033 私には理解ができないんだよ

誤字修正 2023.10.09



 なんか昨夜は一気に状況が変わって、陽菜をうちのパーティーに入れることになってしまったな…

 そんな気はなかったって言ったら失礼かもしれないけど俺にはそんなつもりはなかったんだ。 まぁ、足の治療はするつもりはあったけどこんなタイミングは予定外もいいところだよ。


 でもま、こうなっちまったもんはしかたない。 山下には挨拶しておかないといけないよな。 結婚するわけじゃないのに挨拶なんかいらないとは思うけど、パーティーに入れるってことは命を預かるわけだからちゃんとしときたいとは思うよ。




「それで、山下家にはどうやって行こうかって話しなんだけどさ。」


 今日の朝食は陽菜のこと(車いす)もあるから俺が女性部屋に行って食べている。 できれば午前中に出発したいと伝えていたんだけど大丈夫かねぇ?


「それなのですが、レンタカーの予約をしておりますので問題ありません。 大きい車で手配しております。 陽菜も問題なく乗れますよ。」


「さすがだね、小百合は頼りになるよ。 それじゃあさくっと引っ越しを済ませて今後のことについて決めていこう。」


 俺はまだ高1だしランクもCだからハンター特例が使えないんだよな。 こういうときはメンバーに大人がいると助かるよ。



「はぁ… 美春姉さんってなんでこういうときに上手くできないの?」

「しかたない。 姉さんだから。」

「あんたたちさすがに失礼よ?」

「ゆかりはそう思わない?」

「え… 少し思うけど…」

「そういうところが美春さんのかわいいところなんですね。」


「普通にしてたら陽菜はいい子なのに…」

「ん… ほんとに。」




 山下家に着いたのは10時を少し過ぎたころ。

 陽菜が連絡をしていたので普通に出迎えられたんだけど山下夫人が俺を見る目はちょっと…

 そりゃあ、いきなり娘が男と暮らすなんて言い出したらこういう目もするよな。 山下の方がそうでもない…? 娘と同い年とはいえ俺は上司だからか? これもある意味セクハラとかパワハラになるのか? サブゼロにそういうのは許さないけど俺がやってしまったのか…?




「副社長… いえ、今は零司くんと呼ばせてもらいます。 君に陽菜のことを預けて本当に大丈夫なんだろうか…?」


 陽菜と山下夫人、うちの女性メンバーは陽菜の引っ越しのために荷造りをしていて、俺と山下は差し向かいで…

 なんていうか… こんなに居心地悪いものなの? 結婚の挨拶じゃないのにこれってさ、本番だとどんだけなんだ…?


「呼び方はどうぞご自由に。 仕事中ではありませんし、俺は娘さんと同い年ですからお気になさらず。

 大丈夫かという質問の意図にもよるのですが、住環境に関しては問題はないと思っています。 うちはバリアフリーですし御覧の通り女性は多いので相談相手や手助けの面での心配はいらないかと。

 金銭面についてもこちらで面倒を見ますし、今後彼女はうちのパーティーメンバーとして活動すれば収入もそれなりのものを得られると思いますよ。」


「そこなんだ。」


 どこだよ?


「見ての通り陽菜は車いすだ。 それがなぜハンターとしてパーティーメンバーになれるんだ? 君が冗談を言っているわけではないのはわかるが私には理解ができないんだよ。」


 あぁ… まぁ、治療したとは言ってないからそうなるか。


「極論になってしまいますが、魔法や魔術を使うタイプの… 魔法職と言われるハンターは歩けなくても問題はありません。 必要であればだれかが抱えれば済む話しですしね。」


「だが不測の事態というものがあるだろう?」


「俺はCランクですが、Sランクでもあります。 不測の事態なんてそうそうありませんし彼女をいきなり乙種に連れて行くわけじゃありません。

 学園支部管轄の丁種は足場が悪いのでまずは丙種から始める予定です。 草原タイプであればだれかが押せば十分に対応できますし洞窟タイプでも足場が平坦なものもありますから。」


 ダンジョンの床というか地面って一般人が思う以上に差が激しくてね。

 木の根でぼこぼこな森林タイプや登山かと思うような岩山タイプもあるけど人工の地下街かと思うような平坦なところもあるにはある。

 後者を選べば陽菜を連れて行っても問題はないはず。


「それは知識として聞いたことはあるが私は親なんだ… だからどうしても心配をしてしまう。

 本当にあの子はやっていけるのだろうか…」


「それについてはダンジョンに入る前にしっかり鍛えますよ。

 ご存じの通りそもそも俺たちはしばらくはダンジョンに入りません。 だから俺が連れていけると思えるまでダンジョンには入らせません。」


 協会が俺の納得できる回答をするまでダンジョンには入らない。

 これは山下も知っているはず。

 それに陽菜をいたずらに怪我させるつもりなんてないのはわかってほしい。


「それと… だ… 

 陽菜には幼馴染がいるというのは聞いただろうか?」


「三上の息子… でしたか。」


「あぁ… 浩二くんというが、昨日陽菜からの電話で言っていたんだがもう浩二くんとは会わないんだそうだ…

 彼は本当に陽菜によくしてくれていたし、私は彼にだったら陽菜を任せられると思っていた。 それがいきなりだ。

 はっきり言おう、私は君が陽菜になにかをしたと疑っている。」


 そうなるか…

 足の治療をしたって言えば話しは済むのかもしれないけどそれは言うつもりはまだない。 なんていうか山下夫人がちょっと気になるんだよな。

 悪いひとではないと思うけど、言いふらしそうな印象があるんだ。


「陽菜が言わないなら俺から言うことはありませんよ。

 ただ、念のために言っておきますが薬を盛ったり手籠めにしたりはしていません。 していたなら俺のところに来たがったりしないでしょう?」


「それはそうだろうが…」


「はぁ… うちのマンションの1室を女性メンバーの部屋にして、そこに今来ている5人と一緒に住むことになります。 俺は隣ですが別室になります。

 あなたたちの部屋も同じマンションに用意しているんですよ?

 いつでも会えますから大丈夫ですよ。」


 5人の目があるのに無理やりなんて普通出来ないだろ?


「う…む…… 話しは変わるんだが本当に荷物は業者を使わないで大丈夫なのかい? 車も大きいが荷物が積めるようには見えないが。」


 おい! ほんとに全然違う話しだな!


「アイテムボックスの魔法を使うので荷造りさえできれば業者は必要ないですよ。」


「アイテムボックス…?」


「Bランクでそれなりにやれる魔法職のハンターであればだいたいが使える魔法の一種ですね。 荷物を入れておく空間を作るんです。

 ダンジョンを攻略するには食料や予備の武器に薬などの荷物にモンスターを倒したときの魔石やドロップアイテムなんかもあります。 それを入れるために使う物ですがこういう使い方もできるってわけです。」


 俺のは特別だけどそこまでいちいち説明はしない。 一般的に魔術が使えるハンターは使えるからBランクっていうのも嘘ではない。


「君は… 魔法職なのか?」


 へぇ… この質問はそれが聞きたかったのか?


「ハンターが手の内を明かすのは身内くらいですよ。

 パーティーメンバーにも隠している切り札があるのが普通です。 それを聞きたいんですか? 何のために?」


 脅して黙らせてもいいけどせっかくうちに転職してくれたんだから大事にしないとな。 ハンターの常識について知識はあっても体感しているわけじゃないからこういうことをきいてしまうのかね。


「すまない… そんなデリケートなことだとは…」


「俺はいいけど、他のハンターと話すときには気を付けてくださいね?

 うちのやつらはそこまで荒っぽくはないけど他所のハンターにもし誘導尋問でもしかけて手の内を探ろうとしたら大変なことになりますから。」


 うちのやつらでも他所のクランの事務方に誘導尋問でもされたら本当に大変なことになるけどね、他所の報復とは比較できないくらいに。


「あ… あぁ… 気を付けるよ…」


「ほかに聞いておきたいことはありますか? 陽菜の安全には配慮しますし、住環境についても問題はない。 女性メンバーとの仲もいまのところ良好です、とくに同い年の美夏とはいい関係を築いています。 食事に関しても俺を含め料理ができる者は何人もいます。」


「生活については本当に大丈夫そうだね…

 ただ… 本当に陽菜はハンターとしてやっていけると思うか…?」



「は!? あなた今なんていいました!?」




作者です


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近況ノートに適宜連絡や感謝を書かせていただいております。


次回は2023.10.11 12時です。


10月は2日に1回、奇数日更新で頑張ります!


よろしくお願いします。

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