サイドストーリー 山下08 山下あの夫婦と知り合うってよ ③
「はぁーーーーー、あたしはどうもハーレムってのはわかんないんだよなぁ。
好きな男は独占したくなるもんだろ?」
「そうかもしれませんね。」
「だろ? 山下さんもそう思うよな??
それをうちの娘たちはなんで3人で同じ男で、しかも姉妹たちだけじゃなくてほかにもいるって言うじゃないか、なんでそれでいいと思うんだろうな?」
「おい… そのほかの1人が山下さんの娘さんだぞ…」
はい。 うちの1人娘です。
「あ… 悪気はないんだけどさ、よくわかんねぇよなぁ?」
私にもわかりません。
「そりゃ、あの方が戦うところを見たことがないからですよ。
男の私が見ても惚れますからね。」
「たしかに… 私についてくれている秘書さんにも似たようなことを言われましたよ。
この人にすべてを捧げたくなるって。」
「だろうな、あの子はゼロさまよりも零司さまにとことん惚れ込んでるからなぁ…
あいつらと同じでBランクに上がるまで待ってるんだと思うよ。」
「あいつら? だれのことだい?」
「おっと、なんでもないですよ。」
「なんだい… 気になるねぇ。
まったく零司くんってのはほんとどんだけモテるんだよ。」
「その話しはまたにして、お2人が現役ハンターのころのことを聞かせてもらえませんか?」
「僕らの現役時代ですか…
大したことはありませんよ?
学生結婚をして、就職をしたころに2人ともステータスに目覚めたんです。
当時はハンター用の学校もないし、成人後に目覚めたからダンジョンに入るつもりもなかったのです。 でも美春ができてお金が必要ってこともあって研修を受けてハンターをすることにしました。
僕は魔力の方はからきしだったので前衛でハンマーを振り回してましたね。
元々腕力はあったおかげで2年くらいでCランクまでは上がりましたけど自分が戦うよりも武器を整備したりする方が好きなことに気づいてそっちの道へ。
元ハンターってことでハンター用の装備品を始めようとしていた今の会社に入った感じです。」
「あたしもそうだね。
学生時代にアーチェリーをしてたから弓を使ってたけど、自分よりもずっと強いひとたちを見てて、戦うのはそっちに任せようって思ったなぁ。
ハンターやってた頃の話しだよな?
あたしはこのひとがいたからそこまででもなかったけど、やっぱ強引なナンパは多かったらしいねぇ。
Bランク以上になったらなにしてもいいのかよって…」
「だなぁ、当時は今ほどハンターの数もいなかったから知られることも少なかったけどひどかったんだぞ?
関わりのあったやつらにはさせなかったけど、調子にのったやつが多くてな。
泣いてる女を何人も見て来たな。」
「ダンジョンの種類も甲乙丙の3つだけでしたしね。
氾濫についても詳しくは知られてなくて何度も氾濫していましたし…
そういうこともあって、年配の方たちはハンターの怠慢で氾濫が起こるって思いこんでるんですよ…」
「なぜ氾濫が起こるのか知られていない時期があって、ダンジョン内の間引きで氾濫を抑えられるのが知られるようになる。
そうすると、これまでの氾濫は間引きをサボってたハンターのせいだって言いだすひとが現れたんだよ。
当時のハンターにはどうしようもなかったけど、テレビで反ハンターみたいなことを言われると気分がいいんだろうよ。」
あぁ… 胸が痛い。
「山下さんの弟さんもどうでしょうけど、僕の知り合いでも何人か殉職したハンターがいました。
彼らはほとんどが氾濫対応で亡くなっています。
普段なら逃げるような状況でもモンスターが外に出ては一般人に被害がでますからね… 身を盾にして文字通り必死に戦ったのにテレビでは被害金額を氾濫対応をしたハンターに賠償させようなんて言い出すんですから…
本当に初期のハンターでまだ続けている方は少ないでしょうね…」
あの時代は本当にハンターに厳しかったですね…
どれほど大きな怪我をしても医療保険は使えず、全額自費ですし、その後の補償もない。
生命保険にも入れない。
テレビでは反ハンターの報道ばかり… 荒れてしまう気持ちもわかるというものです。
「あたしたちが引退するころにモンスターを魔石の品質で等級分けするようになって、ハンターにもランクが導入されたんだっけ? あんま覚えてねぇけど。」
「それくらいだと思いますね。
気づいたらランクがついてましたし。
ダンジョンをモンスターの強さで甲乙丙の3つに分けてはいましたが、入るのに制限なんかはありませんでしたね。
なので同じ乙種だと思って入るとモンスターの強さに驚くことが何度もありました。」
今のダンジョンの種別分けはその頃の名残りなんでしょうね。
「あ、そういえばなんでクランサブゼロと株式会社サブゼロと2つあるんです?
会社だけでいいような気もしますが?」
たしかにそれは私も気になっていました。
あえて2つある必要はないような…
「あぁ、私は会社の方は初期からいますがクランには入っていません。
なのでざっくりとした話しになるのをゆるしてくださいね。
まず、ゼロさまというとんでもなく優秀でお優しいハンターがいたのです。
いくつものダンジョンを踏破し、氾濫を未然に防いでいました。
それだけではなく、居合わせたハンターを外まで誘導したり、氾濫直前で強化されたモンスターにやられそうなところを助けたり。
通常であればかなりの金額の謝礼を取るところを一切受け取りもしない。
そんな方に人が集まらないわけがありません。
少しでも恩返しをしようとする者、追いつこうと鍛える者、利用してやろうとする者。
色々な人間が集まりましたが、利用しようとする者は他の者たちに制裁されていました。 この時点では非公式のファンクラブみたいなものです。
それがだんだんとハンター同士で協力するようになり、気づけばいくつかのパーティーやクランができていました。
ゼロさまはダンジョンの踏破だけではなく、悪行を行うハンターの対応もしていたので当然恨みを買っています。 彼らの矛先はゼロさまのファンたちに向くようにもなりました。
そこでファンクラブで相談をして、ゼロさまにクランの立ち上げをお願いしたのです。 ゼロさまは快諾してくださり、クランサブゼロができたというわけです。」
「はぁ… 謝礼を受け取らないなんて考えられないですね…」
「だなぁ… Bランクパーティー1つでも助けたら億はいくだろうに…」
え… 謝礼ってそんな単位なんですか!?
「ゼロさまは希望者にはトレーニングに付き合ってくださったり、ダンジョンに同行までしてくださっていたと聞きます。
そうして強くなったハンターたちはゼロさまに集中する依頼で自分たちでも対応できそうなものを受け持つようになりました。
そこで終わればゼロさまは立派だなって話しなのですが、ゼロさまはクラン加盟のハンターたちに感謝するんです。
自分が感謝されて、その恩返しをされていただけなのに、逆にハンターたちに感謝し、報いる方法を考えられたそうです。
そこでできたのが株式会社サブゼロです。
その頃には医療保険や生命保険などはハンターにも利用できるようになりましたが、それだけでは足りないことはわかるでしょう。
会社で魔石を一括買い上げし、それを協会などに販売し分配することで会社所属のハンターの収入の安定化、事情があり休養期間が必要なハンターへの金銭的支援、ハンター用の装備品の研究開発、引退後のハンターの受け皿、これが株式会社サブゼロです。
クランとしてハンター同士の連帯感を高め、協力しやすい環境を作り、会社として様々な支援を行う。
なので今でも2つ必要なのですよ。」
「はぁー… すごいな… こんなにいい環境があったのかい…」
「三上… 成り立ちや現状はわかったんだが、どれだけ金がかかったんだよ…
私には簡単に用意できる予算じゃできないことくらいしかわからないが…?」
「全額ゼロさまの個人資産だよ。
世間じゃゼロさまのことを「最強のハンター」だと思っているみたいだけど、最強だけではなく「歴代最高収入のハンター」でもあるんだ。
お1人で甲種ダンジョンを1日にいくつも踏破されることもあったそうだからそれもうなずけるというものだ。」
「ひとりで… こうしゅ… 嘘でしょ!?」
「そんな話し信じられませんよ!」
「残念ながら事実ですよ。
私も同行したことがありますが、ゴブリンを狩るような感覚でオーガを狩っているところを見たと言えば信じてもらえますか?」
「はは… それなら1人でも甲種に行けるってのはほんとなんだね…」
オーガといえば弱くてもBランク、それをゴブリンのようにっていうと1匹2匹ということはないでしょうから…
1つのダンジョンで億は最低いくんでしょう、それをいくつも…?
軽く見積もっても1日で数億ですか…?
サブゼロのオーナーというのも理解できますね…
井上夫妻はどこか遠い目をして帰っていきました。
元ハンターということで、ゼロさんやサブゼロのことについて私より実感があって現実を受け止めきれていないんでしょうね…
私も金額で混乱していますし…
「あのな、井上さんたちには黙っていたが、ゼロさまの資産はとんでもないからな?
表にだしているものだけでも手持ちの魔石、外貨、国債、装備品、個人資産としては考えられないほどある。
なんだかんだ理由をつけて取り上げようとするやつは後を絶たない。
お前はそんなことは考えないとは思うが、周りには気を付けろよ。」
三上… うちの妻と浩二くんが1番危ないよ…
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