これが最後であってほしい

 石見さんが仕切る。


「コンセプトといえば、清楚系とかセクシー系が有名ですね。

 他にダンス系・ギャル系・ケモノ系にお笑い系!」

「それって、山手プロの……」


 山手プロの6つの現役ユニットのコンセプトだ。

こうして並べると、被らないのが分かる。田中さん、さすがだ。


「……石見さん、よく知ってるね。感心するよ」

「はいっ! 被らないようにするんだったら、爽やか系とかってどうでしょう?

 鉄矢プロデューサー!」


 と、石見さん。とても爽やかだ。

たしかに山手プロにはないジャンルだ。

ただし、あんまりリンリンを刺激しないでくれ。


「ありだと思うけど、何かが足りないんだよなぁ……」


 優柔不断になってしまう。早く決めないといけないのに……。


「赤坂、かわいい系がいいなぁ」

「かわいい系、ねぇ……。それだけじゃないんだよなぁ。

 はなんかしっくりこない」


「鉄矢ぁ、赤坂、かわいくないですかぁ……」


 しゅんとする赤坂さん。どう考えても、かわいい!

けど、ユニットのコンセプトとしてしっくりこないのは本当。

リンリンの目つきがちょっと気になる。高橋さん、頑張って!


「あっ、ウチ、鉄矢プロデューサーの言いたいこと、分かります。

 赤坂さんは『デイージ』方面かと思います。

 鉄矢プロデューサー、好きそうですよね!」


 そっ、それはっ! セクシー系じゃないか!


「うーん、そっかぁ。赤坂、セクシーさに磨きをかけます!」


 赤坂さんが小さくファイティングポーズする。胸が少しゆれる。

いやいや、これ以上セクシーになられたら困る。今でもすごいのに!


 一瞬、ゾクっとする。リンリンの視線だ!

騒ぎ出す前に何とかしないと。高橋さん、もうちょっと耐えてくれーっ!


「伊駒さん、赤坂さんは最年少だよ。ちゃんと守ってあげて!

 セクシー系は絶対なし! それより僕は大好き系……いや、違うなぁ。

 好き好き系……ラブリー系? うーん。どれも違う……」


 イメージはできているんだけど、言葉が出てこない。語彙のなさを痛感する。


「要は、鉄矢が赤坂たちのことを大好きーってのがコンセプトなんだね」


 そう。そうなんだ。

元々は僕が大好きなみんなをプロデュースするという発想からはじまっている。

鉄道をはじめとする交通系を捨てるんだから。

けど、それを言葉にするのが大変。何か、妙案はないものか……。


 考えていると、リンリン。片目をつぶりながら。


「大手に喧嘩売ることになるけど、愛され系とかってどう?」


 愛され系……人気メジャーアイドルグループのコンセプトだ。

だけど、今までの中では1番しっくりくる。


「うん! いいんじゃないかな。愛され系!」

「フフンッ! どうよっ!」


 リンリンはドヤ顔だ。だけど、猛反発した人がいる。石見さんだ。


「それは、まずいですって!」

「何よ! 文句あるわけ? そんなに大手が怖い?」


 ややこしくなりそうだ。


「違いますよ。愛され系って『スィーツ』の初期のコンセプトなんですよ!」

「げーっ。それは絶対ダメね。やっぱ、なーし!」


 無責任な。

けど、いつも強気なリンリンが、こうもあっさり撤退するなんて、

レジェンドの影響力は凄まじい。


「そーぉ? 鈴木先輩の案、頼んでみたらいけると思うけどなぁ……」

「誰に?」


「んー、社長?」

「いっ、命知らずね、赤坂さくら! 尊敬するわ」


 リンリンと赤坂さん、案外、気が合うのかもしれない。

どうしていつも喧嘩するんだろう。


 ずーっと黙っていた高橋さん。石見さんが膝を打つ。リンリンも続く。


「あのっ! 足してみたらどうでしょう?」

「なるほど! 愛されさわやか系みたいな感じ?」

「語呂が悪いわ。愛されかわいいさわやか系。

 いや……あと1つって感じじゃない?」


 そのあとの1つが難問だ。誰もがそう思ったとき、高橋さんが言った。


「あの、鉄矢プロデューサー、

 愛されかわいいさわやか観光系ってどうでしょう!」


 ドヤ顔だ!


「観光? どうして?」

「だって、鉄矢プロデューサーって、観光の動画、あげてるじゃないですか」


 あれは交通系というんだけど……。

でも、女子が主役なら交通系より観光系の方が合ってるかもしれない。


「うん。そうしようか!

 みんな、ありがとう。いろいろなアイデアをくれて」


 こうして、コンセプトが決まり、直ぐにユニット名も決まった。


「『愛されてるよ』なんてどう? 1番強調したいのは愛され系だから!」


 そう言わないと、身の危険が迫っているように感じた。

高橋さんが僕のことを鉄矢呼びしたあたりからだ。

リンリンに多少の忖度があったことは、内緒だけど。


「バッ、バカ鉄のくせに、何、うれしいこと言ってくれんのよ!

 愛されかわいいさわやか観光系アイドル『愛されてるよ』って、

 サイコーじゃない!」


 木に登ってくれた。これで命に別状はなさそう。

よかった、よかった。


「コンセプトに従えば、下の名前で呼び合うのがいいと思います」

「高橋さん、じゃなかった。のぞみ、ウチもそれがいい!」

「はいっ。あのぉ、プロデューサーのことも下の名前でいいですか?」

「うんっ、みんながそう呼んでくれるなら、それでいいよ!」

「そうね! バカ鉄も禁止よ! アタ……私も自重するわ」


 めでたし、めでたし。の、はずだったが……。


「愛されかわいいさわやか観光系。

 これって、略すと『あ・か・さ・か系』ってことーですね、鉄矢ぁ」


 また、余計なことを!


「うっ……うううううーっ、赤坂さくらーっ!」

「あー、いーけないんだぁー!」

「そうですよ、みずほ!」

「下の名前って、決めましたよ」

「フルネームは反則ですよ」


 みっ、みんな。そんなに煽んないでっ!


「なっ、何よ! アンタが自分に寄せるからでしょーっ!」

「んー、結果論? 略されるのは宿命だと思うし。鉄矢が決めたことだし!」


「鉄矢ってなによ! Pくらい付けなさい、Pくらい。もぉーっ!

 コラ、バカ鉄ーっ! アンタ、ちゃんと教育しなさいよ!」

「あぁ、そうですね……」


 結局、怒られた。これが最後、なわけないな……。

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