勇者の軌跡3:勇者、生まれ故郷を出る

 ・・・俺が「転生者」と身バレした日から、15年の月日が経った。

 俺がしゃべれるようになった途端、村人どもが押し寄せていろいろな知識を搾取さくしゅされてしまった。

 そのおかげ(?)か、この村は驚異的な発展を遂げ、気が付けばこの地域一の大都市に成長してしまっていた。

 俺の両親は、ただの「狩人」だったのが今や金にモノを言わせていろいろ融通ができるほどの「大富豪」になっていた(職業は「狩人」のまま)。

 元からいた村人たちも、なにか垢抜けて、立派な都会人みたいになっている。

 そして俺は、歴代の「勇者」たちと同じかそれ以上の力を身に付けた、と思う。

 まあ、それなりに努力をしたから、当然っちゃあ当然である(ドヤぁ)。

 それで今、なぜかこの街を守る自警団に対し、戦い方を教えているわけだが。

 正直言って俺、実戦経験ないんだけどいいの?って聞いたら、「問題ない。」と返答された。

 いや、問題ありまくりだろう。ただまあ、本人たちが納得していたら別にいいか。

「よし、まずは『気』を溜めて『ごっついタイ●ーバズーカー』を撃ってみよう。」

 そう言えと、参加者の一人が手を挙げた。

「勇者様ー、まず『気』を溜めることができませーん。」

 などとぬかしおった。

「はぁ~、まあいい。それじゃあ、『魔力』を使って『ボルテッカ・インフェルノ』を撃ってみようか。」

 そう言えと、別の参加者が手を挙げた。

「勇者様ー、『ボル何とか』って、何ですかー?」

 などとほざきおった。

「ん、知らんのか?『ものごぉぉぉぉっつい炎魔術』なんだが。」

「そんな魔術、知りませーん。見せてもらってもいいですかー?」

 ふむ、知らんのなら仕方ない。

「見せるのは一向に構わんが、この辺り一面焼け野原になると思うけどおK?」

「「やめてくださいお願いします。」」

 ・・・面倒くさい連中だ。

 とりあえず、ペアを組ませてチャンバラごっこをさせた。実戦形式なので、基本何でもありだ。

「相手も素直にやられてくれるはずがないから、頭を使えよー。あ、頭を使えと言ったけど、無理して頭突きとかしなくてもいいぞー。」

 先にありがちなボケを封じると、「くっ」とした表情の者が何人かいた。ふっ、勝ったな。

 そんな感じで、向こうでモブどもがわちゃわちゃしているのを、鼻をほじりながら見ていると、元村長で現町長の爺さんが俺の下に何か手紙のようなものを持ってきた。

「勇者様、王都の国王陛下から、書簡しょかんが届きました。」

「あ、そう。あんがと。」

 そう言って手紙を受け取り、中身を確認した。

「ふーん、一度王城に出向いて、顔を見せろ、かぁ~。」

 そういえば、以前「勇者は、成人したら王城に出向いて国王と謁見えっけんしないといけない。」とか言われたような気がするな~。

 あ、この世界の「成人」は15歳で、基本この年齢になると「覚醒の儀」で示された職に「自動的に」就くのだ。それまでは職に就くための準備期間だな。

 そうそう、この世界での『勇者』の地位は、国王並みらしい。すげえ。(語彙ごい力壊滅)

「ねえ、ここから王都までどのくらい掛かるの?」

 そう町長の爺さんに聞くと、うーん、と少し考えて、

「普通の馬車でしたら5日、地竜ちりゅう車でしたら3日ぐらいですかね~。」

 そう答えた。

 地竜とは、地面を走る恐竜みたいなものらしい。ヴェロキラプトルみたいなもんかな?

 ふむ、確か中世の馬車って一日に5~60kmぐらい進むらしいから、王都まで大体250kmぐらいか。

「じゃあ、歩いていくか。」

 俺がそう言うと、爺さんは驚いた顔をした。

「よ、よろしいのですか?徒歩だとかなり時間がかかりますが?」

 と言ってきたが、俺は別に気にしない。

「別に、この手紙には、『いついつまでに来い』とは書かれていないし、王都についてもすぐに会えるわけでもないだろうから、戦闘訓練も兼ねてのんびり行くよ。」

「わかりました。それで、いつ出立されますか?」

 と聞いてきたので、俺は少し考えて、

「『思い立ったが吉日』というからな。すぐ出かけるか。」

 と言ったら、爺さんが向こうでわちゃわちゃしているモブ達を見て、

「で、では、あそこで訓練している者たちはどうされるのでしょうか?」

 と聞いてきたので、俺は、

「誰か腕のいい先生を連れてくればいいんじゃね?それくらいの費用とコネはあるでしょ?」

 と言った。

「はあ、確かにそのくらいはできますが、勇者様はそれでいいのですか?」

 爺さんは何か納得がいっていないようだが、実戦経験を持たない俺が、「机上の空論」の戦い方を教えても意味がない。

「別にいいよ。それじゃあ、準備をして出かけるとしますか。」

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 次の日、出立の準備が整った俺は、街中の民の見送りを受けていた。

「忘れ物はない?正●丸は持った?夜、お腹を出して寝たら風邪ひくから駄目よ?」

「この街で一番性能がいい装備を用意したので、持って行ってくれ。」

 両親が心配してくれている。ありがたいことだ。

「あんがと。それじゃあ、行ってきます。」

 そう言って、街の外に通じる門に向かっていると、後ろから町長の爺さんの声が聞こえた。

「勇者様の門出を祝して、万歳三唱ーっ!!」

「ばんざーい!」「ばんざーい!」「ばんざーい!」

 ・・・何か「ボケ」を入れてくるのかな?と期待していたら、普通だったので、そのまま門をくぐった。

 まあ、所詮「素人」だからちかたないね。

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 こうして、俺は生まれ故郷を後にして、王都に向かって歩き出した。

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