サイドストーリー 山下07 山下あの夫婦と知り合うってよ ②
私たちは井上夫人と合流し、三上がいつも寝泊まりしているというホテルにある和食店の個室でハンター談議に興じています。
ですが三上…
「今夜は行けなくなった」っていうのはまるでそういう相手への電話のようですよ?
漏れ聞こえて来た相手の声が男性だったのでそっちに目覚めたのかと思ってしまいましたよ!
「あっはっはっは! 山下さん!
あんたがまさかハンター企業に入るとはね!
あたしもテレビで見るあんたがハンターのことを大事に思ってるのはわかってたけどここまでとはね!」
「お、おい千秋! そんなことより重要なことがあるだろう!」
私の肩をバシバシと叩くのは井上さんの奥方の千秋(ちあき)さん。
目を見張るほどの美人で明るく親しみやすい。
そんな彼女ですが…
「そうだよ! 三上さん!!
あたしにはどの魔石をいくつ使わせてもらえるんだい!?
会社の方針でハンターの使う武器用の素材の研究ばっかさせられてたけどサブゼロじゃそっち以外もできるって聞いたんだけど!?
もちろん武器素材の研究もするけど服の素材とか建築用の素材とか色々あるだろ!?」
この通りご主人と同レベルの研究者気質なんですよね…
「そうですね…
まずは入社してからの話しとなりますが、うちで量産が始まっている素材とそれを利用した製品を確認してもらいます。
その次に少数生産の素材と製品を見てもらい、うちの現状を把握していただきます。」
「そうですね、その量産素材というのも気になります。」
「井上さんたちにはその改善を検討してもらいたいと思っています。
武器に関しては量産とは言ってもBランクからCランク向けの物ですのでそこまでの数ではありません。」
「ターゲットをその層にしてるのはやっぱりコストの問題かい?
Dランクだと買えないくらいにはなっちゃうってことかい。」
「はい、どうしてもうちの品質を維持すると価格帯がその辺りに。
他社のDランク向けの価格帯にうちの看板で出せるものを作ってもらいたいですね。」
「そいつは… 腕が鳴るってもんだよ!
あんた! あたしの作る素材できっちり仕上げるんだよ!」
「もちろんだ! こういうのを待ってたんだ!」
井上夫妻は大喜びですね、ですが本当に実現できるのでしょうか…
「それだけじゃつまらないでしょうから、Aランク向けの物も頼むことになると思います。
さしあたっては、美冬さんの細剣と私の直剣になるかと思います。
これにはあるだけ好きに素材を使ってもらうことになるでしょう。」
「ほんとかい!?
剣鬼の三上さんの剣を! こりゃあ大仕事だ!」
はは… 奥さんにもその二つ名は知られていたんですね。
「それで、こっからは同世代の子供をもつ親同士の話しとしようや。
あ、あたしのことは千秋でいいから。
んでさ、うちの娘たちが零司ってガキに入れあげてんだけど三上さんはどんなやつか知ってるかい?」
「千秋さん、今の発言は取り消してもらおう。」
「はい?」
「零司さまを侮辱する者は誰であれ許さん。
次に言ったら、楽には殺さんぞ。」
「あ… すまない… 取り消すよ…」
「あぁ、うちで零司さまとゼロさまへの無礼は許されん。
ついでに言っておくと美冬さんの前でも控えることをお勧めする。
彼女の手は私よりも早いからな。」
「そうですね、まったく、私たちの娘がどうしてあそこまで凄腕の剣士になったんだか。
千秋はこれでもBランク間近までいった剣士だったんですが、美冬とは比べものにならないんですよ。」
千秋さんの失言を三上と井上さんで軌道修正ですね、普通はどうしてここまで零司さんへの忠誠が高いのか理解できませんが今の私はなんとか理解できます。
秘書さんのおかげですね…
「うちの娘も零司さんが大好きみたいですよ。
ハンターですから特例で合法的にハーレムを築けますが、心配ではありますね。」
「そうか… 陽菜ちゃんは零司さまのところへ…
それがいいだろうな。
うちの浩二もCランクだが、零司さまのCランクは少し意味が違ってくるからな。」
「たしか、三上さんの息子さんは2年でしたよね。
零司さんというのは1年生だったような… それに意味が違うとは?」
「まだ1年ですね、親の援助なしに1年のこの時期にCランクまで上がるというすごさが井上さんにはわかるでしょう?」
「援助なしだって!? うそだろ!?」
「千秋さん? そんなにすごいことなんですか?」
「あのさぁ、親がハンターなら武器とか譲ってもらえるし、スキルの効率的な習得のし方とか、戦い方とか色々ノウハウも教えてもらえる。
師匠がいればそれなりに教えてもらえるかもしれないけど自分の手の内を全部教えてくれる師匠なんていないし、武器を分けてくれることもないんだよ。」
なるほど… 若手の高ランクには二世が多いわけですね。
「零司さまはご自分の力だけ今のランクですよ。
すぐにもっとランクを上げられるとは思いますが。
まぁこういう話しはこのへんで。
あの方は本当に身内には優しいのですよ、あなたたちをサブゼロへ引き抜いたのもあの方のご指示ですよ?」
「私も零司さんに誘われましたね。」
「あぁ、美春から聞いてはいたけど本当なんだね?
なんであたしらを?」
「簡単ですよ。
人質にされないためです。
あなたたちが人質にされると娘さんたちが相手の言うことに従うかもしれない。
そうするとサブゼロ全体に不利益になる可能性がある。」
「いや、うちの娘にそんな影響力なんて…」
「ないですね。
あるのは零司さまですよ。
あの方の足枷になるかもしれないので先に手を打ったというわけです。
産業スパイも過激なやつがいますからね。」
「はぁ~…
なんかとんでもないことになってたんだねぇ…」
「僕らの感覚だと産業スパイなんてそこまで考えなかったけど…」
「サブゼロの技術はそれほどと考えてください。
でも大丈夫、お2人ならやっていけますよ。
ただし、情報管理についてはきっちり叩き込みますからそこは覚悟しておいてくださいね?」
うわ… 三上がすごい笑顔だ…
「山下もだぞ?
由良がきっちりしてるから問題になってねぇが、他所のクランのハンターをゲストに動画をやるときはほんと気を付けろよ?
ハンターってのは血の気の多いのがいるからな?」
「それは… わかっている。」
「ほんとに大丈夫か…?
テレビに送られる殺害予告と違ってハンターは本気で来るからな?
Bランク以上なら警察にどうこうできる相手じゃない。
お前がハンターのことを考えてるのもわかってるが、それが相手に必ず理解されるとは限らないんだ。」
「わかってるさ…」
「まぁ、お前が人質にされても陽菜ちゃんは軽く見捨てると思うからそのときは遠慮なく捨てられるんだな。」
「おいおい、友人にそれはないだろ?」
「何度も忠告はしてるだろ?
これでダメなら俺も知らん。」
「あの、山下さんは陽菜さんが零司さんのところへ行っても平気なのですか?」
「平気じゃありませんが本人の希望ですから。
それに邪魔をすれば陽菜になにをされるか… ははは…」
あの日の電話口と荷物を取りに来た日の陽菜は少し怖かったんです…
情けないことですが、あれは止まるものではありませんよ…
「山下さんとこもかい?
うちも次女がやばくてさぁ、「文句があるなら自分の孫も見せないし、姉妹の孫も見させない」って言うんだよ。
何年か前に助けてもらったSランクのひとならわかるんだけどなんで年下の男の子にってことでこっちは意味わかんないよ。」
あえて言いませんでしたが、うちの陽菜も、井上さんのところの3姉妹も零司さんにベタ惚れなんですよ。
零司さんのこころの強さに触れればそうなるのも無理はないのかもしれませんね。
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