055 その日、俺の世界は変わった。





 その日、俺の世界は変わったんだ。


 意味深な言い方だがそうとしか言えない。


 理由、原因は今のところ不明。


 何があったかは………




「ん… 朝か……」


 目を覚ますと隣には見知らぬ全裸の美女が、という展開はなく。

 こちらを微笑んで見つめる小百合がいる。


 ……いるはずだった。



 ちょっと待ってくれ、情報を整理しよう。


 俺たちは昨日、久しぶりにダンジョンに入り、さっさと踏破して家に帰り、反省会をした。 陽菜にとっては初めてのダンジョンで楽しそうにしていたが、当然戦い方は拙かった。 美春はブランクがあり、勘が鈍っていたようだったがその多彩な魔術を見ることはできた。 感覚を取り戻し、俺たちの動きに慣れればもう大丈夫。 美夏はこれまではヒーラーメインで攻撃に関してはやり方はわかるという段階だったから、今後は自分のできることを模索して生きた回復薬みたいなヒーラーからいい意味で外れるように頑張ってほしい。


 よし、記憶の混乱はないな。


 いや、混乱はしているのか?


 そうだな…


 混乱しているのは俺自身だ。




「おはようございます、零司さま。

 私の顔をみて難しい表情をされていましたがどうかされましたか?」


「………はい?

 あんたは… 小百合か…?」


「はい、零司さまの小百合ですよ。 どうかされましたか?」



 現実逃避はここまでにしよう…


 目を覚ますと隣には見知らぬ全裸の美女がいたわけではなかったけど…


 目を覚ますと一晩でなにがあったのか、日焼けした小百合が(ちゃんと寝間着を着て)目の前にいた。




「小百合… なんだな…?」


「はい、あなたの国見小百合ですが…? どうかされましたか?」


「悪いんだが、鑑定を使わせてくれ。 それと自分でもステータスを確認してもらえないか? 昨日までとの違いがあれば教えてほしい。」


「はい………… は?」


 だよな… そうなるよな…


 俺はメンバーたちのステータスをこれまで鑑定したことはない。

 それはマナーの話しだし、信頼の問題だと思うから。


 でも今、あえて見せてもらった。


 あぁ…… やっぱり俺の錯覚じゃないのか……



「小百合自身にも見えるか?


 「種族 ダークエルフ」が…」


「はい… ステータスは、名前、レベル、ジョブ、スキルと並ぶはずですが、名前とレベルの間に種族の項目が追加され、そこにダークエルフと…


 今の私は零司さまにはどう見えていますか…?」


「あ… あぁ… ぱっと見たところは一晩で何があったかと思うほど日焼けしたように肌の色が変わって、耳が伸びて、髪の毛の色が銀になっている。

 なんていうか、ファンタジーでよく聞くダークエルフそのままの容姿と言えばわかりやすいかもな…」



 すごいな… 元々クールな印象の顔立ちをしていたが、ダークエルフらしい薄褐色の肌と相まってクールビューティーとしか言えないな。

 いつもは後ろで1つに結んでいる長い髪は寝るために解いているが、艶のある銀髪になって色気が倍増している。

 俺を見つめる瑠璃色の瞳に吸い込まれそうだ…


 ……危ない、そのままキスしてしまいそうになった。


 俺が今まででキスしたのはゆかりと美春の2人だけだし、その2人も向こうから誘ってきたからだ。 自分からいくと無理やりって思われないか心配になってどうしても積極的にはいけない…

 俺(ゼロ)の方が立場が上だからセクハラやパワハラって言われたくないからな…


「もし… 零司さまが今の私を気味が悪いとお感じになったのなら言ってください… パーティーには残りますが、ここからは出ていきますしもうこのような触れ方はいたしません…」


 はい? なにを言っているんだ?


「どういうことだ?

 俺は小百合のことをそんな風に思ってないぞ?

 むしろ美人度が上がりすぎてキス… したくなったのを我慢したくらいだ…」


「本当ですか…? いきなり変化をしましたしダークエルフ…

でも、我慢… ですか… そんなことなさらないでください!

 私でよろしければいつでも受け入れますので。」


「あ、あぁ… 折をみて頼むことにするよ…」


 ほんとにいいのか…?

 遠慮なくするぞ…?


 師匠に仕込まれてからの10年は必死に戦ってきたからハンターとしての実力は高いとは思う。

 その力を背景に集まって来てくれたやつらには俺自身も感謝しているがそいつらが俺を頼りにしているのは能力が理由だろ?

 去年、ゆかりと美冬と3人で花見に行くまでひとと遊びに行ったことはなかったから俺の人間性とか性格とかが評価されて人が集まるとは考えられない。


 いや、ゆかりと美春はなんとなく違うのはわかる、あと陽菜か。

 他は感謝と恋愛感情が混同しているんだよ。

 なのに俺が手を出したらこいつらの将来のためにならないから…




 隣の、俺が心の中で女子部屋と呼んでいる部屋へ朝ごはんを食べに行く。


 おいおい… マジか… こっちもかよ…


 身体に変化のあったのは小百合だけじゃなかった…


「みんな混乱してた。

 とりあえず落ち着かせてたから、ごはん遅くなってごめん。

 食べてから話そ?」


 こういうときにもマイペースな美冬には感謝しかない。




「1人ずつ確認していこう。

 まず美夏、見た感じはエルフだけどあっているか?」


「うん、私エルフになったみたい…」



 美夏はエルフ。

 耳は笹の葉型というのか? 小百合と同じように長くなり、肌は今までより色が薄くなったように感じる。 この姉妹は元々色白だから取り立てていうほどでもない。

 髪は肩までのボブだったのはそのままに透明感のある金髪になっている。

 瞳は晴れ渡る空のようなスカイブルー。

 あぁ… こうして2人を見ると絵に描いたようなエルフとダークエルフだ。


「綺麗になったな、元から見た目はよかったと思ったけど今はかなりいいな。

 それにもしファンタジー作品のような特徴がでるなら魔術も上手くなるかもしれないぞ?」


「え…? そんな感じ?」


「そんな感じとは? 美人エルフになったとしか思わんけど、ほかにあるか?」


「うぅん… 大丈夫… でも胸は小さくなったの…

 ゆかりさんより小さいかも…」


 おい! なんで自分から!?




「小さくて悪かったわね…」


「ゆかりはあまり見た目に変化がないみたいだけど?」


「そんなことないわよ。

 種族はヴァンパイアになったから髪と目の色が変わったし牙がね…」



 ヴァンパイアになったゆかり。

 髪型はいつも通りの長すぎないハーフツイン、でも髪色が少し茶色みがかった黒髪だったのがダークグレーと言うか黒めの銀髪になっている。 少し見ただけでは気づかなかったけど犬歯が牙のように伸びた? 八重歯だと思えばどうということはないな。 あとは少し血色が悪い感じがする程度に青白い肌になった… か?

 瞳はガーネットを思わせる昏い赤。

 ゆかりによく似合っているよな。


「瞳も髪も似合ってるな。

 でもヴァンパイアってことは血を吸いたくなるのか?

 吸うなら俺のだけにしておけよ。」


「………それだけ?」


「ほかになにか要るのか?」


「うぅん… 大丈夫…」




 あとは見た目があまり変わっていないと言えば鈴か?


「鈴もあまり変わってないよな?」


「そうですね、目や髪に変化はありませんが、こんなのがあります。」


 そう言って背中を向ける鈴。

 うそだろ…

 背中から翼が!?



 鈴は元々アルビノで、ショートカットの白髪だった髪や、琥珀色の瞳に変化はないけど天使を思わせる鳥の翼が背中から生えている。

 出し入れができるみたいだから不自由はしなさそうだけど問題はその色か。

 天使なら白だけど鈴の翼は黒。


「種族は堕天使になりました。

 天使だと神に仕える感じがして気持ち悪いですが、堕天使ですので主様にずっとお仕えできますね。」


「そうだな、これからもよろしく頼むよ。」




 美冬と陽菜のこれはどうなってるんだ…?



「あたしは狼獣人だって。」


 犬って言わなくてよかった…


「私は狐獣人だそうです。」


 よく見ると耳と尻尾に違いがあるな。



 鈴と違い、ちゃんと女の子に見えるショートカットの美冬は髪の色がうっすら蒼みがかった銀色に、瞳は緑、これは翠眼すいがんって言うんだっけ?

 そして、髪と同じ色の耳と尻尾、どちらも狼だな…

 氷の魔術を使う美冬に本当によく似合ってる。



 陽菜はウェーブのかかった髪をしていたが、元より色が黒くなった?

 黒髪に左が赤で右が金色のオッドアイ、かっこいいじゃないか。

 美冬と同じように髪の毛と同色の耳と尻尾があるけどこうして比べてみると陽菜はたしかに狐だ。

 狐はきつね色っていうように金色から茶色に近いような色合いかと思ったけど、こうして黒くても違和感はないな。



「どぉ? しっぽモフモフだよ。」


「そんなふりふりして誘惑するなよ。

 ………あとでモフらせてくれ。」


「おけ。」


「あの… 私のはどうでしょうか…?」


「陽菜の尻尾もいいな、でも陽菜のは耳の方が…

 陽菜もあとで… いいか?」


「もちろんです! 零司さん以外には触らせませんから!」




 さて、なぜか1人だけずっと暗い顔をしている美春はどうなったんだ?


「美春は… うん? 魔族的な?」



 ある意味、美春が1番変化が大きいかもしれない。

 側頭部に羊のような丸まった角が生え、髪はマゼンダっていうのか?濃いめのピンクになり、瞳の色はアメジストを思わせる紫色。

 背中には悪魔風の羽と尻尾があり、身長は変わらないけど骨格が少し華奢になったのか胸が前より大きくなった印象が…

 はっきり言おう、色気がやばい…



「うぅ……」


「どうしたんだ?」


「美春さんはサキュバスなのよ。」


「ゆかり!!」


「うん? それがなんで言いにくそうにしてるんだ?」


「私たちはね… 自分の種族がどういう特徴があるのか本能的にわかるみたい。

 私はヴァンパイアだから血が飲みたいとかね、それで美春さんのサキュバスは男性の… あれよ! わかるでしょ?」


「あーー… そういうことをしてエネルギーを得るみたいな?」


「そう、それも最初の相手じゃないとダメみたい。」


「なるほど?」


「あんた察しが悪いわねぇ…

 美春さんはこないだから無意識にあんたのエネルギーを吸ってたみたいなのよ。

 だからもうあんたからしかエネルギーをもらえないの。

 それと口からよりも最後までした方が効率的にもらえるんですって。

 それで今はエネルギーが足りてないらしくて、ものすごくお腹が空いてるみたいな感覚があるんだって。」


「つまり、満たしてやれと?」


「そう、前から言ってるつもりだけど私はあんたを独占したいと思ってないし、できるとも思ってないわ。

 このまま放っておくと美春さんは空腹感で暴走して男を見たら誰彼かまわず… ってなりそうなんだって…」


「わかった。 美春とは後から2人で話そう。

 それで、なんでさっきは重い空気だったんだ?」


「みんな主様に嫌われたり捨てられたりするんじゃないかって心配してたんです。

 リンとミフユは大丈夫って言ったんですがどうしても気になってたみたい。」


「そうなのか、さっきそれぞれにも言ったけどみんなのことを拒絶なんてしないぞ?

 なんでその種族になったのかの考察はまた後でするにして、いい機会だからこのままみんな聞いてもらえるか?」



 小百合、美冬、鈴以外の4人はここまで言っても微妙な表情だな…


 それだけショックで、それだけ不安なんだろうな…


 安心… させてやらないとな。


 自惚れかもしれないがこれは俺にしかできない、俺がすべきことなんだ。


 さっきまでは自重しないといけないって思っていたがそんなことを言っている場合じゃない。 俺も腹をくくるか。



「まず、ゆかり。 お前とはもう結婚してるんだ、こんなことで離すわけないだろ。

 死ぬまで俺の側にいろ。」


「う… うん… 絶対離れないから…」



「鈴、お前は心配してなかったみたいだけど言っておく。

 お前を連れて来たのは俺だ。 最後まで責任をもってやる、」


「はい、終生お側に。」



「小百合、これからも頼りにさせてもらう。

 俺のことを支えてくれ。」


「私にできるすべてでお支えします…」


 この3人は大丈夫… うん、大丈夫だった。



「美夏、いつも明るいお前が暗くなってどうする!

 俺たちのムードメーカーはお前なんだ、明るい家庭を…  な、頼むよ。」


「私でいいの…? ダンジョンでは足を引っ張るしこんなんなっちゃったし…」


「特訓してやる、そのエルフ耳は後で触らせてくれよ?

 お前の全部を俺にくれ。」


「え… これってプロポーズ…?」


「ああ、俺は今、お前たち全員にプロポーズをしている。

 Bランクになったんだ。 全員もらうさ。」


「はい! 全部あげます!!」


「ありがとうな。


 次は美冬、もうお前の食事なしの生活は考えられない。

 これからもうまいものをずっと作ってくれないか?」


「当たり前。 れーじの胃袋は離さない。」



「陽菜、デートのときの俺のことを癒したいって気持ちがすごく嬉しかったんだ。 これからも側にいて癒してくれないか?

 もちろん尻尾と耳も触らせてくれ。」


「はいっ!

 よろしくお願いします! ただ… やさしくしてくださいね…?」


「もちろんだ、敏感だって言うしな。」



 よし、ここまでは順調だ。

 最後は今も顔を上げない美春。

 このメンバーの中で最年長なのに意外と1番手がかかるんだよな。


「美春…」


 俺は美春の側に立ち、顔を上げさせる。

 アゴクイっていうやつだ。


「デートのときに言ったよな?

 俺のことだけ見てろって。」


「うん…」


「なら俺から目を逸らすな。

 いつまでも俺だけを見てろ。


 美春は俺のものだ。

 サキュバスがどうした、俺から吸ってろ。

 それともなにか? 俺以外がいいのか?」


「そんなことない!

 零司じゃなきゃいやだ…」


「自分で言ったよな?

 お前は俺のものだって、死んでも愛し続けてくれるんだろ?」


「うん…

 ごめんなさい…

 こんな風になっちゃって、迷惑かけちゃうって…」


「バカだなぁ…

 お前らのことは俺が守ってやる。

 それくらいの力はあるつもりだぞ?」


「うん… ごしゅじんさまのおんなとしてちゃんとするから…

 だからそばにいさせてね… 大好きなご主人さま…」



 そう言って美春は触れるだけのキスをした。


 デートのときから思ってたけど、そういうことになると美春って気弱になるし俺をご主人さまって呼ぶんだ。

 ずっと疑問だったんだけどサキュバスの性質があのころから出ていたってことなのかもしれないな。


 そういうことにしておこう…




「れーじって姉さんには甘いよね。」


「うん、ちょっとずるいと思う。」


 あ… 


「いや、ひいきとかそういうのじゃないぞ?

 必要な対応をしてるだけのつもりなんだ… なんだよ…?」


「ふーん…」


「へぇ~…」


「そんなことより、これで全員婚約者ってことになりました!

 これからはもう遠慮なくキスとかそれ以上のこともしてもらえますよね!?」


「ヒナはいいこと言いますね。 リンは早く主様の御子を孕みたいと思います。」


「鈴は身体が小さいので不安もあるでしょう、ここはしっかりとオトナの身体をしている私が最初の子供を宿すのがいいと思います。」


「ちょっと小百合さん! それはずるいんじゃない!?」


「そう! さゆりは卑怯! ダークエルフなんてえっちすぎる!」


「たしかにそうですね、私たち獣人よりもえっちだと思います!

でもそれは美春さんも!」


「ぇ……? 私は… 今はご主人さまに抱いてもらえたらそれでいいかな?」


「ま、まぁ… 美春さんは最後までせずにいたからしょうがないわよ。」


「頼むから喧嘩とかするなよ?

 それと、折を見て親御さんにご挨拶に行かないとな。」


「あ~… うちはしばらく先がいいかも。

 お父さんもお母さんもサブゼロに転職してこれまでより研究が楽しいみたいでこっちの話しは右から左って感じだし。」


「だね、元から研究熱心だけど今は泊まり込みしてるぽい。」


「うちもしばらくはお母さんの顔は見たくないので。」


「お… おぅ…

 じゃあ、それはまた今度にしようか…」



 この流れでいっきにアポまでは取れればと思ったけど…

 彼女の親への挨拶ってどうしたらいいんだよ…


 勢いつけないとできるもんか!

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