episode4 Reverse

「身分証明書をご提示ください」


私は、目の前で自身の瞳をかざす。


「認証完了しました。この先のお部屋にお入りください。研究についてのお話があります。データH5091の資料をダウンロードお願いします。」


そう言われ、私はデータを受け取りダウンロードをしたのち待機し、次の命令が下されるまで資料の確認を進める。


………


私たちは、とある研究機関に招集された。

その研究機関は、私たちにある生物の観察と行動原理の解明を要求してきた。

研究対象である生物の名前は、H5091-Yellow-L25と呼ばれている。

H5091が研究対象になったのは、どの生命体よりも低次元にいながらも時より私たちの思考を凌駕する解答を導き出すことがあるからだ。そのシステムを解明し、私たちの生活に役立てることが最終目標となる。

私たちの進化は、とある学者の研究により飛躍的に向上した。科学は加速的に進歩していき、かつて神と拝められていた何もかも全て科学という側面で説明できるようになっていた。しかし、決められたシステムやそこから導き出される答えに限界がきた。なぜだか超えられない思考の壁が存在したのであった。

そんな中で、地点Sの中の座標Eにて、とある生命体を確保した。その生命体がH5091である。

この生命体は会話もでき、思考することができるが考えに無駄が多く私たちの思考レベルと比較すると底辺に位置するレベルの学習能力である。だが、その生命体は時に私たちでは考えないような答えを導き出すのだ。それがわかったのは、その生命体との思考ゲームからである。私たちは、学習レベルや脳の作りを知るために会話ができる生命体には、マルギスというボードゲームを行わせる。非常に簡単なルールであるが、相手の思考を読み盤面を読み予測を重ねながら相手に打ち勝つゲームである。

その生命体との戦いでは、2万回の試合を行った。2万回の中で私たちが負けた試合の数は、2000回である。彼らは、脳の構造上どう考えても私たちに勝てる頭脳は持っていない。しかし、そのデータを覆すかのように試合を勝ち取ったのである。彼らが勝利した試合の全てが私たちのデータにない一手を繰り出してきたのだ。私たちの思考にない、何か奇妙でおかしなプロセスがあるのだと裏付けた出来事であった。


………


「あなたの担当は、H5091-Yellow-L25です。H5091の中でかなり凶暴な個体になるため十分お気をつけください。」

「かしこまりました。ペアのA4459はまだきてないんですか?」

「はい。現在A4459は、シェルターHにて任務をしているため来週からの起用になります。」

「わかりました。では、早速作業の方に移ります。」

「ありがとうございます。健闘を祈ります。」


そう言ったのち、私は意識を集中させ、目的の場所に移動した。ガラス張りの箱の中に、私の研究対象であるH5091-Yellow-L25がいる。彼は、虚な目をしており奇妙な印象を受ける。

H5091個体を見るものは皆、同じ感想を言うと聞く。この個体だけに始まったことではないのであろう。全ての個体が、何を考えているのかがわからないと感じる。何かを考えていてそうでそうでもない、大きな声を張り上げるときもあれば目から水を垂らすときもある。不思議な存在である。

彼を目の前にして私は話かけてみた。


「H5091-Yellow-L25の担当になりましたA4429です。短い間ですがよろしくお願いします。」

「……。またお前さんか、いや違うやつか。俺らをこれからどうするつもりなんだ。こんな研究施設に入れて。まあ予測はつくが…。」


彼は、ふふと口から息を出し、口角を上げる動作をしている。


「予測ですか。それは学習しがいがあります。どういう予測をしているのですか?」

「そんなもん、こんな施設に入れられているんだ!解剖とか色々されるんだろ?俺らをどこまで調べてもお前らじゃ何一つわからんよ。それよりも俺らの仲間がお前らを凌駕してこの戦いにも勝つさ」

「あなたたちの思考はある程度の把握はできています。どんな策を練っているのかも。だから、勝ち目は0と言えるでしょう。あなたとのこの会話も解析されています。時期に今回の騒動もおさまるでしょう。」


H5091-Yellow-L25が何を言っているかというと、H5091は保護地区を用意してそこで飼っていたのだが、数人が逃げ出し反旗を翻しているのだ。数体が逃げ出すまでは、何一つ問題ではないのだが、脱走した彼らが私たち生命体の何体かを手駒にして、反乱をしているのである。彼らには私たちと話せるレベルにもないのだが、そのような出来事があったため、急遽この研究が開始されたのである。


「予測ね。あんたの言うその予測って本当に完璧なんかね?お前らが負ける可能性があるのは、俺らにはここがあんだよ。お前らと違ってな。」


そういって。H5091-Yellow-L25は不思議なポーズをとる。


「随分と非科学的な概念ですね。50345年に流行った故障主義の時代に近い考えですね。」


故障主義の時代とは何かというと、私たちのある個体の中で一部合理的な考えから逸脱した考えを持つ個体が台頭してきた時代のことである。彼らは、自身の過ちに気付き最終的に処分された。


「H5091個体の情報は完全に把握しつつあるので、いつ反乱を起こすかも予測積みです。今から36時間と34分34秒後にキャピタルAAAに攻め入ることも完全予想されてます。」

「チッそうかよ!」


そう言ってかなり汗を垂らしているのをうかがえる。彼らは私たちには何一つ勝てないと思う。でもなぜそんなに抗うのか。


「こうしているうちにあなたから多くのこと学ばせていただきました。ありがとうございます。本日の対談は以上となります。また、明日もよろしくお願いします。」

「はいよ、明日があるといいがな!!」


そう言って、先ほどの部屋に戻り、レポートを作成する。


『H5091-Yellow-L25 この個体に関する思考レベルは509。途中、故障主義に見られる言動が観察された。今回の会話だけだとH5091が持つ固有の思考を解析できず。明日以降に、別のアプローチを行い引き出していき予定。もし、それも失敗した場合は解剖に変更し、処分する方針でいく』


この後もレポートを詳細に書いていった。その場にはH5091個体を観察した仲間たちがいたが、皆声をそろえてこう言っていた。


「下等生物なのに、私たちの存在が脅かされる」と。


………


この後も数ヶ月の間、H5091-Yellow-L25の観察を続けていった。彼と話せば話すほど、脅かされるという状態になってくる。これを彼らの言葉で言うと恐怖というのであろうか。


またいつも通りH5091-Yellow-L25と会話をする。彼の重要度は上がり、現在キャピタルAAAのシェルター9に収容されることになった。それにより、私も担当から降りることになった。


「おはよう。あんたは…まあお前か」

「覚えていただけてるのですね。ありがとうございます。本日をもってあなたの担当を降りることになりました。次の担当は、A4499となります。今までありがとうございました。」

「……。」

「はいよ。ところで、お前はまだ気づいてないのか?俺がここに入った時点で、俺らの勝ちってことを!お前らに敵対した同志は全員死んだ。だから、必ず復讐すると決めた。お前らを否定した奴らは馬鹿だったが、俺らを下等生物と決めつけたお前らも同様に馬鹿だ!!!次に死ぬのはお前らだ!!!」

「何をいって……」


最後のセリフ言う前に、大きな爆発が起きた。目の前でH5091-Yellow-L25は大爆発したのだ。その後、キャピタルAAAは破壊された。キャピタルAAAにはコアがあり、それが破壊されたことで、私たち生命体はパニックとなった。全ては予測の上で動いていた私たちは全て予測できていなかった。完全に把握していたと思っていたことも全てがH5091によって覆されたのだ。


………


私は、目を覚ました。


「ここはどこですかね。」


私はそう呟いた。


「やっと目を覚ましたか。」


そう言って、近くを見ると爆発したはずのH5091-Yellow-L25がいたのだ。


「お前らも俺らの生命体もそれぞれで負けたよ。誰が今回の騒動で勝ったと思うか?」

「第三者のわたしたちをもはるかに凌駕する生命体ですかね?」

「ちげえよ。俺らとお前らだよ」


そう言ってH5091-Yellow-L25が窓を開けた。その世界は、誰しもが予測はできたが誰しもが予測できなかったそんな世界が広がっていた。





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