060 【過去編5歳】すみませんねギリギリで




あれから毎日のように模擬戦をしているけど勝てる見込みは少しも見えないな。


 俺が弱いのか、師匠が強すぎるのか…


 あぁ、みずーちから今後は師匠と呼ぶように言われたからそうすることにした。

呼び方なんてどうでもいいからそれでいいけど、呼んだときの顔が気持ち悪かったのは言っておきたい…




「おはよ、ゆかり姉。」


「あ、れーじ… おはよ…」


「なんか元気ないね、師匠たちが帰って来るまであそぼ?」



 ゆかり姉は最近あまり学校に行かないみたい。

 学校ってめんどくさそうだし俺もあんまり行きたくないな…



「わぁ! すごいすごい!!

 今度はねこ! ねこちゃんつくって!」


 水の魔術で犬を2匹作ってそれをじゃれさせる。

 これ… いうのは簡単だけどすっごい難しい!!

 形を維持しながら動かしてそれも動物を2匹…


 いい訓練にはなるけど頭パンクしそう…


 暗い顔をしていたゆかり姉が少しだけ元気になってくれた。


 そう思えばやったかいはあるんだけど… きっつい!




「はぁ… はぁ… はぁ… もぉ… むり…」


「えぇー! もう終わり?」


「ごめん… ちょっとこれはしんどい…

 魔術の扱いってかなり頭を使うんだよ…」


「そうなの?

 学校の勉強よりむずかしい?」


「どうだろ、学校の教科書見せてくれる?」


「うん…」


 へぇ… 足し算、引き算か…


「これは余裕かな、四則演算は基礎だからわかってないと後で困るよ。

 ゆかり姉は剣より魔法を使いたいんだよね?

 だったら計算はいっぱいしといた方がいいよ。」


「うん… でもむずかしくて…」


「じゃあ一緒に勉強しよっか、俺も魔術で疲れたから普通の勉強にするよ。」




「あら? 零司くんとゆかりが一緒に勉強してるの?」


「うん! れーじに教えてもらってるの!」


 ゆかり姉って無邪気に言うけど、年下に教えられるって気分悪くないのかな?


「そう、よかったわね。

 零司くんはこの後は社会の勉強よ。」


「あ… はい…」


 はぁ… どこの世界に組織論とか経営学を叩きこまれる5歳児がいるの?

 ここにいるよ………




「今日は零司も一緒にダンジョンに入るぞ。」


「え……」


「どこのダンジョン?」


「お前と俺たちが出会ったあそこだ。」


「そっか… 泣かないで、ゆかり姉のために美味い肉を取って来るから!」


 俺がダンジョンに行くって聞いた瞬間ゆかり姉の顔が一気に曇ったんだ…

 なにかいやな思い出があるのかもしれないけど、お土産を用意するから泣かないで…?


「うん… ちゃんとかえってきて… ね…?」


「もちろん、ひらさかも帰ってきてるし、俺が帰って来ないわけないでしょ?」


「うん… まってるから…」


「おい! なんで俺が比較に使われるんだよ!!」


 え? ひらさか俺より弱いじゃん。

 言わないけどさ。




 おぉー 久しぶり。


 この空気だ… ははっ 今日は何匹殺せるかな?


「お… おい零司… お前なんだよその顔は…?」


「へ? どうしたの? 師匠もひらさかもビビってんの?」


「そ、そんなわけねぇだろ! なんで俺がお前にビビるんだよ!」


 あ… 俺にビビってたのか…


「お前が獰猛な顔してるからな。 普通の神経してたら引くぞ?」


「失礼な。 で、どうすんの?

 あんまり奥には行ったことないけどここって広いの?」


 肉がほしくて入ってただけだからそんなに奥に行く必要はなかったんだよね。

 今日は俺の実力を見たいってところかな、だったら結構奥まで行きそうだよね。


「そうだな… ここは今のところ乙一種か二種かのどちらかってところだ。

 広さに関してはそれなりだな。

 最奥まで行くなら日帰りは無理だ、今日は中間くらいまで一気に行ってそこでお前の実力を見たいと思ってる。」


「うーん… そうすると肉取れないかな?」


「ゆかりに言ってたやつか、それなら先にオーク狩りするか?

 肉がドロップすれば俺のアイテムボックスに入れておいてやるよ。」


 アイテムボックス… あると便利だよなぁ、師匠が使うところをみて真似するか。


「2人とも、その辺で。 早速オークだ。」


「零司、いけるか?」


「ん、よゆー。」



 ひらさかが指さした方にはオークが3匹。


 この数日でモンスターの名前くらいは覚えたよ!


 遊ぶのもいいけど、体力とか温存した方がいいよね。


 …闇ってさ、どこにでもあるんだよ。


 60メートルくらい先にいるオークの首を闇の刃で切りおとす。


 師匠もそうだけど、魔術ってべつに手のひらとか決まった場所からじゃなくても発動できるよ?


 あぁー… 今回はハズレか。


 魔石しか出なかったや。


 オークは死体を残さずに消えて、魔石だけが残ってる。


 モンスターって魔石とドロップアイテムだけ残して死体は消えてくれるから面倒がなくていいよね。


 魔石は闇で回収して師匠に渡しとく。


「はいこれ。 肉が出るまでもうちょっと狩るね。


 えっと… サーチだっけ?」


 自分を中心に魔力を飛ばしてモンスターなんかを探す無属性の魔術。

 これの範囲で実力を計ることができるんだって聞いたけど、これに限界の距離ってあるの?


 お? いるいる! ちょっと行ってくるか。


 サーチに反応のあったのはオークの群れかな。

 30匹くらいいるから肉も1個くらいは落とすでしょ。


「ちょっといってくるね~」


 一応師匠たちに声はかけて一直線!




 ふぅ~ 大漁だね!

 モンスターを狩る時って、綺麗に倒す必要ってそんなになくて、どんなにボロボロでも魔石はあるしドロップもする。

 32匹のオークを闇でぶっころ!



 久しぶりに狩ると気分いいね。


「なぁ… 10分ほど離れて何してたんだ…?」


「え? オークを狩ってたよ。

 これが魔石ね!

 肉がドロップしたからねーちゃんに料理してもらわなきゃ!」


「いや… それはわかるんだがその魔石は…」


「Bランクのオークナイト、オークマジシャン、オークプリースト…

 それにこれはAランクのオークジェネラル!?」


「おぉー ひらさかすげー! 魔石で何のモンスターかわかるんだね!

 そのじぇねらる?とまじしゃん?から肉がでたから今晩みんなで食お!」


「はは… どういうことだよ…

 師匠の見立てだと零司はBランクくらいなんですよね…?」


「あぁ…

 なぁ、どうやって倒したんだ…?」


 ん? そんなに難しいことはしてないんだけどな。


「えっとねー

 オークの群れの範囲を確認して、そこを囲うみたいにドーム型に闇をじゃんじゃかぶち込んだだけだよ?

 これすっごい楽に狩れるね!」


「じゃんじゃか…… そんなにやって魔力切れにならないのか…?」


「魔力切れ? なにそれ?」


「魔力を使いすぎてもう魔力が出せないってことだけど…」


 そんなことあるの?


「大丈夫かな。 使うときに制御とかで疲れるけど自分の魔力はほとんど使ってないから切れることはないと思うよ。」


 師匠って魔術を使う時に無駄が多いのかな?



「師匠… ここは甲種になりそうですか…?」


 甲種? あー確かAランクのモンスターが出るところって甲種って言うんだっけ?


「いや、まだ判断はできないな…

 氾濫前で活性化しているのかもしれないからな…」


「そうなると乙一種だとしても俺たちでは厳しくないですか…?」


「あぁ、Sランク1人、ギリギリBランク1人にAランク相当1人の3人じゃちょっとな…」


「すみませんねギリギリで。」


「あ、すまん。 だがもし… 零司がSランク相当だったら話しは変わって来る。」


「……ですね。」


 なに言ってんだ?

 俺がSランク相当?

 おいおい、師匠に勝ててねぇし5歳なんですけど!?


「なぁ零司。 オークジェネラルを倒した感じはどうだった?

 このレベルのモンスターを何匹も狩れそうか?」


 うーん… 正直に言っていいのかな…?


「オークジェネラルでいいんなら10や20いても余裕だよ。

 距離を取って闇をぶち込めばいいだけだからね。


 ただ、もっと硬いやつがいると難しいかも?」


「そうだな… 今日のところは引き上げよう。

 零司が35匹も狩ってくれたんだ、今日の間引きには十分だ。

 明日、攻略する。」




 俺の初ダンジョン?はこうして終わったよ。


 アイテムボックスは師匠のを見てその場で覚えた。

 肉は師匠が売りたそうにしてたけどゆかり姉へのお土産だからダメ!

 魔石は好きにしていいって言ったら嬉しそうにしてたからそれでいいか。


 マジシャンの肉はねーちゃんが近々角煮にしてくれるって!

 ジェネラルの肉はトンカツ!


 料理っていろんなのがあるんだね!

 ゆかり姉が嬉しそうに食べてくれたからよかった!


 作るところを見たから次は俺にも作れそう!

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