第3話 違和感

 よく寝付けないまま日が昇る。まさか川辺から誘いが来るとは。胸が高鳴る。

 何が目的でも構わない。

 口座から二百万円を下ろし、念入りにメイクを施す。

 この前はばっちりメイクだったので今回は綺麗目にした。

 服はどういう系が好みなのだろうか。

 全て川辺の口から聞きたい。


 結局黒のワンピースにベージュのサファリハット、距離を置かれたくないので安めのバッグにした。

 姿見で全身くまなくチェックする。完璧だろう。

 芸能界に渋谷から誘われた事もある。街を歩けば常にスカウトとナンパの嵐だ。

 美咲の頭の中ではいつも「この私が」という感覚があるが川辺に関しては別物で、極端な話足を舐めろと言われれば舐める。なんでもできる。


 約束の時刻の一時間前から駅に立っていた。

 九時ぴったりに川辺が現れた。美咲はすぐに気が付く。

 思い切り両手を振っていたら川辺がその両手を掴み下ろした。

「一応結婚してるから。ごめんね」優しく手を放す。

「気が付かなくてごめんなさい」と美咲は肩を落とした。

 今日の川辺は前よりも目がぎらついており、男の目をしていた。

 きっと今夜抱かれるのだろう。身体中手入れをしてよかった。


 川辺は舐めるように美咲を見て「俺なんかじゃ釣り合わないな」と言ったが「そんなことないです!」と川辺の腕に自身の腕を絡ませエスコートされる形にした。

 よくよく顔を見ていると細目の目が垂れており、笑った時に見える八重歯が可愛らしい。

 高級鉄板屋に連れて行き、戸惑う川辺と楽しく話し、ホテルのバーで酒を嗜み支払いは全て美咲が行った。

「ご馳走様。いいのかな。俺男なのに」

「いいんです。前の仕事柄少しは貯金があるから」美咲は笑顔で押し通す。


 実はホテルに部屋をとってある。

「ちょっと酔ったみたいで、部屋まで連れて行ってくれませんか?」とありきたりな台詞を吐くと、待ってましたと言わんばかりに川辺が部屋までエスコートをしてくれた。

 エレベーターで腰を強く引き寄せられる。

 私は物でいい。それでも少しでも一緒にいたい。

 顔を赤らめていると、部屋につきベッドに美咲を横にした。

 目を思い切り閉じ、開けるとそのまま川辺の帰る背中が見える。

 虚しくなり涙がうっすらと零れた。横向きに胎児のような体制で小さく嗚咽を漏らした。


「私のどこが悪いんだろ…」部屋の壁を見つめ独り言を呟くが、壁からの返事はない。何か違和感を感じる。デートをしたのに手すらも繋げなかった。

「先日はありがとう。今度は俺がお金払うから」すぐに川辺からショートメールが届いた。

 袖で涙を拭き「今日は楽しかったです。楽しみにして」と返事をした。


 ということはまた逢える。次こそは少しでも距離を縮めたい。

 いきり立ち、家に帰り着くと着ていた服を脱ぎはさみで切り捨てた。

 次はかわいい系かボーイッシュな恰好をしよう。

 見るたびに変化していくと川辺が興味を持ってくれるかもしれない。


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