勇者の軌跡7:勇者、仲間が増える

 仲間が増えるよ、やったね!


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「ちょっ、ちょっと待ってよ!約束が違うじゃないっ?!」

 エルフの少女(多分)が猛抗議してきた。

「まあまあ、落ち着きなさいな娘さん。」

「まず、約束はたがえていないぞ?『外に出たらいきなり襲い掛かる』ことはしていないだろう?」

 そう言うと、彼女は「ぐぬぬ」と唸っていた。

「だ、だったら何であなたと一緒に行かないといけないのよ?!」

「そりゃあ、あなた。調査結果の報告に必要だからだよ。」

 報告で「ゴブリンじゃなくてエルフがいましたよー。」と言って、「そうですか、ご苦労様です。」とはならないだろう。

「本当ですか?証拠はありますか?」と言われるのが目に見えている。

 そう説明すると、

「じゃ、じゃあ、『ゴブリンだから討伐した』って言ったらいいでしょ!!」

 などと言ってきたので、

「それならそれで、討伐した証拠がいるだろうが。」

「それに、そんなことをしたら、ここに街の連中が押し寄せてくるかもしれないぞ?」

「な、何でそんなことになるのよっ?!」

「ここに『ゴブリン』がいるから警戒して手を出せなかっただけで、それがいなくなったら『当然』来るんじゃないか?」

「で、でも、結界を張っているからここまで来れないんじゃあ...。」

「んなもん、数の暴力で何とでもなる。それに、俺みたいに結界を抜けてくるものもいるかもしれないしな。」

「そうして、突破されたところにエルフが見つかったらどうなるかは、お前さんも想像できるだろう?」

「・・・・・・」

 俺がそう言うと、彼女は黙り込んでしまった。

「少なくとも、俺はそんなことはしない。何ならそんな連中から守ってやるぞ?」

 そう言うと、彼女は「えっ?」と言う顔をして、少し考えこんだ。

「・・・そうか、『勇者』ということは『転生者』なのね。『転生者』は『奴隷制度』に否定的って聞いたことがあるわ...。」

 うーむ、やっぱり「勇者」=「転生者」という認識は本当らしいな。

「まあ、人にもよるが、俺はそういうのに否定的なところで育ったからな。で、どうするかね?娘さん。」

「・・・どうするって?」

「ん?俺と一緒に行くかここに残るかだ。俺としては来てもらえるとありがたいが、決めるのはお前さんだ。」

「・・・う~~~~~ん...。」

 かなり悩んでいるな。まあ、当然か。俺と一緒に行けば一般ピーポーから好奇の目にさらされるし、かといって残れば突撃部隊の餌食になる恐れがあるからな。

 それから、悩むこと十数分、彼女は決断した。

「決めたわ、あなたと一緒に行く。そのほうが身の安全を保障できそうだし。」

「おう、そうか。それじゃあ、ちゃっちゃと行くとするか。」

「分かったわ。それじゃあ、荷物をまとめてくるから、少し待ってて。」

 と言って、彼女は洞窟に戻っていった。


 やれやれ、なんとかなったな。

 別にここに残ると言われても、俺としてはどーでもよかったのだが、もし拉致されてあんなことやこんなことをされたりするようなことがあったら、やっぱ寝覚めが悪いからな。

 まあ、彼女があの宿場町で暮らしていけるように、俺がちょっとだけお節介を焼くかな。

 俺は勇者だからな。困っている人を助ける使命を負っているわけだ。面倒くさいけど。

 てなことを考えていたら、準備ができた彼女が戻ってきた。

「お待たせ~。」

「おう、来たか。それじゃあ行くとするか。つーか、荷物それだけか?」

 彼女が持ってきたのは、小さな背負い袋1つだけだった。

「そうよ。私、あまり物に執着しない性格だから、私物は必要最低限しかもっていないの。」

 そう言って、彼女は笑った。

 うん、やっぱり美少女は笑顔が一番だ。でも手は出さない。出すつもりもない。「イエスロリータ、ノータッチ」である。

 こうして、俺はエルフの少女(多分)を連れて街に戻っていった。


「ところで、人間の町でエルフは珍しいのか?」

 俺は気になっていたことをエルフに聞いてみた。もし、そうであれば俺が何とかしてやらないといけないからな。

「そうね、エルフ自体はそこそこいるみたいだから、そこまで珍しいというわけじゃないけど、『普通』のエルフとなると珍しいかもね。」

 ・・・あー、なるほど。そういうことか。察し。

 とか話しながら歩いていると、結界が張ってある場所に着いた。

「ちょっと待ってて、今結界を解くから。」

 と言って、手をかざす。

 ・・・あれ、結界が消えた感じがしないんだが?

 そう思っていると、彼女がこちらを見てこんなことを言ってきた。

「ねえ、さっき『結界を壊せる』とか言っていたけど、本当なの?」

 ん、そんなこと言ったっけ?まあいいや。つまりコイツは「壊せるものなら壊してみなさいよ!」って言っているのか?

 よろしい!その挑戦、受けて立とうではないかっ!!

「それほど丈夫な結界じゃなさそうだから、多分大丈夫だと思うぞ。まあ、一般ピーポーだったらかなり手古摺てこずると思うけどな。」

 そう言ったら、彼女は驚いた顔をしてこちらを凝視した。

「・・・そう、じゃあ、やってみて?」

 おう、美少女からのリクエストだから、勇者さん頑張っちゃうゾ♪


 俺は結界の前に立つと、深呼吸をした。

 ふむ、戦闘ではないから「コマンド」は出ないのか。結構いろいろできるからな、あれ。

 それじゃあ、一丁やってみますか!

 俺は拳を握り、腰に構えた。

 そして、右腕を後ろに引くと、勢い良く踏み込んで正拳突きを放った。

「超必殺技、『天地覇●拳』!一撃必さぁぁぁつぅっ!!」

 ズドン!と大きな音が響き、結界にぶち当たる。

 一瞬の静寂の後、結界にひびが入ると、ほどなくして崩れ去り、消滅した。

「・・・・・・・・」

 ちらりと彼女を見ると、信じられないような表情をして固まっていた。

「・・・ふう、まあ、ざっとこんなもんだ。」

 俺は、やり切った表情でサムズアップした。

「・・・うそ、あれって結構強力な結界なのに...。」

 一方、彼女は何かぶつぶつ言っている。はたから見ると非常にヤバイ奴だ。

「よし、では行くとするか。ちんたらしていたら日が暮れるからな。」

 俺はそう言って、いまだにぶつぶつ言っている、傍から見たら怪しいちびっ子の手を引っ張っていった。

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 俺たちは、日暮れ前に無事宿場町に着いた。

 着いてすぐ、俺たちは依頼者のバーコード町長に依頼完了の報告をした。

 バーコード町長は、正体がゴブリンじゃなくてエルフだったことと、その本人にビックら仰天していた。まあ、そらそうだ。

 お礼を言われたが、報酬は前日の接待でチャラだそうだ。なんてけち臭い奴だ。

 俺たちはバーコード町長のいる屋敷を出ると、俺は彼女に向かってこう言った。

「それじゃあ、ここでお別れだな。一応、お前さんに危害を加えることがないようにあのバーコード町長に言っておくから、心配すんな。」

「・・・・・・はい?」

 何故か、彼女が素っ頓狂な声を上げた。

「何だ、腹が減っているのか?それじゃあ、今日は特別に俺のおごりで飯を食わせてやろう。(キリッ)」

 まあ、あんな所に住んでいたのだから、金は持っていないだろうな。

 こいつがどのくらい食べるかわからんが、もし金子きんすが足りなくなったら「勇者特権」で踏み倒...ゲフンゲフン、店側の「ご厚意」でチャラにしてもらえばいい。

「そう?ちょうどお腹がすいていたからありがたくいただくわ...、って、そうじゃなくって!」

 おー、見事なノリツッコミだ。芸人としての素質があるぞ。喜べ、小娘よ。

「『ここでお別れ』って、どういうことよ?!一緒に行ってくれるんじゃなかったの?!!」

 と言ってきたので、

「だから、『この町まで』一緒に来ただろうが。」

 と答えた。

 すると、一瞬動きが止まったかと思ったら、彼女は膝から崩れ落ちて、地面に両手をついてがっくりと項垂うなだれた。

「そ、そういう意味だったの?・・・私はてっきり...。私の覚悟はなんだったの...?」

「何だ、金の心配をしているのか?今日のところは俺が工面してやるから、心配するな。何だったら、どこかで働かせてもらえるように、バーコード町長に頼んでやってもいいぞ?」

 まあ、それはそうだよな。ただ、俺も忙しい身だから、お前だけにかまっているわけにもいかないので、そこは頑張れ。

 などと考えていたら、彼女はガバッと立ち上がると、俺の腕をガシッとつかんだ。こいつ、貧相な体格の割に結構力があるな。

「そうじゃなくって、私とパーティを組むっていうことじゃなかったの?!!」

「パーティ?なんだお前、もしかして陽キャのパーリーピーポーなのか?」

「何わけのわかんないことを言ってるのよ!私はあんたとパーティを組む覚悟をしたってのに!!」

 何かえらくヒステリックになっているな。よく分からん。

「え~っと、つまり、これからも俺と一緒に旅をするという認識でおK?」

「そうよっ!最初からそう言ってるじゃないっ!!」

 彼女はプンスコしながらそう言った。

「俺、『勇者』の使命で『魔王』を倒さなきゃならないけど、その辺だいじょぶ?」

「大丈夫よ、これでも私、結構戦闘力はあるのよ?」

 ふむ、それならいいか。戦力にならない者を連れて行くわけにはいかないからな。

「それじゃあ、これからよろしく?」

「・・・何で疑問形なのよ。まあいいわ。これからよろしくねっ♪」

 彼女はそう言うと俺の手を握り、満面の笑みを浮かべた。


 こうして、俺のパーティにエルフの少女が加わった。

 やったねた●ちゃん、仲間が増えたよ!

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