サイドストーリー 三上02 三上くん飲みに行く(前編)

誤字修正 2023.10.10

タイトル修正 2023.10.13




 あぁ… めんどくせぇ。

 嫁がこんなだとストレスも溜まるってんだ…



 寝床は会社で用意してあるホテルを使うとして、飯は食ってねえけどとりあえず酒だな。 浩二が生まれてから煙草も禁止されたし、飲みに行く機会も減らされた。

 家庭を持つってそういうものなのかもしれないけど、現役でハンターやってた頃は付き合い悪くなったって色々言われたな。


 サブゼロに入ってからもそういう制限は続いていて、俺が飲みに出る機会なんて年に何回もない。




「いらっしゃい。 おや、三上さん? 久しぶりですね。」


「あぁ、マスターとりあえずビールな。」


「かしこまりました。 カウンターでいいですか?」


 俺は軽く頷いて空いているカウンター席に座る。


「いらっしゃいませ、おしぼりをどうぞ。」


 若い女性の店員がおしぼりを手渡してくれた、俺と同世代ならこれで顔を拭いたりするやつもいるがさすがにバーでそういうことはしない。

 やっていいのは居酒屋だけだと思うね。


「お待たせしました、どうぞ。

 今日は何かあったんですか?」


 顔に出ていたかな、いつもならそんなことをいう人じゃないんだけどな。


「まぁ、いろいろとな、飯を食い損ねてるんだけど何かできるか?」


「そうですねぇ… まかないのパスタでよければ出せますがそれでもいいですか?」


「助かるよ、次はワインでももらおうか。

 フルボトルで適当なのを頼む。」


 こう言っておけばパスタに合いそうなのを出してくれるだろ。




「うん、うまかった。

 無理を言ったみたいで悪いな。」


「いいえ、そう言ってもらえるとあの子も喜びます。」


「うん? そうか、さっきの子が作ってくれたのか。

 礼を言っておいてくれ。」



 本当に美味かった。

 こういうのをさっと作ってくれるのはありがたい。

 いいお嫁さんになりそうな子だな。


 おっと、こういうことを思ってしまうと俺も年を取ったと実感するな。


「失礼ですが、三上さんは元ハンターだとか。」


「あぁ、それなりにな。」


「そうですか… ありがとうございました。

 ハンターの方々がいてくださるおかげで私たちが無事に生活できているのですから。」


「そうかい、そう言ってくれると昔の自分を褒められてるような感じがしてなんというかむず痒いな。」


 こうやって言ってもらえるのは嬉しいが、俺はもう引退してるから。

 現役のやつらにも機会があれば言ってやってほしい。


「もちろん、来ていただいたお客様にいらっしゃれば。」


「この店に現役世代はあまり来そうにないけどな。」


「違いありませんね。」


 苦笑いするマスター。

 ここはいわゆる隠れ家的な店だから若いやつらは来ないんじゃないかな…


「マスター、洗い物はしておきました。」


「あぁ、ありがとう。

 今日はもう上がっていいよ、もしよかったらこっちに来て三上さんと飲ませてもらってはどうだい?」


 はい?

 この子はさっきのパスタの子だよな?

 ここはキャバクラじゃないんだからそういうサービスはしてないだろうに。


「マスター?

 私はその… 男性の方とは…」


 そりゃそうだろ。

 マスターはこういうことをいうやつじゃないと思ってたんだけどどうした…?




「よぉ~ また来たぜ。

 お! 姉ちゃん今日は上がりか?

 なら俺と付き合えよ、こっちに来て飲もうぜ。」


「い、いえ…」


「お客さま、うちではそういうことはやってませんから無体むたいなことは控えていただけませんでしょうか。」


「うっせぇよじじい!

 金ならあるからよぉ、ほら、あっちのボックス行こうぜ?」



 そういうことかよ、

 こういうガキがいるから俺と飲んでるってことにしたかったのかもな。

 パスタが美味かったし乗ってやるか。


「悪いな、この子には先約があるんだ。

 遠慮せず座りなさい?

 マスター、彼女に何か飲みやすい物を頼むよ。」


「チッ、オッサン趣味かよ。

 じゃあいいわ、気分悪いし帰る。」



 おいおい…

 帰っちまったよ、バーに来て1杯も飲まずに帰るってなんだ?



「す、すみません…

 その、ありがとうございます…」


「気にすんな、さっきのパスタは美味かったからな。

 その礼になればそれでいい。

 ついでだし1杯くらい付き合ってくれるか?」



「お待たせしました、ジントニックでよかったかな?」


「あ、はい。 ありがとうございます。」


 ビールを出さないってことは苦手なのかもな。

 好みを把握してるってことはマスターとの付き合いはそれなりにありそうだ。


「俺にも同じものを頼むよ、手洗いは奥だったよな?」



 そう言いながら一旦店の外に出てさっきのやつを探す。


 ちょっとお兄さんとお話ししようか………



「悪いな、間違えて外に出ちまった。

 こっちだったね。」



「あの、マスター…

 私、男のひとは…」


「あぁ、でもあの人は平気じゃなかったかい?」


「はい… なんでかはわかりませんけど三上さんは平気でした。」




「マスター会計を頼む。」


「かしこまりました、こちらへ。」


 俺は告げられた金額に2万追加して差し出した。


「三上さん? 多いですが?」


「彼女の飲み代と帰りのタクシー代だ、こういうときは俺に付けとけよ。

 あとタクシー代はマスターからって言っておけよ。


 じゃあ、また来るよ。」




 はぁ…

 今日も疲れたぁ……


 立場上必要だと言っても1日中会計書類を見るのはきついな。


 俺は役員とはいえ、ハンターあがりなんだ。

 書類仕事はどうしても慣れねぇな…




「いらっしゃい。」


「あぁ、カウンターいいか?」


 こうしてこのバーに来るのは4日連続だ。

 家に帰りたくないのもあるが、ここは居心地がいい。

 久しぶりに飲む酒は美味いしな。


「あ、三上さん…

 いらっしゃいませ。」


「あぁ、今日も頼んでいいか?」


「はいっ、少しお時間をいただきますね。

 マスター、キッチン入りますね。」




「今日も美味かったよ、いつもありがとうな。」


「い、いえ…

 私はこういうことしかできませんから。」


「いやいや、君が入ってくれるようになってから私もまかないが楽しみになったんだよ。 それに最近は前よりも気合の入ったものを作ってくれるしね。」


 マスターはこっちにウインクをしてくる。

 あのさ… おっさんがおっさんにウインクって誰の得になるんだよ。



 一通り客の波が過ぎ、店も少し静かになる。

 BGMはマスターの趣味なのかレコードから流れるジャズとキッチンで彼女が食器を洗う音。


 俺とマスターはタバコを吸いながらウイスキーを傾ける。


 なんというかこういう時間が癒しなんだなって思うよ。




作者です

これ… 続きます。

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