勇者の軌跡閑話1:エルフ、己を語る

 私はエルフ。名前は...、今はない。族長に取り上げられてしまったから。

 何故取り上げられてしまったか。それは、私が「禁忌きんき」である「魔術」を覚えてしまったから。

 私たちエルフは、「精霊」を信仰しており、生まれた時に精霊と契約することにより、「精霊術」を行使することができるの。

 何の精霊と契約したかは、瞳の色で解かり、私の場合は「水の精霊」の色である「あお色」の瞳をしている。

 その「精霊」と相対するのが、人族が信奉する「神」の力である「魔術」。

 相反する力のため、私達エルフは「神」を忌諱きいしており、その力である「魔術」を持つことを禁じているの。

 実は、我々エルフは「精霊」の力である「精神力」と、「神」の力である「魔力」両方に適性があり、「魔力」も同じ適性を持つ人族より「基本」能力が高い。

 このため、やろうと思えば両方の力を会得することもできるの。

 しかし、前述したように「神」を忌み嫌っているため、もしその禁を破って「魔術」を習得してしまった場合、名前を剝奪され、里から追放されてしまう。

 全く、折角「適性」があるなら、別に覚えるだけはいいと思うんだけど。精霊への信仰は変わらないんだから。族長など年長のエルフたちは頭が固いのよね。

 まあ、気持ちは分かるわ。人族は私たちをさらって奴隷にするんだから。ふざけんじゃないわよ。人族が信仰する「神」の力を使う「魔術」を嫌悪するのも当然よ。

 実際、私は「魔術」を覚えたけど、人族が嫌いなのはそのままだからね。

 ・・・前置きが長くなったけど、そんな理由でエルフの里を追放された私は、人族の国の外れにある洞窟に住むようになったの。

 万が一のために、周りに結界を張って、何とか自給自足の生活を送っていたの。私の契約精霊が「水」で助かったわ。

 そんな生活を続けていたある日、「アイツ」がここにやってきた。

 アイツは、私の結界をどうやったかわからないけどすり抜けて、私が住んでいる洞窟にいきなり入ってきたの。

 ・・・いきなりではないわね。一応、挨拶はしたみたい。「邪魔すんで~。」って。邪魔するなら入ってこないでほしかったんだけど、その時は気が動転してそんなツッコミをする余裕がなかった。

 アイツは、自分のことを「人間」と言った。人間なのに私の言葉が解るの?と聞くと、「自動翻訳スキル」を持っているからだと言ってきた。

「人間」で「自動翻訳スキル」持ちと言えば、思い当たる職業がある。

 確認してみると、やっぱりだった。アイツは「勇者」。

 アイツ勇者が言うには、「ゴブリン」が住み着いているという情報からここに確認に来たらしい。

 そうしたら、よりによって私のことを「ゴブリンか?」なんて聞くのよ?!冗談じゃないわ!これでも誇り高きエルフなのよ、その辺の雑魚モンスターと一緒にしないでほしいわ!

 私がそう抗議すると、アイツは「だったら、確認のため姿を見せてほしい」と言ってきたの。

 確かに、アイツの言うことはもっともだわ。だけど、私がノコノコ出て行って、有無を言わさず捕らえられる危険があるから、条件を出したの。

 アイツは了承したので、私は意を決して洞窟から出た。するとアイツは私のことを見て何か感動していたみたい。

 そういえば、「勇者」って「異世界からの転生者」だって聞いたことがある。もしかして、私たち「エルフ」のことは知っているけど会ったことはないのかも。

 じろじろ見られたけど、それは確認しているってことで我慢した。途中で「?」と言う顔をしたけれど、何かアイツの中の「エルフ」像で違うところがあったのかもしれない。

 アイツは私が「エルフ」であると確認したので、私は帰ってもらうようにお願いしたの。そうしたら、アイツなんて言ったと思う?

「一緒に連れて行く」ですってぇ?!!話が違うじゃない!!やっぱりアイツも私を捉えて奴隷商に売るつもりだったのね!!

 私としたことが、てっきり「勇者」だからその辺は大丈夫だと思ってしまったわ!!

 私が猛抗議したら、アイツは「『外に出たらいきなり襲い掛かる』ことはしていないだろう?」って言うのよ!

 ぐぬぬ、確かに私はそのように言ったから、約束をたがえてはいないけど、けど!

 私はそのあとも抗議したけれど、ことごとく論破されて、最後には押し黙ってしまったの。

 すると、アイツが突然「俺が守ってやる」って言ったの。

 え...、それって、もしかして?

 そんなことを考えていたら、ふとあることを思い出した。

「異世界からの転生者」って、奴隷制度に否定的って話を。

 つまり、アイツも私を奴隷として捕まえることはしないんじゃないかな?

 そんなことをつぶやいていたら、予想通りの答えが返ってきた。

 その後、一緒についていくかここに残るかの選択を迫られた。

 私は悩んだ。結構な時間悩み続けた。

 悩んだ末、私はアイツと一緒に行くことに決めた。

 私が悩み続けている間、アイツは急かすわけでも強引に連れていくこともせず、ただ黙って待っていてくれた。

 それに、アイツが「『一生』俺が守ってやる」って言ってくれたのが、私はうれしかった。

 私はアイツにそう答えると、アイツは安心したような表情をした。

 大丈夫よ。私はあんたとずっと一緒にいてあげるから。ちゃんと守ってね♪

 ただ、「絆」を結ぶのは、アイツのことを見極めないといけないから、まだ後ね。

 私は内心ウキウキしながら、洞窟に置いていた私物をまとめて、アイツと一緒に人族の町に向かった。

 途中、私が張った結界をたった一撃で破壊したときは唖然としたけどね。「勇者」って、こんなに強いんだ。

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 そうして、人族の町について、この町のおさに調査報告をして、外に出たら、アイツが信じられないことを言った。

「それじゃあ、ここでお別れだな。」

 ・・・・・・

 は?今なんて?「ここでお別れ」て言った?

 ・・・ど、どどどどどどどどどう言うことなの?!!!一生守ってくれるんじゃなかったの?!!

 するとアイツは、「この町『まで』一緒に来た」とか言いやがったのよ!!

 私は一瞬呆然として、膝から崩れ落ちてしまった。

 そのあと、なんとか持ち直した私はそれはもうものすごい勢いで抗議した。当然じゃない、私はそのつもりで来たんだから!!

 アイツは、何かわけのわからないことを言ってたけれど、最終的には私と一緒にいてくれることになった。

 アイツの照れている顔を見ながら、私はアイツ...「勇者」と正式にパーティを組むことになった。

 ふふふ、里を追放されて結果的に良かったかも。


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 このエルフはピンク脳なので、いろいろ自分の都合のいいように解釈(主に恋愛方面)したり、妄想も入っていたりしています。

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