充電はお好きなときに!

 さくらがいい質問をした。まじめに答えた。だけどなぜか怒られた。

しかも、みずほに。意味が分からない。


 のぞみが説明してくれた。


「今のは、鉄矢Pが悪いですよ。

 さくらの言う充電って、そういうんじゃないでしょう」


「? じゃあ、なっ……」


 言ってる途中で気付いた。

さくらは眠り姫だった。眠りから覚めても一時的にすぎない。

眠っているときの僕との身体の接触具合に応じて、起きている時間が変化する。

もし、途中で眠ってしまったりしたら……。


 夜の高級ブティック街でのことを思い出すと、顔が熱くなる!


「私たちアイドルを守るのはバカ鉄の仕事でしょう。

 しっかりした充電計画を立てておきなさい!」


 ごもっともです。


「んー? 充電って、他にも意味があるのか?」

「…………」………「…………」


 何も知らない田中さんが疑問を投げかけてくるが、誰も答えない。

僕の口からだってとても言えない。田中さーん、ごめんなさい……。


「はぁーい!」

「さっ、さくらっ……」


 今度は何が出るか、恐ろしい。


「充電タイムはー、赤坂が自分で決めていいですかーっ!」

「まぁ、いいわよ。さくら自身が1番、分かってるんでしょうし……」


 みずほがさくらに優しい。これも恐ろしい。でも、今は時間が大事。


「……私は、ちゃんとルールを守ってくれればそれでいいんだからね!」


 みずほーっ、ありがとう!


「でも、さっきみたいのは無しですよ。途中で眠っちゃうのは危ないですから」

「なるべくー、無駄な時間がないよーに、計算しておきまーす!」


 このはなしを1刻も早く切り上げたかった僕は、首を縦に振り、

さくらの充電タイムは、さくらが決めることになった。


「で、充電タイムって?」

「…………」………「…………」




 次は、最後のページの説明だ。


「最後に乗物や施設の紹介内容は、各自で調べるように。

 テンプレートを埋めるようにネットで調べておけば、何とかなるから。

 1つしか載せてないけど、必要なら各自でコピーを取ってね」


「乗物1つで、区間・開業年・変遷・使用車両・利用者数・主要編成。

 随分と情報を詰め込むんですね!」


 開業年と変遷があることで、視聴者の年齢層を広げられる。

使用車両や主要編成があれば、単純に乗ってみたくなる。

そういった仕掛けを随所に散りばめている。


 テンプレは2年間のコメントから抽出した視聴者が求める情報の必要要素群。

本当はだれにも公開したくない、僕の虎の巻。

けど、この企画は出し惜しみなんてしてられない。


「うんっ。はじめてだから調べての感想もまとめておくといいよ。

 現場へ行っての印象も大事だけど、旅は1発勝負!

 抜け漏れがないように、しっかり準備しよう!」


「はいっ!」…………「はいっ!」「はぁい!」


 上手くまとまった! 




 最後にインタビュー動画を撮影してもらうことにした。

田中さんはリスクが高いと言って反対したけど、僕は押し切った。

考えられることを全部やっても、結果がどうなるかの見通しは厳しい。


 誘導企画用の動画を作成するのに、素材は多い方がいい!


「じゃあ、コレを見て各自で撮影。しくよろーっ!」

「もう遅いわ。さくらが1番がいいんじゃない?」


 みずほがリーダーらしいことを言った。うれしい!


 でも、さくらが意味不明。

田中さんがフォローしてくれるけど、それも意味不明。


「赤坂はーっ、社長ー? あずかり?」

「そうそうそう、眠り姫は、社長あずかりだから、最後でいいだろう。

 俺はもうそろ帰るけど、鉄、鍵はポストに入れてけよ」


 社長あずかりの意味はよく分からないが、田中さんの判断に従う。


 結局、順番は最後に社長あずかりのさくらと決まった。




 作業を進めていく。先ずは、僕のサイトに載せる誘導動画の編集だ。

コレが、最も重要な作業となる。


 交通に興味のある視聴者にどうすれば『愛されてるよ』の魅力が伝わるか。

いい動画にしないといけないんだけど……うーむ、アイデアが浮かばない。

そのうちにみずほたちが帰ってしまう。早く終えないとあとの作業がつかえる。


 そんなときに、社長から電話。直ぐに応じる。


「どうだ、企画は上手くいってるか?」

「それより……」


 さくらのことを確認しようと思った。

社長あずかりの意味が聞けたらと思った。


「それよりってのはなしだ。鉄の頭ん中は企画のことだけでいい。

 さくらのことなんか心配すんな!」


 見透かされている。さくらを心配しているのは本当。

だけど、それを言い訳にしている僕がいるのも本当。


「はい。じゃあ、よろしくお願いします」

「深く考えんなよ。『あっ、こいつ、楽しんでいやがる!』って、

 思わせたもん勝ちだ。それだけで結果は付いてくんだよ!」


 おっしゃる通り。視聴者にそれが分かるようにすればいいだけ。

難しいけど、やるしかないことだけは再確認できた。


「あざーっす。元気出ました!」


 ちょっと無理して言ってみた。


「調子こいてんじゃねぇぞ、コラッ……」


 怒られた。でも。


「……でも、まっ、期待してっからよ!」


 社長はいつも『期待している』と言って電話を切る。今回もそうだった。

おかげでしゃにむに頑張るしかない現実が確認できた。




「コレで……完……成……」


 と、全ての作業を終えた直後には、ソファーに移動。うとうとしていた。


「鉄矢Pーっ、そろそろー、充電タイムでいいですかぁ?」

「んー、そーだねー……」


 テキトーに返事をした。


「じゃぁ、ばんざーい、してーっ」

「んー……」

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