決意しました!

 みんなに、僕なりの決意を語った。


「本当は今日でバイトを辞める予定だったんだ。

 でも、正直、リンリンを見ていて気が変わったよ。

 あんなに踊れるとは思っていなかったんだ。


 はじめは、失敗して迷惑をかけるかもしれないけど、

 僕の大好きなみんなを、絶対に成功させてみせる。

 バイトの僕でよければ、みんなのプロデューサーをさせてください。

 よろしくお願いします」 


 みんなが拍手してくれた。快諾してくれた。それはうれしいことだけど、

あとで明日からの旅のチケットは、キャンセルしておかないと。

1週間の旅なんて、これから先、いつできるか不安だけど、

みんなを成功させることのほうが優先順位は高い。


「やっぱり『肝心なのは愛』ですね。ウチ、感動しましたーっ!」

「あーそのメモ、赤坂さんの計算式を立てるときのやつ……」

「大事なことが1つもない。全然、式になってないし!」


 メモを見せる伊駒さんに、高橋さんと石見さんがツッコミを入れる。


「赤坂は、それで合ってると思いますよー、伊駒さーん」

「本当? そう言ってもらえるとうれしい!」


 みんなの仲がいいのが、僕としては何よりだ。


「プロデューサーのあいさつも、感動的だったな! パチパチパチパチ」


 もう1度、盛大な拍手をいただいた。




「まぁ、アタシとしては『血へど吐いてもついて来い!』くらいは

 言ってほしかったけど、バカ鉄らしくっていいんじゃない」


 リンリンは上機嫌にそう言った。

そういうの、僕は苦手だってことくらい知ってるだろうに。


「あっ、それって『リーダー讃歌』ですよね。ウチも大好き! 高橋さんは?」

「私は……うーん、たしかに強引に引っ張ってくれる人も、憧れるぅ!」


 そうなんですか? 今ってそういう時代なんですか?

道理で僕がモテないわけだ。


「赤坂はぁ、プロデューサーはそういうこと、できる人だと思うなぁ」

「あっ、私、赤坂さんの言いたいこと、分かります。

 妥協しないっていうか、情に流されないっていうか」


 ちょっと、ドキッとしてしまう。


「アン、石見さん? アンタ、アタシと赤坂さくら、どっちの味方なのよ!」

「いやっ、どっちの味方ってことないですよ!

 単純にそう思ったってだけですから」


「でも、さっきはアタシの言ってること、分かるって言ってたじゃない!」

「それだって、単純にそう思ったってだけですから。他意はないですよ」


 多分、本当のことだろう。


 いがみ合うというより、リンリンに一方的に絡まれている石見さん。

助けようと、高橋さんがはなしを振る。


「非情といえば、赤坂さん。あの状況でセンターに移動したのは驚きました」

「そのあとのプロデューサーの指示、アレもたしかに非情だったわ……」


 その通り。自分でカメラを移動させるべきだった。


「バカね。アレこそがバカ鉄の優しさじゃないの……」


 見透かされてる。高橋さんたちは分かっていないようだけど……。


「あっ、赤坂、鈴木みずほ先輩の言いたいことー、分かりまーす」

「何よーっ、アンターッ! フルネームで呼ぶなーっ!

 石見さんの文法マネしてんじゃないわーっ! あと、誰の味方なのよーっ!

 って、いくつツッコミ入れさせんのよーっ!」


「はいはい、鈴木せんぱぁーいっ!」

「『はい』は1回でしょう!」


「はーい!」

「コラ、バカ鉄ーっ! アンタ、ちゃんと教育しなさいよ!」

「えっ、あっ、僕?」


 飛び火した。誰か助けてーっ!




「お互いの呼び方って、決めた方がよくないですか」


 うんっ、高橋さんは聡明! ナイスだっ!

新しい話題にリンリンが直ぐに飛びつく。石見さんが続く。


「そうね。それ、賛成! アタシのことは遠慮なくリンリンって呼びなさい」

「でも、そういうのって、ユニットのコンセプトによるんじゃないですか?」


 ハッとした。コンセプト、そんなの考えてなかった。

相変わらず僕は行き当たりばったりだと実感する。

だけど、石見さんの言う通りだ。


「コンセプト、ねぇ……」


 考え込んでしまう。


「そんなにむずかしーく考えなくって、いいですよ、鉄矢ぁ!」

「なっ、何よ。鉄矢ってーっ、赤坂さくらーっ!」


 リンリンが赤坂さんに噛み付く。


「えぇーっ、でも赤坂と鉄矢はー、くちびるを交わした仲ですから」


 赤坂さんがリンリンをからかう。


「くっ、くちびるーって、ほっぺにキスしたくらいで偉そうに!」

「あれはすごかったなーっ。愛が、どんどん注ぎ込まれてきてぇー」


 次第にエスカレート。


「何よーっ! このこのこのこの、このーっ! バカ鉄のバカーッ!」


 で、結局は僕が怒られる。「はーっ」とため息を吐く。




「コンセプトは重要ですよ、鉄矢プロデューサー!

 ビシーッと決めてほしいです!」

「いっ、伊駒さん、アンタまで鉄矢って……」


 高橋さんがリンリンの頭をよしよししている。

リンリンは涙目、高橋さんは苦笑いだ。

折角、高橋さんがリンリンの相手をしてくれているうちに、はなしを進めたい!

絶対にみんなが納得するコンセプトにしてみせる! 

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