第4話 手
またも渋谷が帰った後にショートメールが届いた。
「明日空いてますか?」
「いつでも大丈夫です!」一分も経たないうちに返信をする。
「ではまた同じ場所で同じ時間に」と返事がきた。
再び服をベッドに並べ、次回は綺麗めの格好で行ってみようと思い、白いニットに同じく白いスリットの入ったタイトスカートに決める。
経たない時間と戦い、ようやく約束の日取りになった。
やはり一時間ほど早く待ち合わせの場所にいると、三十分しか経っていないのに川辺が来た。
抱きつきたい衝動に駆られたが相手は既婚男性だ。
腕を組むくらいは大丈夫らしい。
エスコートされ歩いていると「あ、ベーやん?」声が聞こえ、美咲は川辺から離れ距離を置いた。べーやんとは川辺の事だろう。
ばれても美咲には何も関係ないのだが、川辺はそうではなさそうだ。
バツが悪そうに戻ってきた。
「大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと知り合いだったから遠くに行こうか」美咲がまた捕まえそうな腕を離され後を着いていく。
一軒の安居酒屋についた。店に入ったが信じられない金額で料理を提供している。
「こういう所きたの初めてです」儲けは出ているのだろうか。
「ここ、安くて美味いよ。とりあえず生でいいかな?」生、とはビールのことだろう。
全てを任せしていたら小さな小鉢が二つ来る。
「これは何ですか?頼みました?」美咲が目を丸くしていると川辺が笑い出した。
「本当にこういうところ来た事ないんだね」やっぱりその優し気な笑顔にときめいてしまう。
「食べていいやつだよ。どうぞ」と川辺が美咲の前に小鉢を差し出す。
食べてみると大味だが美味い。
ふとした瞬間に見せる陰りのある顔が気になったが、川辺の話を真剣に聞いていた。
「嫁とはね、職場結婚でね。今さっき会ったのも同期でさ…」とぽろっと川辺の口から言葉が零れ落ちた。
「大丈夫ですか?」美咲は心配するふりをした。これで色々とバレても問題ない。川辺を手に出来る。
一人匿ったところで貯金が尽きることはない。
「駄目だったら美咲ちゃんなんとかしてくれる?」眼光が鋭く光った。
見覚えのある眼だ。風俗で働いていた時は皆一様に同じ眼をしていた。
美咲が欲しいのか、それ以外の何かを狙っているのだろうか。
差し出せるもので、川辺が手に入るなら何でも差し出したい。
「もちろんです!」と答えると川辺は椅子の下から手を握ってきた。
その手は大きく、少し硬く”男”の手をしていた。
手から脈がわかるほどに集中して強く握り返す。
手は汗で濡れている。それだけで美咲はもっと強くと願ってしまう。
気持ちが満たされたが、川辺はこの後どうしたいのだろう。
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