サイドストーリー 三上05 三上くん収録に立ち会う




 この日は俺も山下の収録スタジオに来ている。


 俺だけじゃない。


 スタジオの中にはサブゼロのAランクで動ける斥候職のやつが3人、レッドストームは全員、零司さまのパーティーメンバーも全員入っている。


 人事部の監査班から5人が外で待機している。




 ここまでの警備態勢は初めてじゃないだろうか…


 大統領の警備でもここまでじゃないはずだ。


 それもそのはず、今日の収録は……





「視聴者の皆さん、サブゼロ広報部長の山下です。


 本日もゲストをお呼びして番組を進行して参ります。


 お1人めは、もうレギュラーでは?の声も聞こえてくる、赤の烈風レッドストームから、赤城さんです!」


「ども、赤城です。」


「赤城さん? 少し硬いですが、それも仕方ないことかもしれません。


 お2人め、再出演を希望するコメントをたくさんいただきました!


 同じく赤の烈風レッドストームから由良さんです!」


「はぁい、よろしくお願いしますねぇ。」


「えっと… 由良さんもこうですか…


 正直、私もどうしたらいいかわかっていませんが、このまま進行させていただきます。


 本日のメインゲストをご紹介いたします。


 株式会社サブゼロ、代表取締役社長、

 クランサブゼロ、クランマスター… ゼロさんです!」



 瞬間、そこにいた手の空いている人間全員が大きな拍手をする、当然俺もだ。


 はは… 山下は呆然としてるな。


 山下はゼロさまと会うのはこれが初めてだからこんな空気になるとは思っていなかったんだろうな。


 お1人がそこにいるだけで世界が変わる。


 それだけの存在感を持たれているんだよ。



 ゼロさまが軽く手を上げられるとピタっと拍手が収まる。


 わかるか? 山下。 独裁ではなく人望でこれができる、これがゼロさまなんだ。



「紹介に預かったゼロだ。 今日はよろしく頼むよ。」



 あぁ… 赤城も由良も言葉が出ねぇな。

 俺もあそこにいたら喋れる自信は少ししかねぇわ。



「は… はい!

 それでは、ゼロさまの簡単な経歴を紹介させていただきます。


 ゼロさまは4年前にクランサブゼロを立ち上げられました。

 その後、半年も経たずに株式会社サブゼロを起業されました。

 それからはいくつものダンジョンをお1人で踏破、ただ踏破するだけではなくダンジョン内から出られずにいるハンターを積極的に救出されていると聞いています。」



 そうだな… そう言うしかないか。

 ゼロさまの活動内容はあまり公にできるものばかりではないからな。

 他国へ出張ることを公にするのはその国と他国の関係に影響するし、公にできない依頼もある。



「由良、火。」


「はっ、はいっ!」


「おいおい、そんなにでかいと煙草が燃え尽きちまうよ。

 もっと小さくな?」


「すっすみません!」


「大丈夫、こうやって出力を調整するんだ。」



 ゼロさまはタバコを取り出して由良に火を求める。

 緊張しっぱなしの由良がバスケットボールくらいのサイズの火球を出してしまっても冷静にその火球を外からビー玉くらいのサイズに圧縮して煙草に火をつけられた。


 由良はサブゼロ所属の現役ハンターでは魔術での火力は最強格の1人だ。 その由良の魔術を外からコントロールして圧縮なんて…

 俺は魔術師じゃないからどれほどのことかはわからないが、とんでもない技術だってことくらいはわかる。

 ほら、由良も目と口が大開きじゃないか。



「ふぅーー、お前はいいものを持ってるんだからもっとコントロールを学びな?

 今回の収録の間、ずっと俺の火はお前に任せるぞ。」


「ひゃいっ! おまきゃせくだしゃい!」


「あー、山下が言わねぇから俺からな。

 飲酒・喫煙は二十歳になってから。

 それより早くやりたきゃ、Bランクまで駆け上がって来い。


 で、さっきの山下の紹介の通り、俺がハンターのゼロだ。

 今回は見てくれてありがとうな。」


「はっ! 失礼いたしました!

 ゼロさまの仰るとおり、二十歳未満の方の飲酒・喫煙は法律で禁じられております。 Bランク以上のハンターは特権で許されていますが、その際には身分証の提示を求められる場合があります。


 うっうん、では本題に入らせて頂こうと思うのですが、よろしいですか?」


「いいけどさー、お前も緊張しすぎだ、

 取って食いやしねぇからもう少し方の力を抜きな?


 あと赤城! お前この収録を上手くやったら模擬戦付き合ってやるからちょっと気合い入れ直せ!」


「はい!? すっすんません!! よろしくお願いします!」


「由良もさぁ、可愛い顔してんだからもっと笑えよ?

 赤城もだぞ? お前たちには期待してるからな。」


「「はいっ!」」


「よしよし、それでなんだっけ?」


「あ、はい。 まずはサブゼロを始められたきっかけを教えていただけますか?」


「そうだなぁ… どこから話そうか…


 俺がAランクになったばっかの頃から、協会の担当が無茶ぶりして来ててな。

 氾濫前の甲種ダンジョンを1日で3か所踏破しろとか言いやがるわけさ。


 そんなペースでダンジョンに入ってたら、普通に入ったつもりが直前に巻き込まれるやつとかとかち合うこともある。

 目の前で死なれても寝覚めが悪いから助けるだろ?


 そんなことを繰り返してたら過去に助けたやつらが俺にクランを作ってくれって頼んできたんだよ。

 なぜかファンクラブみたいになっててさ、俺に助けられたいくつかのパーティーが互助組織みたいなこともやってた。


 このまま放っておくのもよくないことになりそうだったからまとめてクランにしてしまおうってなったわけだ。


 最初は名前だけのクランマスターにしようと思ってたんだけど、模擬戦してくれとかアドバイスくれとか言われたから講習会みたいなのもやってたらこうなったってわけだ。


 クランを作ってほしいとまで言ってくれたんだ、そこまで慕ってくれたやつらになにか還元したくなるのが人間だろ?


 だからハンターの支援を目的にした会社を作ることにしたんだ。

 最初はドロップアイテムの買い取りと流通から始めて、手を広げて今に至るわけだ。」



 そうですね…


 怪我や後遺症で苦しむハンターの支援をしたいと言われていて、それを実践されていますが、動画で言われないということは売名目的ではないということでしょう。


 山下以下の動画スタッフはわかっていないでしょうが、私たちには伝わります。

 監査班の数人なんて泣いてますよ…


 引退したハンターの受け皿としてサブゼロほどの会社はありません。

 部長以上のほとんどの社員が元ハンターなのですから…



「なるほど… クランは求めに応じられたということですか、会社はそのハンターたちに報いるためと…

 ではご自身に利益は少ないのではないでしょうか?」



 は? お前、今、なんつった?


 俺だけじゃなく、ここにいるハンターのほとんどが殺気立ったぞ。



「ははは、お前はおもしろいな。


 由良、火ぃくれ。


 ん、今度はいい感じだぞ。」


 ゼロさまに頭をポンポンと撫でられ由良の殺気は収まりましたが、別の理由で顔が真っ赤ですね。

 そして赤城と私たちの殺気は少しも収まっていないと…


「ふーー、こういう外からの意見を言えるやつがほしくて山下を入れたんだよ。

 だから、みんなも少し落ち着け。


 そうだなぁ、そもそもの話し会社は100%俺の出資で作ったから会社が儲かれば俺も儲かるんだけど、配当は新事業をするたびに増資で突っ込んでるからそんなに手元には残ってないな。

 あと、会社からの上がりよりハンターしての稼ぎの方が何倍も多いんだぞ?


 だから金銭的な利益はそこまでないかな。


 そんなことより、うちの扱ってる商品でハンターの安全性なんかが守れる方がよっぽど嬉しいね。


 一般人の人から見たら扱ってる武器や防具なんかはとんでもない金額かもしれないけど、ハンターから見ればかなり良心的な価格のはずだ。

 性能が同等の他社製品と比べたらわかると思うよ。

 まぁ、うちのラインほどの製品を作ってる会社は少ないけどな。」


「そうなんですか?」


「赤城か由良で答えられるか?」


「はぁい…

 赤ちゃ… 赤城の使っている剣ですが、今のものは試作品をテスターとして使わせてもらっていますが、この前に使っていたものはこちらで購入したものでした。

 他社のものよりも性能が良く、価格も他社より20%ほど安かったと思います。」



 当然だ。

 Bランクの赤城が使うほどの剣になると魔石混素材を使う。

 うちがその分野で他社に劣るわけがないし、生産量が違うから当然価格も違ってくるからな。



「本当にそんなことができるのですか?」


「そこは企業努力ってやつだよ。

 うちはお題目だけのハンター支援じゃなくて本気で支援してるからな。」


「はい、それは承知しています。

 こうして一般人の皆さんに私を通してハンターについての理解を深める機会をくださっているのもその一環なんでしょうか。」


「そうだね。 山下は他のひとたちよりはハンターについて知ってる方だとは思うけどそれは一般人の範疇なんだよ。

 この動画もそうだけど、山下と一緒に視聴者もハンターについて知ってもらえたらと思って広報部を作ったわけだからな。」



 ゼロさまは本当にハンター全員のことを考えていらっしゃる…

 わざと太々しい態度を取られているのは文句があるならかかって来いとでも言いたいのでしょう。

 口だけの偽善者や反ハンター主義者への挑戦ですね。



「ありがとうございます、私も自分の理解したことを視聴者の皆さんに伝えていきたいと思います。


 今回は急遽出演していただくことになりましたがどうしてなのでしょうか?」


「難しい理由なんてないよ。

 今後は他のクランからゲストを呼ぶことも聞いてるから俺が出ておいた方がこの番組に箔がつくと思ったくらいだ。

 赤城たちの顔も見たかったしな。」



 はぁ… 零司さま…

 そうやって骨抜きにするのやめてください…

 こいつらはゼロさまが零司さまだって知ってるんですから…


 クランサブゼロでは親衛隊と呼ばれるほどの実力と忠誠心を認められた者たちにだけゼロさまの正体が零司さまだと明かされています。

 また、会社側では監査班も当然に知っています。

 親衛隊と監査班の忠誠心は尋常なものではないので漏れる心配はありませんが、暴走の心配は常に…



「赤城さんと由良さんは完全に骨抜きですね…


 では最後に今後の目標と視聴者の皆さまへのメッセージをお願いします。」


「目標なぁ…


 由~良~ 火ぃくれ?」


「ふぁい…」


「ん… いい子だ。

 ちゃんとコントロールも上達したな。」



 またそう言って撫でる…


 由良が婚期を逃したら引き取ってあげてくださいよ…?



「まず、サブゼロの目標はこれまでの延長でハンターの支援の拡充だな。

 取り扱っている武器はCランク以上のベテランハンターを対象にしたものだったのを今後はDランク向けにもできないか調整中だ。

 Dランクから武装が揃えば狩りも収入も安定するから無理をして事故を起こす危険も減るからな。

 俺個人としてはこれからも高ランクとして他のハンターでは難しい依頼なんかをこなしていこうと思っているよ。

 俺ばっかり甲種ダンジョンに入ると他の連中の稼ぎを妨害することになるから縄張り荒らしみたいなことは控えるけどな。


 それからメッセージな…


 一般の視聴者の方々、ハンターは文字通り命がけの仕事なんだ。

 だから少々荒っぽいやつも多い。

 でも全部が悪いやつじゃないんだ。

 もしハンターが迷惑をかけたら遠慮なく最寄りのハンター協会へ連絡してくれ。

 そういうやつらの対応をするのもハンターの仕事だ。


 ハンターのみんなはどうだ?

 協会とは話しをつけてハンターへの対応を少しは改めるようになったはずだ。

 まだきついことやしんどいことがあればうちに相談して来い。

 1人で抱え込まないでくれ。

 そんなことをして潰れても馬鹿らしいし、暴走したら対応しなきゃいけなくなる。

 俺たちはお互い協力できるはずだ。


 こんなところかな。」



 ゼロさま…

 ハンターがストレスから事件を起こすことは珍しくありません。

 頼れるところがあると聞けるだけで救われる者もいるはずです…


 「きついことやしんどいことがあればうちに相談に来い」

 この言葉の重みを何人が理解できたでしょうね…


 私のように生きる希望を失っても手を差し伸べてくださるんです。

 それがゼロさまなんですよ…



「ありがとうございました。

 正直に申し上げて、ゼロさまがここまでお考えになってサブゼロを運営されているとは思っていませんでした。


 これからもよろしくお願いいたします。


 では視聴者の皆さん、本日はここまでになります。

 ご意見ご感想はコメントでお待ちしています。

 チャンネル登録と高評価もお願いします。


 それでは、失礼します。」




 ふぅ…

 どうなることかと思ったがなんとか収録は済んだな。


 山下はついぐいぐいと突っ込んで質問をしていくから外部ゲストを1人で相手にさせるには心配なんだ。

 ちょっときつく締めておくかな…



 赤城と由良?

 他のメンバーに引きずられて行ったよ。

 女の戦いに男が口出しなんてできるもんか、あぁこわ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る