059 【過去編5歳】誰がそんなものをお前に教えたんだ!?




 今日はおっさんたち早く帰ってきたな。


 それにしてもひらさかはどうしてそんな傷だらけなんだ?


「なんでもねぇよ、お前はしっかり食ってでっかくなれよ。」


 そう言って頭を撫でられた。


 悪い気分じゃねぇけどなんかヤだな。


「なぁ、ちょっとそれ見せろよ。」


 そう言ってひらさかを呼び止めて傷を見る。


 うへ… いたそ…


 こんなんじゃヤだよな。


 治れ~ 治れ~ えいっ!


 うん上手くいった。


 ひらさかが怪我してたらゆかり姉が悲しいだろうからな。




「なぁれいじ、お前はどうやってオークを倒してたんだ?」


 オーク? なんだそれ?


「おっさん、オークってなんだ?

 俺が倒してたのは豚顔だぞ?」


「その豚顔をオークって言うんだ。

 あれはそれなりに強いモンスターなんだぞ?」


「へぇ、強いんだ?

 出来損ないの俺でも狩れるのに不思議だな。」


「れいじ……

 そ、それよりどうやったんだ? 教えてくれないか?」


 そんな難しいことはしてないんだけどな。


「えっと… こうやって手に力を集めて… あ、家の中だとまずいね。」


 手にこう… なんていうかコイツヲコロスって気持ちと力を込めたら黒いもやっとしたのが出るからそれを使うんだけど、家の中でやるのは危ないよな。


「れいじ! それを誰に習った!?」


「え?」


「誰がそんなものをお前に教えたんだ!?」


 そんなに大きなお声をだしてどうしたんだ?


「誰もなにも、気づいたら使えたとしか…?」


「これは… まさか闇の魔術ですか…?」


「れーじすごい…」


「いや… これはもっと恐ろしいものだ…

 闇に呪いが混じってる…」


「のろい? なんだそれ?」


 そもそも魔術ってなんだ?


「あなた… れいじくんが呪いなんて…」


「呪いっていうのはな、恨みの気持ちの煮詰まった物とでもいうのか… 人や世界に対して許せない気持ちを集めて攻撃性を持たせた物と言うのか…

 普通は人間が扱うようなものじゃないんだ。」


「よくわかんないけど使わない方がいい?」


「そうだな、似ている性質の“闇”を使えるようになればコントロールもしやすいかもしれないな。」


 そう言われてもよくわからん、とりあえずねーちゃんが悲しむから使うのはやめて他の何かを使うようにするか。




「じゃあれいじは俺と同じように水を扱ってみろ。」


 みずーちは大人げない。


 あんた水は得意だろうに、その得意なのを俺に見せつけるって…


 やってやろーじゃねーか。




 水を自分の周りで動かして、斬りつけるように、攻撃をはじくように、突き刺すように。


 俺はみずーちの動きをそのまま真似して水を動かす。


 動かす水に力を込めておくことに意味があるみたいで、それもやると驚かれた。



「れいじ… お前どうなってんだよ?

 いきなり魔術を使いこなすっておかしいだろ!」


「しらねーよ、あんたがやってるのを真似してるだけ。

 これって魔術って言うのか? おもしれぇな。」



 ははっ! これはほんとにおもしれぇ! これだったら豚顔を倒すのも楽になりそうだ。



「師匠と同レベルで水の魔術を… これが才能か…」


「じゃあれいじ、こっからは模擬戦だ。

 魔術を使ってもいいし剣を使ってもいい。

 とりあえずお互いこの木刀でやるぞ。」



 お?

 模擬戦って言ったら殴り合いだよな?

 こういうのを待ってたんだ…



「遠慮なく打ち込んで来い。

 ほら、どこからでもいいぞ?」



 へぇ… これで殴ればいいんだな…

 いくぞ…


「ははっ」


 水を真正面に叩きこむ!


 もちろんそれはみずーちの水で弾かれる。


 んなこたぁわかってる。


 だからこっち!


 打ち出した水に遅れて自身で突撃!


 「甘い!」


 俺の突きは横に切り払われて流されるけど、こんなもんで終わるかよ!


「おらぁ!」


 地面から石を槍みたいにしてぶち込む。


 水でできるんだったら土でもできるだろって思ったらできたよ。


「くっ…」


 みずーちがジャンプして逃げる。


 避けられるのはわかってたしこの方向なら読み通り!


「“闇”」


 下がったところに闇を薄く水たまりみたいに置いておいてそこを踏んだところで絡みつくように準備しておいた。


「やるじゃないか。

 ほかのやつだとこれで終わりだろうな。」


 は? 模擬戦ってこれで終わるもんだろ?


「はぁっ!」


 うそだろ… 俺の闇を力ずくで振りほどいた!?


「がっ……」


「最後まで気を抜くな。」


 くそが… 力ずくの後で腹に…


「卑怯だと思うか? ハンターは生き残ることが何より大切だ。

 生き残るには相手を確実に殺す必要がある。

 わかるな?」


「あぁ… わかったよ…」


 ならこれで終わりじゃねぇよなぁ……



 ………ぶち殺す。


 速く… 鋭く… 貫け…… 殺せ!


 ここまでもやっとした形で使ってた闇を鉄みたいに固く鋭くして叩きこんでやらぁ!



 腹に一撃もらってうずくまっているところから不意打ちで打ち込んだのにかわされた!?


「そう、それでいい。

 でも今日はここまでな、これ以上は本当に殺し合いになる…」


「うん、わかった。」


「と言っての不意打ちも無しだからな!?」


 チッ…


「今、舌打ちしなかったか?」


「してないよ。 それにしてもみずーちって強いんだな。」


「そりゃそうだ。 俺はこれでもSランクのハンターだからな。」


 Sランク? あぁ、そっか。

 ねーちゃんが「ハンターにはランクがある」って言ってたな。

 Sって言えば1番上じゃん。


「すげーんだな。」


「その俺とやり合えてるお前もな。

 鍛える前に実力を見ようと思ったがもうBランク上位はあるぞ。」


「ふーん、まだそんなもんか。」


「そんなもんかってお前…」


「あんたより弱いだろ? ならどうでもいいよ。

 それより腹を見せなよ。」


 かわしたけどかすってたからな。


「チッ、バレたか。」


「うわ… いたそー! ほーら治れー、治れー。」


 脇腹をざっくりいってるから治してやんないとねーちゃんが悲しむよな。

 さっきボロボロになってたひらさかも治せたからいけるだろ。


「お? おぉ!? お前回復魔術まで使えるのか!?」


「かいふくまじゅつって言うのか? さっき初めてやってみたからよくわかんねー。」


 あれ? 豚顔と初めて戦ったときに自分に使ったっけ?

 まぁそこはどうでもいいか。


「はぁ… お前に常識は通じないのか?

 おーい、お前ら! 帰ってこーい!」


 お? 俺とみずーち以外の3人はぼーっとしてるのな。

 どーしたんだ?


「れいじ… お前こんなに強かったのか…」


「れーじすごい…」


「ごめんなさいね… れいじくんがすごくて固まっちゃったわ。」


 あぁ、3人とも固まってたのはわかるけどそんなにか?

 結局負けたし。


「いいかれいじ、お前が回復魔術を使えることはしばらく秘密だ。

 お前が1人でも他のハンターが何人で向かって来ても勝てるようになるまで隠すんだ。 そうしなきゃお前はそいつらの奴隷にされる。」


「どれい… あぁ、あの家にいるのとかわんねーけどそれはヤだね。」


「よし! 今日は俺と風呂に入るぞ!

 さっきの模擬戦で汚れただろ、綺麗にしてやるから来い!」





「お前… 本当にこのままやるのか?」


「はい?」


「いや、今日もあんなにボロボロになってたじゃないか。

 まだ続けるのか?」


「当たり前です。 やっと上級鑑定まで使えるようになったんですよ!

 俺は零司をちゃんと見てやりたい。

 それにあまり時間はないんですよね?」


「あぁ、零司を見つけたあのダンジョン。

 あそこの調査もいつまで引っ張れるか…」


「零司くんが倒してたっていうオークってどれくらいなの?

 普通ならDランクくらいよね?」


「Bランクですよ。

 人間に個人差があるようにモンスターにも個体差があって、あのダンジョンのオークは弱くてCランク、強くてBランクってところです。

 俺はまだ弱い個体しか倒せませんが、零司が倒したオークの魔石を鑑定したので確かですよ…」


「そう…」


「神薙家はおそらく零司の実力にまだ気づいていない。

 ステータスだけを見て判断しているんだと思う。

 今しかないんだ。

 俺が協会からの依頼で、新発見のダンジョンの種別の認定をしたらなんで零司が生きているのかって話しになる。 いくら俺たちが保護していたと言ってもあの神薙家が調べないわけがない。

 なら、それをだませるくらい鍛えないと零司が… な。

 すまん、苦労をかける。」




作者です


ひらさかの上級鑑定で初めて「れいじ」が「零司」であると見ることができました。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る