056 むしろ今の姿も好きだぞ?




 やっちまったな…


 後悔はないし、するつもりもないが、ちょっと勢いで進めすぎた感はあるよ。


 状況がそれを求めていたと言われればその通りで、俺には他の選択肢がなかったとも言える。


 でもなぁ…


 俺にこんなことができるなんて思わなかったよ…




 Side 美夏




「うわっ! ちょっ!! ゆかりさん!?

 殺意高すぎない!?」


「そんなことないわ、しっかり魔力の流れを見て、魔術が発動するときの魔力の流れを感じれば躱せるから。

 ほら! もっといくわよ!」



 ゆかりさんは得意の闇じゃなくて水にしてくれてるんだけど、魔法と違って詠唱もなくポンポン打ってくるから逃げるだけで精一杯!

 逃げきれずに何回も当たってるけど…




「1回休憩よ、息を整えてよく見学してなさい。

 美冬! こっちは休憩するから3人で三つ巴でやりなさい!」


 はぁ…

 零司くんから「それぞれ身体の感覚を掴んでおくように」って指示を受けて、私とゆかりさんが魔術で模擬戦。 陽菜ちゃんと美冬姉さん、鈴ちゃんの3人は素振りをしたり走ったりして調子を確かめてる。


 鈴ちゃん… 20歳だって聞いてるけどどうしてもちゃんって付けちゃう。 しかたないよね、私より小さいから!

 その鈴ちゃんが身長よりずっと大きい2メートルを超えるハルバードをぶんぶんと振り回してるのはちょっと怖い…

 どこにそんなパワーがあるの?


 美冬姉さんは… これまでより早くなってない?

 もう瞬間移動に見えるくらいの早さで動いてる! こんなスピードで突撃されたら誰も避けられないよ…?


 それより1番驚くのは陽菜ちゃんだよ!!

 やったね!!! 陽菜ちゃんが走ってるんだよ!!

 私がなんとか避けたゆかりさんの放った水が陽菜ちゃんにあたりそうになったけどスっと避けたし!

 もう私より動けてるよ…



「2人ともストップ、3人で模擬戦する。

 目的は今の自分の実力を計ること、りんは1回はいいけど高く飛びすぎないで。 ひなは雷禁止。 あたしも大きいのはやめとく。

 三つ巴なのと建物を壊したりしないように気を付けて。

 じゃあ、いくよ…!」



 美冬姉さんっていつもは口数少ないけどこういう戦闘指示とかになるとちゃんと喋ってくれるの。 


 いつもはゆかりさんが指示をしてるみたいだけど美冬姉さんもAランクハンターだしそういうこともちゃんとできるのね。



「はぁっ!」

「えぇいっ!」


 美冬姉さんの高速の突きを鈴ちゃんが薙ぎ払いで弾く、鍔迫り合いはせずに弾かれるように距離を取り、2人が体勢を立て直そうとしたところを陽菜ちゃんが狙っていたみたい。


「絡めとって“闇”!!」


 美冬姉さんはもう1つバックステップで、鈴ちゃんは翼を広げて空に回避。


 はぁぁぁ… すっごい…


「見えた? これがAランク上位にいる前衛の動きよ。

 ちなみにこの2人より小百合はさらに早いわ。

 ただ、1番すごいのは陽菜ね。

 これでダンジョンに1回しか入ってないEランクなんて詐欺よ。」


 そうなんです、2人が距離を取ったところを正確に読んで、そこに魔術を放つなんて私にはできない。

 これが陽菜ちゃんが目指してること…


 自分がどういうハンターになっていくかをしっかりイメージして訓練してきたからこそこういうことができる…


 私ももっとちゃんとしないと…



「「あっ…」」


 3人の攻防はそれから5分ほど続いたけど、鈴ちゃんが美冬姉さんの首にハルバードを突き付け、美冬姉さんは魔術で作った氷の槍を鈴ちゃんの首に。


 でもその2人足首に陽菜ちゃんの闇の魔術が絡みついている。


「そこまでね、今回は陽菜の1人勝ちよ。」


「負けちゃった、りんに集中しすぎた。」


「リンもです、もっと広い視野が必要ですね。」


「普通にやったら私じゃ勝てませんし、まぐれですよ。 1人でも追いつけるようにならなきゃ…」


 3人とも謙虚… 今後の課題について考えてるし、ここまでするんだ…




 Side 零司




 美春、小百合の2人とそういう…

 まさか俺が3人でするとはね…


 しかも2人とも初めてがこれっていいのか…?


 してしまったものはもうどうしようもないが。



「それで、安心してくれたか?」


「あぁ… サキュバスになってしまった私だが受け入れてくれた。

 こんな種族になってしまったから捨てられるかと…」


「私もダークエルフ… 普通のエルフならこうは思いませんが拒絶されるかもしれないとどうしても思ったのですが…」


 2人とも種族を理由にネガティブになってたんだよな、そんなに蔑まれるような種族なのか?


「俺がお前らを捨てるわけがないだろ。

 むしろ今の姿も好きだぞ?」


「そんなこと言われたら… ほんとに離れないからな?

 私はもうお前がいないとダメなんだからな…?」


「私もです、やっと受け入れていただけたのです。 もう決して離れませんから!」






「もしもし、風間さんですか? 神薙零司です。

 今、お時間いただけますか?」


「うん? 零司くん? どうかしましたか?」


「少しこちらでトラブルがあり、予定が見えなくなりまして…」


「うん、そっちもかい?」


「そっちも… とは?」


「実はね、僕はエルフになっちゃったみたいでさ。

 僕以外にもなんていうか変身? しちゃった人も何人もいるみたいで対応を協議中なんだよ。

 取り急ぎエルフ系と獣人系は出歩いても大丈夫なように調整するけどオーガ系とか普通のサイズじゃなくなったひとたちは出歩かないように連絡してる。

 ちなみにそっちはどう?」


「俺は特に変化なしですが、こちらも変身したメンバーはいますね。

 協会としての対応が決まったら教えていただけますか?

 当面は変化のあったうちの関係者には出歩かないようにこちらからも連絡を入れておきます。」


「あぁ、こういうときに大きなクランとコネがあると話しが早くて助かるよ。

 明日中にはエルフ系と獣人系は動けるようにする。

 それと… 本当に申し訳ないんだけど頼めるかな…?」


「はぁ… 緊急事態ですしね。

 俺のパーティーから無事な俺と、エルフ、ダークエルフ、獣人2名の5名で明日の午後から動けるようにしておきます。

 条件についてはその時に詰めましょう。」


「よろしく頼むよ。

 それにしても、これが最近話題になってる亜人症候群ってやつなんだろうね。

 自分の身に起きるまで実感はなかったけどすごいものだね。」


「すごい?

 風間さんはエルフでしたか、なにか変わりましたか?」


「そうだね、僕もいい年になってるから身体の衰えは感じていたんだけどそれがなくなったね、あとは魔術の精度が全盛期よりも上がっている感じがするね。

 特に元々得意の風はすごいよ、エルフって風と水に適性があるって言うじゃない?

 それを実感してる感じかな。」


「なるほど、そういった種族特性についても今後は共有して… いや、それはある程度親しい間だけにしておいた方がいいですね。」


「そうだね、ハンター同士で情報共有すると必ずやらかしてくれるやつが出るからね、今でも多いのに種族特性の弱点なんかを突くようなことになれば…」


「協会や我々にも対策の準備は必要ですよね。」


「はぁ… 本当に頭が痛いよ。

 マスコミはまたハンター危険説を声高に言い出すのが目に見えている。」


「報道の偏向は他国からの干渉っていう話しがありますが…」


「だろうね。 僕の立場だと明言は不味いからここだけの話しにしておいてね。

 あと、アメリカを始めいくつかの国が君を引き抜こうと言う動きをしているけどそこはどうなの?」


「ははっ 行くわけないですよ。

 せっかく風間さんたちのおかげで日本での居心地がよくなりそうなのに移籍する意味がわかりませんね。

 それにいくつかの国は次にやらかしてくれたら潰しますから。」


「お、おい… 零司くん…?」


「あんま調子くれてるとそこのBランク以上を全員処分するってことですよ。

 風間さんから他所の国への周知をお願いしますね?

 少し前にやらかしてくれた国については次に接触があった時点で潰しますから。」






 はは………

 電話で冷汗が止まらない…


 神薙一族のことは聞いているけど零司くんが出来損ない?

 冗談じゃない…


 最高傑作じゃないか…




作者です。


043 で美冬の「姉さんもさゆりもがんばって」がここのフラグになっているとお気づきでしたか?

二番乗りはこの2人というのはそのときから考えていたりします。

(ホントダヨ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る