ーーー第4章ーーー

051 ここでこの2人かよ…



 ゴールデンウィーク最終日、俺は小百合とあの子を連れて協会へ平坂を訪ねて久しぶりに訪れた。


「Cランクハンターの神薙です、平坂副支部長と面会予定をいただいておりますので到着したと伝言をお願いします。」


「神薙さん… 副支部長より伺っております。 13番へどうぞ。」


「ありがとうございます。」



 今日はいつもみたいになぁなぁでの話しはしない。

 平坂ならここで決裂したらどうなるかわかってるだろうしな。



「待たせたな、今日はこちらの3名で話しをさせてもらう。」


 13番の面談室で5分ほど待つと平坂が2人の男性を連れて入ってきた。 おいおい… マジかよ… ここでこの2人かよ…


 1人は年の頃は40ほど、身長はそこまで大きくはないけど引き締まった身体と身に纏う魔力から彼がハンターとして今でも現役で活動できることを感じさせる。

 引退してしばらく経つのに相変わらずこの人は強い。


「お久しぶりです、師匠。 あなたがここに来るとは思っていませんでしたよ。」


「元気そうで安心しましたよ、ただ元気すぎて問題を起こしているようですが。」


「ははっ、私が動くことになっているのはそちらの責任でしょうに。」


 ダンジョン協会が腐っているからこういう事態になっているわけで、そのことを俺が問題を起こしているというのであればそれは俺に喧嘩を売っていることになるんだが?

 現状の問題は協会の上層部が多くのハンターを利用して利権を得ようとしていることが由来で、それに乗るハンターがいることが結果だ。


「そこは我々の不徳だよ。

 彼を責めるような言い方は控えなさい。」



 もう1人が師匠を止める。

 本当にここでこの人と会えるとは思っていなかったな。


「すみません副支部長、このお2人は…?」


 小百合はこの2人を知らないか、どちらも表に出るひとではなかったからな。


「国見さんは知らないか… ひとまず本題に入りましょう。

 まずは神薙くんの要望の確認をします。

 金銭の支払い、平坂の支部長への昇格、この支部の予算の増額、そして馬鹿どもの首。

 以上の4つで間違いはありませんね?」


「ま、そうですね。」


 金額について言わないのは何かあるな。

 聞いてから判断させてもらうよ。


「まず、金銭について。

 今日の時点で納得いただけたなら100億円をすぐにでも振り込みましょう。」


「へぇ? 私の要求よりすこし色がついていますが?」


「それについては僕から話そう。

 自己紹介が遅れてすまないね、僕は風間(かざま)と言う。

 神薙… いや、零司くんと呼ばせてもらおう。 零司くんのおかげで協会にいるシロアリの駆除ができたんだ。 そのお礼を込めてこの金額にしている、それからこの支部の予算は要望通りこれまでの2倍にしておいた。 君たちがここを拠点としている間はそれくらいでも足りないかもしれないけどね。

 僕自身もこの一件で委員会の筆頭になれたからこれくらいの権限はあるんだ。」


「なるほど… それはおめでとうございます。

 風間さんほどの元ハンターが委員会にいらっしゃれば文字通り風通しがよくなりそうですね。」


「はははっ その通りだね。

 今後委員会でおかしなことをしでかす者には僕が風穴を開けるから楽しみにしておいてくれよ。」


「あの… 風間さまといわれますと…?」


「日本の最初期のSランクハンターだよ。 魔術師はそれまで固定砲台としての運用ばかりだったのに、遊撃魔術師っていう運用方法を確立して一時代を築いた方だ。

 うちだとゆかりが今試している戦い方が近いかな、俺も話しに聞く程度しか知らないけど新しい運用方法を作り上げるって並大抵じゃないのはわかるだろ?」


 最初期のSランクと言ったら何人もいるけど今でも伝説と言われるのはこのひとともう1人くらいか。


「いやいや、現役で半ば伝説になっているゼロに言われると面映ゆいね。

 ここの支部長より上ってことで僕以外の委員会メンバーの首は用意してあるよ。」


「風間さんが言うのでしたら信頼できます。 下の方に関してはどうなっていますか?」


「うん、それは新支部長が対応してくれたよ。

 そうだよね、平坂くん?」


「はい、委員会の元メンバーの物と合わせて首ばかりを冷凍しています。

 悪趣味ですが…」



 あれ…?

 返事をしたのは平坂じゃなくて師匠なんだけど…?



「最後の要望の「平坂を支部長に」とのことですが、知っての通り私の妻は旧姓を平坂と言います。

 妻の姓を名乗ることにしたので今の私は平坂です。」


 えっと…?

 どういうことだ?

 師匠は水内(みずうち)って姓だったよな…?

 奥さんは平坂の叔母だったはずだから話しは合ってるけど…



「これも僕からがいいかな、水内くんは引退した後は協会の職員になっていたのは聞いているかな?」


「それは… はい。」


「彼は協会の本部で課長級の職員として在籍していたんだけど今回の件で姓を奥さんの「平坂」にした上でここの支部長になってもらった。

 支部長は協会の規定では部長級だから君が言う「平坂を」「支部長に」「昇格」という要望もこれでクリアだということになるよね?」



 マジかよ…

 そういう裏技ってありか?



「まったく… あのかわいらしかった零司くんがこんな風になってしまうなんて… 私がもう少し一緒にいられれば違ったかもしれませんね…」


「いえ、師匠のおかげで私は生きることができましたし強くなれました。

 それに今の私だからこそ救えた者もたくさんおります。」


 師匠が望むように俺が今より穏やかな性格になっていたら救いきれなかったやつはきっと多い。

 それに今回の一件も起こさなかっただろうから今後何人のハンターが食い物にされるかわかったもんじゃない…



「では、こちらで納得していただけましたか?」


「はい、そちらの誠意は受け取りました。

 ですが、あなたと師匠をどう呼び分ければ?」


「私のことは水内でいいですよ。 君の要望に沿って公的な書類上は平坂になりましたが仕事上はこのまま水内でいこうと思っていますから。」


「と、いうわけだ。

 ここからは口調を戻すぞ? お前のせいでかなりの手間がかかったが師匠… 水内支部長と風間さんの立場も上がったし俺としてはなんの文句もねぇよ。

 それから、おめでとう。

 零司、君は今からBランクだ。」


「おいおい、なんでランク上がってんだよ?

 しばらくダンジョン入ってねぇぞ?」


「それについては僕から話そう。

 零司くんも知ってのとおり、ランクは協会への貢献によって上がる。 その貢献は金銭的な利益だけではないことはわかっているだろう?

 今回君の行いは協会の浄化に非常に大きく貢献してくれた。 それによると言えば理解してもらえるかな?」


 はぁ… 大掃除の対価ってことかよ。


「それから三上鈴(みかみりん)くん、外国ではSランクだったそうだがこちらにも事情があってすぐにSランクまで上げることはできない。

 すまないが君もBランクから始めてもらいたい。」


「リン? 誰のことです?」


「お前のことだよ。

 鈴の音みたいな綺麗な声をしているし、日本では鈴には浄化の効果があると考えられている。

 そんな意味を込めて、鈴と書いてりんって名前を考えたんだ。」


「主様が考えてくれたんです…?」


「あぁ。 苗字の方はあのとき一緒にいた剣士の三上ってやつがいたろ? あいつがお前を自分の子として経歴を用意してくれている。」


「リン… リン… ボクはリン… 主様がくれたボクの名前…」


「気に入ってもらえたか…?」


「はい! ボクは… リンは一生この名前を大事にします!!」



 ふぅ…

 気に入ってもらえてよかった…

 ネーミングセンスに自信なんてないから心配だったんだよ…


 これで一安心だな…



「ところで零司くん、これで復帰はしてくれるんだよね?」


 風間さん…

 もう少し浸らせてくれよ…


「復帰はしますがこれまで通りとはいきませんよ?

 それに今すぐというのも無理です。


 まずは他のクランとの調整もありますから。

 間引きでダンジョンに入るにしても、月内に乙二種を2つに乙一種を1つ。 これが今月の上限ですね。」


「そんなにいいのかい…?

 僕が現役のときでもそこまでは…」


「平坂から聞いてないですか?

 俺は今回の件で甲種1つに乙二種2つを踏破しているんですよ。

 それくらいはできます。

 ただ今の俺は2つのパーティーの指揮をしています、なのでまぁこんなところだと思います。

 それにこれはあくまで上限であることをお忘れなく。」


「零司が… ちゃんと交渉をしている…

 それもお互いに妥協できそうなラインで…

 立派になったねぇ………」


「師匠!? 子供扱いはやめてくださいよ!

 俺が何年ハンターやってると思ってるんですか!?」


「うん? 10年くらいかな?

 Sランクになってから3年くらいだったと思うよ。」


 このひとは…

 そういう意味じゃないんだよ!


「師匠… 零司をからかうのはその辺にしてください。

 こいつには本当に助けられてきたんで。

 師匠の中ではまだ子どもかもしれませんが、もう立派なハンターですよ。」


 うわ… 平坂に褒められるとなんか気持ち悪い…



「君たちは仲がいいね、少し羨ましいよ。

 水内くんと違って僕には弟子はいないからね。


 そうだ! さっき言っていたゆかりさんだったか、僕がその子の指導をしようか?

 師匠面がしたいというのではなく、遊撃魔術師についてアドバイスをしてあげようと思う。」


「いいんですか!?

 風間さんほどの方に指導してもらえるなんて…

 ただ本人に確認をとってから返答をさせてください。」


「当然だね。

 ゆかりさんのパーティーに僕が臨時に加入してダンジョンに入って指導って形にしようか、それだとほかのメンバーにも教えられることもあると思うし。」


「みんな喜ぶと思います。

 あと、誤解してほしくないのですが、今の遊撃魔術師をしているハンターたちは風間さんに少なからず憧れを持っています。 彼らは風間さんの弟子や孫弟子みたいなものですよ。」







「あれがゼロくんですか… いやほんと今の日本で最高のハンターだっていうのは誇張じゃなかったね。」


「風間さんはどうお感じに?」


「うん? そうだねぇ…  僕が全力でやって10回に1回勝てればいいかってくらいかな。

 それに国見くんに鈴くん、あのクラスを何人か従えているっていうのもすごいよね。」


「私はどうしても子供のころの印象がぬぐえないのですがそれほどですか…」


「師匠、今やれば勝てると思いますか?」


「無理だね。 風間さんが10回に1回なら私は100回に1回勝ちを拾えるかどうかってところだと思いますよ。」


「そんなところだろうね、同じSランクって言っても幅はあるし相性もある。

 いいかい、今後は絶対に彼と敵対してはいけないよ。

 彼が良くないことをしている場合はきちんと相談をしてやめてもらうんだ。

 少し話しただけだが、我欲のために周りを害する人間じゃないよ、彼は。」


「「はい。」」





作者です

「風」間が「風」通しをよくし「風」穴を開ける

ちょっと考えてみました。


この2人は実は既出なので気づいてくださった方はいらっしゃれば幸いです。


零司は「要求」と言っていますが、協会側は「要望」と言っています。

温度差を感じていただければと思います。



レビュー(⭐)、応援(♥)、コメント

何か残していただけるとモチベにつながり泣いて喜びます!


近況ノートに適宜連絡や感謝を書かせていただいております。


次回は2023.11.16 00:05です。


11月は2日に1回、偶数日更新で頑張ります!


よろしくお願いします。

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