/// 27.執事と修行と旅立ち

オリベイル家の指名依頼で呼び出しを食らったサイコはエイルの圧で気絶して絶望した。新たな遺跡深層部という目標もできたが、さらに修行を再開するという悲報を聞いて嘆くのであった。


どうしてこうなった・・・




中庭に移動する。表情が硬いサイコはにっこり笑顔のエイルと向かいあう。


「今度は程々にしますので、いつでもどうぞ」


そういうエイルに、あきらめを胸に一切の遠慮をせず全力で切りかかる。何度も躱(かわ)され、ひっきりなしに危険察知が警鐘をならしつづけている。己の限界の超えての躱(かわ)し躱(かわ)されの攻防は続いた。・・・とはいっても、当然のごとくエイルは涼しい顔である。最初から一歩も動いていないからね・・・


そこで動きのない足元を狙ってみたところで、手刀で埃でも払うように軽くあしらわれる。上半身なら当然のように紙一重でかわされ、同時に反撃の拳がくるので、命の危険を感じながら全力でもって避ける。そんなことを延々と3時間ほど続けた後・・・サイコはバックステップで距離をとり、手を前に突き出してストップをかける。そしてそのまま体力も心も限界がきたサイコは、前にへたり込んで吐いた・・・一応はエチケットとしてきらきら加工は施されているので安心してほしい。


「そろそろ終了としまよう」


そういってカトレアお嬢様と一緒に屋敷内に戻っていく。正直、着ているスーツをピッと直すとかそういった動作があっても良いのだが、それすらなかった。


「まあまあ頑張ったじゃない。明日からが本番よ!じゃあまた後で!」


そんなセリフを残して戻る二人の後ろ姿を見送った後、ゆっくりと呼吸を整えて立ち上がる。すぐにメイドが二人寄ってきてお風呂と着替え、食事の準備ができているということを矢継ぎ早に言われながら、まずは部屋に戻るよう急(せ)かされた。もう抵抗する気も起きず着替えにお風呂にと、メイドたちになすがままにされるサイコ。その流れで食事を、と食堂にとおされる。


食堂には執事エイルとカトレアお嬢様がおり、少しだけ前の世界、地球での話を聞かれた。しかし目ぼしい情報はなかったようで、「ふーんそうなのね」とすぐに飽きてしまったようだ。その後も普通に食事を終わらせると、部屋に戻ってぐったりとしながら深い眠りに落ちるのだった。あといくつかのスキルの熟練度が、異常なほど上がっていることが確認できたのだが、すでに喜ぶ気力もなかったサイコである。


ぴろん!

『スキル超回復ヲ習得シマシタ』



現在のサイコ

種族 人族 / 年齢 18 / 性別 ♂

LV 100m

力 975

守 610

知 1135

速 1348

スキル 詳細鑑定(999) 言語疎通(999999) 肉体強化(6948) 魔力増強(386) 料理(2709) 精神耐性(3581) 無限収納 調合(5) 並行処理(2519) 鍛冶(758) 酒造(5) 精密動作(3415) 危険察知(7156) New!!超回復(1)

魔法 転移(62) 浮遊(38) 治癒(457) ウィンド(1) 浄化(382) ウォーター(264) ウォーム(8) 光刃(こうが)(11497)

加護 女神の加護



一晩寝たらスッキリ!という何とも便利なスキルが寝る前に発動したサイコ。体を起こすと「おはようございます」という声と共に流れるような動きで着替え歯磨きとなすがまま体を任せる。しかしこのメイドは俺が目覚めるまで、常にすぐそばで監視をしているということなのだろうか?


疑問も口にすることなくそのまま食堂に誘導されると、そこにはすでに赤い盾の面々も座っていた・・・この人ら、いつ来たのだろうか?早くね?なんて思っていたらウィンがサイコに駆け寄ってきた。


「サイコよ、元気にしとったか」


そういって手を引き自分の座っていた隣の席に誘導され、すぐに運ばれてきた豪華な朝食をいただく。


「では、皆さんが揃いましたので食べながらで結構です。今後の日程について簡単に説明しましょう」


そう言って話を始める執事エイル。


「本日は10時ごろ出発を予定しており、おおよそ2週間、12日をかけて前回と同じように2台の馬車で学園まで向かいます。お嬢様の護衛は私が務めさせていただきますので、それ以外については、赤い盾の皆様とサイコ様にお任せします。あっ、前の馬車には赤い盾の皆様、後ろの馬車にはお嬢様と私、サイコ様に乗っていただきます。到着後は私がお送りしますので、どうぞよろしくお願いいたします」


一同、特に質問はなくうんうんと頷いている。そのあとは特に何もなく和気あいあいとはいかずとも食事を終えて人休憩したら各自馬車に乗り込んだ。見送りには執事やメイドさんがかなりの数お見送りも並んでいた。・・・こんなにいたんだな。まあ当然か。屋敷はかなり広いしな。でも結局オリベイル家の当主であるカトレアお嬢様の両親などにはあわなかったな。そんなことを思いながら馬車に乗り込もうとした。


そして乗り込む順番に悩むのである・・・


カトレアお嬢様と執事エイルは何も言わずに立っている。・・・たしか馬車は目下のものから乗り込んで「カトレアお嬢様、よろしければどうぞ」そう言って手を伸ばす。カトレアお嬢様は満足そうに俺の手を取ってそのまま馬車に乗り込み座席に座る。その対面に座ると執事エイルがお嬢様の隣にすわる。そして馬車はゆっくりと動き出した。お嬢様も執事エイルも満足そうであった。


初日に行った教育の賜物である。サイコが出した手が気に入らない、もしくは触れるに値しない従者であれば、差し出されたその手はスルーされ、後ろのものに任せられるということだが、どうやら不名誉にもスルーされるという意地悪は今回はなかったようだ。


今回は2週間。エイルさんが居れば何が起きても大丈夫だろうと安易な考えではあるがそれはきっと当たっているだろう。そんな思いを胸に、いよいよ本番の護衛任務が始まる。護衛は必要かはさておいて・・・


やってやりますよーーーっと。

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