061 【過去編5歳】(ST回)その時はできるだけのことをするまでだ。





 Side 水内


 俺が弟子でもある義理の甥っ子と受けた依頼は新しく発見されたダンジョンの調査と評価。


 こういうのはAランクの上位かSランクに出される依頼なんだが、今回はとんでもない発見があった…



 神薙零司



 見つけたときはどこにでもいる子供…

 そう思ったんだけどな…


 そいつがオークを闇の魔術で狩ってるんだ…


 それも1匹2匹じゃなくて見たところ10匹以上。


 魔石には見向きもせずに狩りを続けている。


 おかしいだろ!


 なんで魔石を拾わない!?


 あ、肉がドロップした…


 肉は拾うのか…


 もしかして肉を目当てにしている?


 食べ物がないのか…?


 家族はなにをしているんだ?




 俺はこの子を保護することにした。


 保護してわかったが、こいつはどんな育て方されたのか常識が欠如している。


 そこは妻が色々教えてくれているけど、神薙家ってどうなってんだ…


 あそこ出身のやつらはみんなかなりの実力を持っている。


 それはわかってる。


 何をしてあそこまで強くなってるんだ…


 こうして零司のことで少し知れたが、あそこは人間の交配実験をしている。


 誰と誰を掛け合わせているかはわからないけど、零司もその被験者だ…


 そう考えるとこの実力も理解できるがこれは異常だろ…




「れーじ! 昨日はお肉ありがと!

 こんなに美味しいの初めてだったよ!」


「うん、喜んでくれてよかったよ。

 でも料理したねーちゃんの腕もあるからそっちにもお礼言わないとね。」


「うんっ! 言ってくるね!」


 ゆかり姉は素直でいいな。

 俺にはこういうのはできなさそうだ…


 ここに来るまでは何も考えず、感じてなかったけど…


 俺は世界を憎んでたんだと思う。


 親に愛された記憶なんてなく、そもそも両親の顔も知ってるような知らないような。


 生まれてからずっと「出来損ない」って言われてそのように扱われて…


 いやだったんだな…


 それが変わったのは師匠やねーちゃん、ひらさかとゆかり姉のおかげ。


 この人たちがいなかったらたぶん変わらなかったんだと思う。


 変わってよかったな…




「2人とも聞いてくれ、あのダンジョンが少しまずい状況だ。

 氾濫を起こす可能性がある。


 これから他のSランクやAランクを集めるには時間が足りなさそうだ。

 俺が1人で入ろうかとも思ったがそれは自殺行為なのはわかってる。

 だから明日、俺と零司の2人で対応に行こうと思う。」


「あなた…?

 自分が何を言っているかわかってるの?」


「もちろんだ。

 でも俺1人じゃ手が足りない。」


「俺も… 連れて行ってください…」


「ダメだ。 お前じゃ無駄死にすることになる。

 想定される相手はAランク上位かSランク… ギリギリでBランクにかかるお前には無理だ。」


「ならなんで零司くんは連れて行くの!?」


「こいつが強いからだ。

 単体を相手にはまだ俺の方が強いが集団が相手になるなら俺より有利に戦える。」


「そんな…」


「はい… 零司は今日だけでオーク35匹を1人で狩りました…

 Aランク、Bランクのオークの群れをです…」


「れーじ… 戦うの…?」


「ゆかり姉…

 うん、俺は行くよ。」


「なんで?

 兄さんも行っちゃダメなんだよ…?」


「俺はゆかり姉を守るために行くよ。

 だから待っててくれないかな。」


「もぉ…

 ばかぁ……」


 ゆかり姉に抱き着かれて泣かれる…

 ごめんね、泣かせたくないしどうしたらいいかわかんないよ…


「零司くん… ゆかりを抱きしめてあげて…?」


「ねーちゃん… うん…」


「あ…… ありがと…」




「師匠、悪いんだけど一通りの魔術を見せてくれない?

 手札を増やしておきたいんだ。」


「それはいいが、水以外は初歩的なのしか使えないぞ?」


「大丈夫、どんな属性があるのか見るだけでいいから。」


「わかった、表に行くぞ。」





 翌日、俺と師匠の2人はダンジョンにいる。


 他には誰もいなくて、2人。


 今回はボスまで倒しに行くからひらさかにも控えてもらってる。


 はぁ…


 ひらさかのやつ…


 ほんと無茶をしたよ…


 スキルって本人の願望が形になったものらしい。


 それはねーちゃんに聞いてたけどまさか新しいスキルに目覚めるなんてね…




 名前  神薙 零司

 レベル 1(18 ※隠蔽中)

 ジョブ -(魔術師、剣士 ※ 隠蔽中)

 スキル -(魔導の種子、魔術(火、水、土、風、氷、雷、闇、回復)、剣術、上級隠蔽、ステータス操作、偽装 ※隠蔽中)



 ひらさかが超級鑑定で見てくれた。


 これってさ、上級隠蔽とステータス操作、偽装のせいで色々見えなくなってたのか?

 3つもあればそりゃ見えないわな。

 隠蔽と鑑定の関係は同格だと使う人間の技量に依存するらしい。

 超級鑑定で初めて見えたってことは…?


 ひらさかが見てくれるまで俺は自分のステータスを知ることができなかったってことになるよな。


「零司、お前のレベルは18でもその実力を俺は知ってる。

 どういう理由かはわからないがレベル以上の力がある。


 頼む、俺に命を預けてくれ。」


「ここまで来たんだから最後まで付き合うよ。

 ひらさかが頑張ってくれたしね。

魔導の種子についてはよくわかんないけど魔術はなんでも使えるってわかってる。

 ザコ処理と師匠がボスとやるときに援護したらいいんだよな?」


「あぁ、それで頼む。」


 師匠が見せてくれたから、火、水、土、風、氷、雷、闇、回復までは使えるようになった。

 あとは実戦で使いたい方向で組み上げれてやればいい。



 昨日はオークばっかりだった。


 オークの硬さならどうにでもできるのはわかったから心配はしてないけど、問題はそれより硬いのが出て来るかなんだ。


 俺の魔術が通らなかったらどうする?

 師匠の剣が通らなかったら?


 その時はできるだけのことをするまでだ。



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