第7話 スパイダー・シルク

 結局美咲は途中で投げ出し、援助交際を自身でする形になった。

 なまで一人二万円。一日二人がいいところで、援助交際の客も若い子を求めているようだ。

 もう三十路となる美咲にはどんどんと魅力が無くなっているように感じる。

 毎日頑張っても月に五~六十万円しか稼げない。元の十分の一だ。


 安い家を借り、川辺と住みだしたが新しい職場では出張が多くあるらしく三日に一回ほどしか帰ってこない。

 毎日帰ってこない川辺のために晩飯を作り、寝る前にそれを捨てた。

 落ち着くまでは美咲の金でやりくりしなければならず、食費と家賃と少しの金を残し、後は全て川辺が持っていった。

 髪も肌も綺麗にするだけの金が無い。


 疑心暗鬼になる。本当に出張があるのか。今どこにいて何をしているのか。

 残りの金を全て使い、探偵を雇った。

 とりあえず一週間の様子を見てもらうことにした。


 翌々日に川辺が帰って来て「美咲今、なまでしてるよな?」と怒りを露わにした。

「そうじゃないと稼げないって言ったでしょ」川辺が怖い。

「どうしてくれるんだよ。病気が移っただろ」当然その事も頭に入れているものだと思っていた。

「病院行けばすぐ治るよ」と言うと怒ってそのまま家から出て行ってしまった。

 何が正解だったのだろう。


 それから五日経ち、探偵から電話がかかった。

 すぐに近くの喫茶店に待ち合わせる。

「驚かないでくださいね。彼氏さんは結婚詐欺師です」頭が痛い。脳が溶けていくような感覚だ。

「今は四人の家を転々としています。働いてもいません。結婚していたのも嘘です。証拠は揃ってますが警察とかどうしますか?」とにかく眠りたい。

 あの時病気が移ったというのは恐らくカモの女性に移してしまったのだろう。


「帰ります…」と証拠だけを持ち帰った。

 それからとにかく眠った。二十二時間ほどで目が覚め、もう一度書類に目を通す。

 共通点は皆風俗か援助交際かで稼いでいるという点だ。

 探偵もよくここまで調べられたなと感心する。

 どこかのゴシップ記事を見ているように感じた。


 川辺がこの家に帰って来ることはもう無いのだろう。

 しっかりと鏡を見ると驚いた。髪はボサボサで肌も荒れて小じわが目立つ。目の周りも落ちくぼみ四十代でも通りそうな容姿をしている。

 通りで、援助交際も顔を見て逃げられたり値切られたりとしたわけだ。


 何故か笑いが込み上げる。あれだけ色々な男の金で豪遊してきたのだ。

 何もない方がおかしい。


 美咲は椅子に乗り、ロフトの上部に何重にも巻いたビニール紐をくくりつけ、それを首に巻いた。


 美咲の人生はどこから間違っていたのだろう。産まれた時からなのかもしれない。


 絡めとったと思っていたのに、気が付けば自身が身動きが取れないほどに絡まっていた。



「愛してる、かぁ」と呟いた後に乗っている椅子を蹴飛ばした。

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