第31話 おしゃべりなゾーヤ
「かしこまりました。それではご案内の間ギルドの説明も致しますね」
ゾーヤの素敵な笑顔に促され、僕とルイスは客席とバーカウンターのような受付の間を通って奥にある階段を上る。わざわざ特別秘書が案内するからか、僕が稀人とかいう存在だからか、客席からの視線を感じた。みんな、マントやローブをまとい剣や盾、斧、槍、棍棒、杖、弓矢などを身につけ、物語やゲームに出てきそうな旅人の服装をしていた。
「彼ら、彼女らはみんなどこかのギルドに所属しているギルド員です。ギルドに依頼された任務を仕事としている方々ですね」
僕の思いを読み取ったのかのようにゾーヤが説明を始めた。
「ハルト様はご存知ないでしょうが、雑用から傭兵、魔物退治まであらゆる仕事がギルドには舞い込みます。そのなかでも王宮との関係が濃厚なものはといえば、やはり傭兵か魔物退治でしょうか」
螺旋状に続く木製の階段を上る。薄暗闇のせいかうっかりしていると足を踏み外しそうなつくりになっている。
「そうなんですか。すみません、宮殿以外のことは疎くて」
「あら、宮殿のことも疎いと思っておりましたが」
「ルイス!」
後ろを振り返ると、悪戯そうな微笑みが浮かんでいた。やっぱりイラッとするやつだな。
と、ゾーヤが急に吹き出した。
「お二人は仲がよろしいんですね~」
先に否定したのはルイスだった。その反応たるや矢のごとし、いや、アレグロモルトのごとし、か。そんなに顔を真っ赤にして怒ることもないだろうに。さっきまでの楽しげな感じはどこに消えたんだ?
「なかなかお二人のように御身分が高い方々の間ではそんな軽口は聞けませんよ。だいたい表では着飾った言葉で持て
「ゾーヤさん。その見方はだいぶ偏っているように思いますが……それより今のギルドのお話、もう少し詳しく教えていただけませんか?」
僕の知る限り、カロリナやマリー、執事長は普通に接してくれているが。でも、確かに他の生徒はそういう傾向が少なからずあるかもしれない。とかく嫌になるくらいの争いが貴族の間では渦巻いているのだろうか。
「失礼しました。それでは説明を続けさせていただきます。到着までまだ時間がかかりますからね」
見上げても天井ははるか先にあるようでまだ見えなかった。確かに長くかかりそうだ。
「国境の防衛や市街の見回り、魔物退治には正規の兵士以外にも多くのギルド員が携わっております。特に魔物退治はギルドの活躍によって、王宮や各市の周辺の魔物はほぼ全てが殲滅されています。王宮に魔物は出ないですよね?」
「ええ。僕はまだ一度も見たことがありません」
「そうなんです。魔物が一掃されたことで国はより内政や諸外国との外交に人手と時間を割くことができるようになり、発展を続けています。だから、もっとギルドの扱いをよくしてくれても──おっと、今のはぜひとも聞かなかったことにして下さい」
さっきの貴族の話といい、今の話といい、ゾーヤにはなにか王宮への不満があるのだろうか。
「ギルドはですね。たとえば、ここスルノアギルドに所属し、かつ傭兵ギルドに所属するアンジェリカさんみたいに、各地域単位で構成されるギルドと、それぞれの職種に応じて構成されるギルドに分かれていまして、ほとんどの方が複数のギルドに所属しています。あっ、アンジェリカさんは例で出したので実在はしませんよ。まあ、どこかにいるかもしれないですが。単独所属は、そこのギルド長などギルドの運営に携わる方々でしょうかね。さて、ここで2階ですね」
ようやく2階だ。続く階段の奥にドアがあり、そこを開けると2階のフロアに入るのだろう。……それにしてもおしゃべりな人だ。ルイスなんてうんざりしているのか、さっきから一言も声を発していない。
「2階はですね。ギルド員専用の取引所です。依頼の募集掲示や達成した依頼の報酬の受け渡し、ちょっとした買い物ができるようになっています。1階は主に交流スペースと新規の方や依頼者の受付をしていますね」
なるほど、依頼者とギルドメンバーが
「今、なるほどと思ったかもしれませんが、優秀なギルド員は一般市民の間でも噂になるので、名指しで依頼されるお客様もいるんですね。そうした場合、なかなか新人の方には依頼が回ってこず。まあ、実力に適した仕事が受けられるということなのかもしれませんがね。──さて、着きましたよ」
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