アニメのキャラを好きだと言ったら、同じ名前の女子に聞かれてややこしいことになった

「ごめんなさい、あなたのことは好きになれそうにありません」

「ええ~そんなぁ。もうちょっと試そうよ」

「ごめんなさい」


 私はきっぱりとお断りして、しつこく付きまとわれる前に帰ることにしました。


 はぁ……結局この人も私の体だけが目当てでしたか。

 せっかくのデートなのに邪な事ばかり考えているような人を恋人にはしたくありません。


 何で私に寄って来る男の人って顔や体目当ての人ばかりなんでしょうか。


 贅沢な悩みよねって女子グループから爪弾きにされるから絶対に言わないけれど、少しくらい中身を見てくれても良いじゃない。


 私だってちゃんと相手の事を知ろうと努力しているのよ。


 デートの最中に、貴方達のことについて聞いてあげたじゃない。

 貴方達の好きな物や人柄や考え方。

 色々なことを知って好きになれるところがあるか頑張って探してるのよ。


 それなのに、私の体が目的だったり、可愛い彼女がいる事の優越感を感じたいだけだったり、逆に不自然に私に気を使い過ぎで私の事を問答無用で全肯定したり、一方通行ばかりで一緒に居ても楽しくない。


 何処かに私の中身を気に入ってアプローチしてくれる人はいないかしら。


 せっかくこれまで頑張って自分を磨いて来たけれど、それで集まって来るのがダメダメな男の人ばかりだなんて、悲しすぎるわ。




――――――――




「やっぱりきららちゃん良いよなぁ」

烏丸からすま君はきらら派ですか」

「当然よ、きららちゃん一択さ」


 ある日、廊下を歩いていると隣のクラスの男子生徒の話し声が聞こえてきました。


「(この年でちゃん付けは少し恥ずかしいです)」


 自分で言うのもなんなのですが、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人とは私のこと。

 神に愛された娘なんて言う人も居るけれども、これらは全て私が努力の末に入手したものなので、まるで運が良かったかのように言われるのは心外です。


 そんな私の唯一の弱点は名前。

 決して父や母の事を恨んでいる訳では無いのだけれど、もう少し一般向けの名前にしてくれたら良かったのに。


 『きらら』という名前は幼く感じられるので恥ずかしいです。


 女の子達にからかい半分でちゃん付けで呼ばれるのはまだ耐えられるのですが、男の人にそう呼ばれると気恥ずかしいので止めて欲しいと常日頃思ってます。


 ですので、彼らの会話を聞きたくなかったから、さっさと自分のクラスに戻ろうと歩くスピードを早めました。


「かわいいですからねぇ」

「かわいいだけじゃないぞ。芯が強くて逆境にめげないところがまた良いんだ」

「(え?)」


 今なんて言いました?


 これまで聞いたことのない誉め言葉に、思わず歩みを止めてしまいました。


 私の芯が強い、ですって?

 そんなことはじめて言われました。


「そして優しくて他人をいたわる心を持っている」


 確かに私は良く他人の心配をしますが、学校で表には出していないはずなのに、どうして分かったのでしょうか。

 まさかこの前の休日に道端で蹲っていたお婆さんを助けたところを見られていたのでしょうか。


「でも完璧じゃなくて、ちょっと抜けてるところがまたかわいいんだよなぁ」


 し、失礼な。

 私は抜けてるところなんてありません!


 も、もしかして、今日間違えてパパのお弁当を持って来てしまったことが気付かれたのかしら。

 恥ずかしいです……


「熱弁ですなぁ」

「滅茶苦茶好きだもん」

「俺の嫁ってやつですか?」


 ああ、結局この人も、なんだかんだ言って、私を自分の物にしたいだけですか。

 がっかりです。


「その考え方は古い古い。俺はな、きららちゃんには好きな人と幸せになって欲しいのさ」

「尊いってやつですな」


 ……………………あのお方の名前を確認しなければ。




――――――――




 はぁ~昨日のプリモン神回だったわぁ。

 きららちゃんのピンチに闇落ちした親友が正義の心を取り戻して助けに来るなんて、王道だけど燃えるよなぁ

 バトル後の二人の抱擁は尊すぎてガチ泣きしたぜ。


 早く帰って百回リピートせねば。


 それなのに杉崎先生、何で俺に用事を頼むんですか!

 荷物運びくらい他の人でも出来るでしょうに。

 いっつも俺ばかり扱き使いやがって。


 え、今度、プリモンの限定グッズくれるって?

 流石杉崎先生(男)!愛してる!


「遅くなっちゃった。早く帰らなきゃ」


 教室に戻ると、みんな部活に行ったか帰宅したかで誰も居なかった。

 俺は慌てて鞄を手にして帰ろうと教室を飛び出そうとする。


「おっと、危ない。ごめんごめん」


 扉の外に一人の女子が立っていて、危うくぶつかるところだった。

 こんなところでトラブルに巻き込まれて更に遅くなるのはごめんだぜ。


「あの、烏丸くん、ですよね」

「え?」


 だがぶつからなくてもトラブルはやってきた。

 どうやらこの女子は俺に用があるらしい。


 ってなんでやねん!


 俺みたいなぼっち系陰キャクソオタクに女子が話しかけてくるなんてありえないだろ。


 しかもなんか妙に綺麗な人……榊原さかきばらさん!?

 学校中の男が狙っているって噂の超絶美少女の榊原さん!?


 俺みたいな三次元に縁のない人間にまで噂が伝わって来るくらい、彼女はこの高校での有名人だ。


 そんな彼女が俺に話しかけて来るなんて変だ。

 きっと人違いではないか、とも思ったが、このクラスで烏丸という名字は俺だけ。

 どういうことだ?


 アニメを見たくて早く帰りたかったことを忘れてしまうくらいに驚いて困惑していると、榊原さんはとんでもないことを口にした。


「私と付き合って下さい!」

「え?」


 付き合う?

 誰が?

 誰と?


 榊原さんが?

 俺と?


 ははは、まっさかー。

 だって榊原さんだよ。


 告白すれば一回はデートしてくれるけれども決して付き合ってくれない榊原さんだよ。

 それが何で俺なんかと?


「な、なんで?」


 率直に聞いてみた。

 声が震えてるとか言うなよな。

 突然のことでビビってるんだよ。


「その……烏丸君は、私の中身を見てくれるから……」


 は?中身?

 中の人ってこと?


 実は榊原さんはガワだけで中の人が動かしてるってこと?

 リアル系Vtuberかな。

 リアルなのかバーチャルなのかはっきりしろよ!


 ごめん、俺はまだVには手を出してないんだよ。

 スパチャ送る金があるならアニメのBDを買うからさ。


 あ~ダメだ。

 混乱してる。


 う~ん、どうしようか。


 俺、三次元に興味無いんだよなぁ。

 榊原さんは二次元に負けないくらい可愛いとは思うけれども、現実での付き合いなんてめんどうなだけだ。


 その分、二次元は良いぞ。


 眺めるだけで俺の心に愛と勇気と情熱とぬくもりを与えてくれる最高のパートナーだ。

 彼女達が幸せになる姿を見られるだけで、俺は満足なんだ。


 はぁ……きららちゃん、すこすこのすこ。


「ダメ……ですか?」


 はっ!


 俺がトリップしている間に、いつの間にか榊原さんが近寄って来ていた。


 おいおい、手を取らないでくれ。

 女の子の手に触れるなんて、中学の林間学校のフォークダンスで滅茶苦茶嫌な顔されながら指の先っぽだけ辛うじて触れた時以来だぞ。


 俺の右拳を小さな両手で包んでこちらを上目遣いで見てくる。


 包まれたところが柔らかくて温かくて気持ち良い。


 これが女の子のぬくもりか。


 うう、良い匂いも香って来る。


 くそぅ、なんだこの気持ちは!


 俺は二次元にしか興味が無いんだ。


 きららちゃんの幸せを堪能するだけの日々で満足なんだ。


 でも……でも……


 このリアルなぬくもりと香りは二次元からじゃ得られない!


「その……友達からなら……」

「はい!」


 気付けば俺は、そう答えてしまっていた。


 そういえば、榊原さんの名前って何だっけ?

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