第6話 暴、金、プライド
明くる朝、渋谷が連絡なしに部屋に来た。
乱暴にソファーに座り、テーブルに何枚もの書類を投げつけた。
中身は先日の美咲と川辺の写真だ。
金を渡して抱きしめられるところまで撮ってある。
「これはなんだ?約束が違うだろう美咲」渋谷は何度も煙草に火を着け、二口ほどで消す。
「これは…別に何も…ないから」
「言い逃れか。がっかりしたよ。契約は破棄だ。一週間以内に出ていけ」それだけを告げ、大きな音を立てて出て行ってしまった。
次の働き口を探さねばならない。
だが愛を知った今はもう風俗に戻りたくはない。
考えるのをいったん辞めてベッドに潜り込む。川辺に逢いたい。
二日後に川辺から連絡が入った。
「なんとかなったよ。ありがとう。明日また逢えないかな」
服や貴金属を整理している手を止め「もちろん行きます」と返した。
渋谷の事は川辺に話していない。ただでさえ風俗店で出会い、汚れた身体と思われているかもしれない。
今回は直でホテルだ。
「美咲愛してる」と囁かれ、川辺の身体にしがみついた。
この幸せを続けるにはどうしたらいいのだろう。
汗で濡れた身体をシーツに擦り付けながら考える。
愛してるとは妻よりも愛してるのかと聞きたかったが聞けなかった。
「私がまた風俗とか行ったらどう思いますか?」
「理由もあるから仕方ないけど少し妬いちゃうな」と美咲のうなじにキスをする。
「あ、そうだ。嫁とうまくいってなくてね。もしかしたら、別れるかもしれない」美咲はこれで川辺と一緒になれると希望を持った。
「でもね、ほら。嫁とは職場恋愛って言ったでしょ?嫁は上司でね。会社も辞めないといけないかもしれない」テーブルに置かれた両手は何かを掴んだように拳を固めた。
やはり美咲がしばらく面倒を見なければならないだろう。貯金もあるにはあるが底が浅い。真剣にまた風俗で働くことを検討する。
「美咲。嫁に不倫がばれてね。慰謝料請求されたんだ」
慰謝料を払いさえすれば川辺と一緒になれる。
「いくらですか?」美咲は身を乗り出した。
「六百万だよ。この前助けてもらったから無理だよね?」川辺は寂し気に笑った。
「払います。これで一緒になれますか?」
「会社も辞めなくちゃいけないから迷惑かけるかもしれないけど」
手汗を両足の太ももを擦りつけている。緊張からくるものだろう。
美咲は座る川辺を背中から抱きしめた。
「大丈夫です。私もまた働くので」抱きしめた腕を強く握ってくる。
「ごめんね美咲。愛してるから。全て片付いたら結婚しよう」
美咲は残り少ない預金から六百万をおろした。
川辺に金を渡した後、風俗の面接に向かう。
アンケート用紙の様な簡易な履歴書に下着姿の写真を撮られた。
「グループ店に熟女専門店があるんだけど、そこでいいかな?うちの子みんな十代とかだから」明らかにヤクザと思われる男の袖の下からは刺青が見えている。
美咲のプライドはドロリと溶け崩れていった。
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