勇者の軌跡8:勇者、テンプレに当たる

「エルフ、そっちに2匹行ったぞ!」

「任せて!『水の精霊』よ、お願い!」

 エルフがそう言うと、水竜巻が起こり、エルフに向かっていた2匹のモンスターに襲い掛かった。

「「ギャアアアアア!」」

 水竜巻が治まると、モンスターは跡形もなく消えていた。

「ふう、こっちは終わったわよー。」

「こっちもだ。流石に20匹を一度に相手にすると手古摺てこずるな。」

「・・・手古摺ってた様には見えなかったけど?あ、怪我してるじゃない!すぐ治すわね。」

 そう言ってエルフがこちらに来ると、傷口に手をかざして魔術を唱えた。

「神よ、我にかの者を癒す力を。『アマローノ』。」

 エルフがそう唱えると、手のひらから淡い光が発生し、傷口を塞いでいく。

「おー、傷が治った。ありがとよ、エルフ。」

「どういたしまして。私たちはパーティだから、当然よ。」

 エルフは、嬉しそうに「フフッ」と笑った。

「しっかし、最初聞いたときはびっくらこいたけど、本当に魔術と精霊術を両方とも使えるんだな。」

「まあね。と言っても、精霊術は水、魔術は治癒ちゆ系と補助系しか使えないけどね。」

 と、大平原の小さな胸を張ってエルフがドヤる。

 俺が聞いた情報では、人間が魔術(この世界での「魔法」の呼び方)、エルフが精霊術を使うとされている。

 魔術と精霊術は、お互い相反するものらしいので、両方使えるのはいないということだ。

 まあ、目の前に両方使えるやつがいるので、その情報は間違いだということだな。

「なあ、エルフで両方使える奴って、結構多いのか?俺は、人間が精霊術を使うということを聞いたことがないんだが。」

 と、俺がエルフに聞くと、「うーん」と少し考えて、

「いないと思うわよ?少なくとも、私以外で魔術を使っていたエルフを知らないから。」

 ほぅ、そうすると、このエルフはユニーク個体ということか。レア枠を引いたな。SSRダブルスーパーレアぐらいかな?

「それじゃあ、行きましょうか。あと少しで、次の宿場町なんでしょう?」

「そうだな、何もなければあと2時か...、1刻ぐらいで着くはずだ。」

 俺が言い直すと、エルフは

「別に言い直さなくてもいいわよ。大体わかるから。それより、あなたのいた世界のこと、もっと聞かせてくれない?」

 と言ってきた。

 知的好奇心が旺盛おうせいなのは、非常に結構なことだ。それに、俺たちはパーティだから、認識の齟齬そごがあると、いざという時に困るから、その辺の認識合わせは重要だ。

「おう、わかった。宿についてからな。」

 そう言って、俺たちは歩き出した。

 ----------

 1時間ほど移動したとき、俺たちは「ラノベのテンプレ」に当たってしまった。

「え~、俺、何か『フラグ』を立てたのかな~?」

 そう言う俺たちの向かう先、大体300m位の所で、1台の馬車が盗賊と思われる連中に取り囲まれていた。

「ちょっと!何その思いっきり『面倒くさい』って顔してるのよ!そんな事より、助けに行くわよ!」

 エルフが正義感一杯で走り出そうとしたところを、俺が襟首を掴んで止めた。エルフは「ぐえっ」と、ヒキガエルのような声を出した。

「まあ待ちな、お嬢ちゃん。ここは状況を確認するため、あの連中に話を聞いてみよう。」

「そんなこと言っている場合じゃあ...、いいわ、何か『考え』があるのね?」

 と言って、エルフは変に納得してしまった。

 いや、別に「考え」なんてないけど?あ、どうやって「スルー」しようかな~、って考えはあるか。

 とか思いながら、問題の現場に到着。

「あー、もしもし、そこの『いかにも盗賊』みたいな恰好をした方々。ちょーっと、話を聞かせてもらいたいんだけどおK?」

 と俺が話しかけると、盗賊(みたいな連中)は、一斉に俺の方を向いた。うおっ、びっくりした。

 つーか、おまいら俺たちが近づいてくることに気付かなかったのかよ?警戒心が足らんな。それとも、この世界の「盗賊」は皆こんななのか?

「何だテメェ、俺たちは今取り込み中だ。ガキはあっちへ行きな!」

 盗賊の頭みたいなのが、俺にそうほざいた。

「あー、こいつを見て『ガキ』っていうのは激しく同意するけど、俺たちもはぐぅっ!?」

 そう、俺が話している最中に、エルフが脇腹に思いっきりエルボーをかましてきやがった。解せぬ。

どぅ~わぁ~れぇ~ぐゎ~誰が、『ぐぁ~きぃ~餓鬼どぅ~えぇ~すぅ~っ~てぇぇぇ~っですって?」

 俺が脇腹を抑えてうずくまっている横で、エルフが般若はんにゃのような顔をして盗賊どもにガン飛ばしながら、全身から「殺意の波動」を溢れ出していた。

 ちなみに、エルフは盗賊の言葉を分かっていない。俺が間接的に通訳したような形だ。

「な、何だこのガキ、何言っているかわからねぇが、ものすごく恐ろしい気配を放っていやがる!」

 そう、盗賊の頭(多分)がビビりながら話すと、近くにいたモブ盗賊が、

「お頭、こいつ『エルフ』ですぜ。こいつをとっ捕まえて奴隷商に売ればあ゛ぁっ!?」

 と言っている途中に、何かが超高速で飛んできて、モブ盗賊の頭にクリティカルヒットし、そのまま退場した。

「なっ!?」

 盗賊たちが一斉に飛んできた方向を見ると、瞳のハイライトが消えたエルフがいつの間にか拾った石を手に持ちながら、盗賊たちを見ていた。

 そして、ニヤリと笑うと、「『汚物』は、消毒...♪」と楽しそうに呟いた。

「ヒッ!!」

 盗賊たちは、その姿を見て悲鳴を上げた。

 うん、その気持ちはよくわかる。あいつ、殺意の波動をまとっているからエルフ→ダークエルフへクラスチェンジしやがった。ダークエルフがこの世界にいるかは知らんけど。

「び、ビビってんじゃねえ!所詮はガキだ、ボコしてやれぇ!!」

「う、うおおおおおーっ!!」

 盗賊の頭が発破をかけて、モブ盗賊どもが一斉にエルフ(殺意の波動発動中)に襲い掛かった。

 エルフは、邪悪な笑みをたたえながら、こう叫んだ。

「フフフ、私の拳が『血』を求めているぅぅぅぅっ!!」

 ----------

 それからは、一方的な虐殺劇となった。

 笑いながら盗賊どもを撲殺するエルフ(殺意の波動発動中)は、正に『撲殺天使』そのものである。

 俺は、エルフのNGワードをラーニングした。いざという時に、相手に言わせよう。うん、それがいい。

 そんな蹂躙じゅうりん劇の中、盗賊の頭(らしき奴)が逃亡しようとしていたので、俺が先回りして行く手を塞いだ。

「はっはっはっ、どこに行こうとしているのかね。」

「なっ!テメェ、いつの間に!?」

「チッチッチッ、『勇者からは逃げられない』のだよ。」


 <盗賊の頭は逃げだした!しかし、勇者に回り込まれてしまった!コマンド?>


 コマンド一覧

[たたかう]

[ぼうぎょ]

[まじゅつ]

[アイテム]

[ひっさつわざ][通●砕]←New!!

[にげる]


「くそおおおっ!死ねぇぇぇぇっ!!」

 盗賊の頭が突っ込んできたので、その攻撃をかわしてコマンド一覧から「必殺技」を選んだ。


 <盗賊の頭の攻撃!ミス!勇者はひらりとかわした!>


「いくぞ!必殺『つうぅぅぅぅぅてぇ●さぁぁぁぁいぃぃぃっ!!』」

「ぐわあああああっ!!」20ヒット、マーベラス素晴らしい!!

 盗賊の頭は、天高く舞い上がると、そのまま落下し地面に激突した。


 <勇者の攻撃!勇者は必殺技を放った!盗賊の頭を倒した!>

 <勇者は経験値を得た!レベルアップ!勇者はいろいろ強くなった!>


「ふっ、また悪の芽を一つ摘んだな。」

 勝利の余韻に浸っていた時、蹂躙じゅうりん劇を繰り広げていたエルフが正気に戻ったようで、

「あれ?私どうしていたのかしら?」

 と言って、あたりを見回すと、

「うわっ、なにこの惨状?!もしかして勇者、アンタがやったの?」

 などとほざきおった。

 まあ、今はまだ知らない方がいいだろうから、とりあえず肯定しておいた。


 俺たちは、襲われていた(と思われる)馬車に近づいて、声をかけた。

「おーい、中の人ー。盗賊どもは俺たちが全部倒したから、出てきていいぞー?」

 すると、馬車の窓が開いて、中から修道女(シスター)らしき人が顔を出してきた。

「あ、あの~、あなたたちは?」

 と尋ねてきたら、中から爺さんらしき声が聞こえた。

「これこれ、助けてもらったのにお礼も言わないとは、何事ですか。」

「も、申し訳ありませんっ!この度は、危ないところをお助け下さいまして、ありがとうございましたっ!!痛っ!!」

 と言って、頭を勢いよく下げて、窓のふちに額をぶつけていた。

「いいよ別に。ところで、アンタら誰なの?・・・ああ、この辺にはもう危険はないみたいだから、出てきても大丈夫だよ。」

 俺がそう言うと、馬車の扉が開き、シスターに先導されて、司祭の格好をした爺さんが馬車から降りてきた。

「この度はありがとうございました。私はこの国の教皇きょうこうを拝命しております。」

 ・・・テンプレ通り、結構な大物を助けてしまったようだ。

 つーか、この爺さんも河童なんだな。この国の司祭は、河童にするのが決まりなのか?

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