、
「ふーーーーん。」
と言った。もしかして、同じちびっ子の王女に対して嫉妬しているのか?面倒くさい奴だ。
その後、晩餐会は何事もなく無事に終わり、俺たちは教皇の爺さんがいる教会に向かうため城を出た。
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