サイドストーリー 三上01 三上くん働く
誤字修正 2023.10.09
「はい、備蓄してある魔石をご提供させていただきますので納品に支障はございません。 もちろん御社とは長くお付き合いをいただいておりますのでお値段の方は据え置きとさせていただきます。
はい、それでは失礼いたします。」
私は三上と申します。
今の電話はハンター協会が零司さまに対する無礼を働いた一件で、魔石の供給がどうなるかという心配をお取り引き先様からいただきましたのでその対応をしておりました。
こういうビジネスのお話しは得意ではなかったのですがサブゼロで経験を積むことである程度はこなせると自負できる程度にはなりました。
私は元々はハンターですのでこういう丁寧な話し方などしたことはなく、鎧をスーツに、剣をPCとスマホにしてこのようなお仕事をするなど若いころは夢にも思っておりませんでした。
「お忙しいところすみません、我々では対処しきれない事案が発生しております。
申し訳ございませんが専務に対応をお願いできませんでしょうか…?」
彼は営業の課長で一般人でしたね、いくらサブゼロがハンター企業と言われていても社員全員が元ハンターというわけではないのです。
営業である彼が私を呼ぶというと決裁権限の問題か、相手が少し面倒な場合かの二択ですね。 決裁権限であるなら話しは早いのですがこの場合はどちらでしょうかね。
「お待たせしました、三上と申します。
どういったお話しでしょう?」
「あんたがここの責任者かい?」
「責任者の定義にもよりますが、取締役ですのでおおむねその解釈でよろしいかと。」
「ほぉ… あんたはどんな教育をしてんだい?」
はぁ… 本当に面倒なタイプですね。
問題点や不満点をあえて言わずに相手に何かを言わせてそこから便宜でも図らせようようとしているのでしょう。
こういう相手にはこちらものらりくらりとするのがいいんでしたっけ…
「はて? 彼にはうちの社員としてふさわしい教育はしておりますよ。」
「だからそれはどういうことかって聞いてんだよ!!」
おや? もうお怒りですか?
あまりお上手ではない相手でしたか。
見た目も暗い色合いに下品なラインの入ったスーツに金の時計、室内なのにサングラスとあまり好ましくない手合いのようですね。
「弊社の教育内容はさすがに企業秘密の範囲になりますのでお答えいたしかねますね、もしそれを聞きにいらしたのでしたらどうぞお引き取りを。」
「あぁん!?
あんま舐めてっとはっ倒すぞ!
てめぇみてぇなインテリなんぞが俺にそんな口叩いていいと思ってんのか!?」
おやおや…
気が短いのは良くありませんね。
カルシウムが足りていないんではないでしょうか?
「そう言われましても私はあなたが何者で、どのようなご用件でいらしたのかわかりかねますのでなんとも言えませんが。」
まぁ、なんと言ってもこうなってしまっては勢いで押すんでしょうね。
「お前の部下が俺に無礼な態度を取ったんでその責任を取れっつってんだ!」
「ほぉ… 無礼な態度ですか…
それでそちらの要求は?」
正直もうめんどくさくなってきました。
それに私はべつにインテリではなく高校中退なのですがね。
「おいおい、要求なんてだせぇこと言ってんなよ。
誠意ってもんを見せてくれって話しよ。」
はぁ… ほんとめんどくせぇ…
誠意だぁ? おもしれぇこと言うじゃねぇか。
「ところで、あなたは一般人ですか?
それともハンター崩れのチンピラですか?」
「この野郎!!
もう許さねぇぞ!
俺は元Cランクだ!
お前ぇなんぞが相手にはなんねぇぞ!!」
うっわ… 見たところ30代後半…
それで元Cランクというと本当に相手になりませんね。
「君、ここでの会話は録音はできているかな?」
「は…? はい、音声も映像も残してあります!」
「それがなんだってんだ?
オマワリに元ハンターをどうこうできるわけねぇだろ!」
「いえいえ、ポリなんぞに用はねぇよ。
こっちの処理に使うだけだ。
なぁ、そろそろその舐めた口は閉じたらどうだ?」
「はっ! 映画でも見たのかい?
口調だけマネしてもなんと…も…ねぇ…?」
「なぁ? 小僧…
てめぇがだれに喧嘩売ったかそろそろ気づけや?
Cランクどまりのザコがよぉ?
あんまいきがんなよ… 悲しくなんだろ?」
「ふ… ふざけんな!!
ぶっ殺してやる!!!」
彼は懐からナイフを取り出し、とびかかってきました。
うーん… これでCランク?
おっせぇ…
会社の応接を汚したくないので光り物は控えてほしいのですけど。
ナイフを持つ右手を掴みちょっと揺らしてやって肩を外せばほら、腕が動かなくなりました。
あとは首をこう締めてやれば簡単に意識は落とせます。
「次にそのツラ見せたらてめぇの親族全部バラしてやるからよぉ、
二度とうちに関わんな?」
意識を落とす前にこれだけは言っておきませんとね。
こういう手合いはしっかり言わないと学ばない、しっかり言っても学ばない。
なので骨の髄までビビらせるに限ります。
今さらですが、ハンターが犯罪をしても実際問題として警察にはどうすることもできません。
身体能力に差がありすぎますので拘束できないんですよ。
もし拘束できたとしても逮捕してもその状態を維持できません。
ハンターの身体能力なら鉄格子なんて簡単に破れますし、もし刑務所で暴れられたらそれこそ他の犯罪者も逃げることができてしまいます。
なので、ハンターや元ハンターが犯罪を行うと協会所属か協会から特別な依頼を受けたハンターが捕縛、拘束をします。
そしてハンター用の監禁設備のある施設で…
もちろんサブゼロの社屋にもそういう設備はありますよ。
ちょっとイライラしてるときに尋問をさせてもらうとみんな素直にお話ししてくれるのでストレス発散にいいんですよ。
なんでそういうものがあるのかといいますと、組織として大きくなると必然的に敵が増えてしまいます。
企業として対立するのはしかたありませんし、商品で戦うのは望むところなのですがそれ以外の方法を取る相手もいるわけです。
捕まえるのは簡単なのですが、その場で処分すると背後関係がわかりませんので対策を取りにくいのです。
ですから監禁し、尋問をする必要があるわけです。
「ただいま。」
今日は疲れました…
最初にお話しした取り引き相手との電話以外にも、協会との交渉や、他の企業との調整がいくつもありました。
どこもかしこも自分のところを最優先にしてほしいという思惑が透けて見えて本当に不快でしたね。
こちらの備蓄から提供するのですから少しはそこを考慮した交渉をしてほしいものですが難しいんでしょうね。
「おかえりなさい、遅かったわね。」
「あぁ、デリケートな案件を抱えているからな。」
「ふーん、それが何か教えてくれないの?」
はい? わが妻ながらこいつは馬鹿なんでしょうか…
デリケートだって言っているんだから家族相手でも言えるものじゃないのは察すると思うのですが。
「言えるものなら言っているが、これは無理だな。」
「はぁ、夫婦なのに隠し事をするのね。
あなたはいつもそう。」
「そうは言ってもな、仕事上言えないこともあるんだ。」
「わ、か、り、ま、し、た、!
あなたは家族より仕事が大事なんですよね。
だから浩二くんを追い出したんでしょう?」
それが言いたいのか…
何度も説明したんだけどな…
「あのなぁ…
浩二がなにを言っていたのか本人にも聞いたんじゃないのか?」
「聞いたわよ!
でもそれがなに!?
陽菜ちゃんのためを思って言ったことでしょうが!
私はそのハンターがどうなってもいいのよ!」
「あの方のおかげで私は手足を取り戻したことを忘れたのか…?」
私は左手以外の手足をすべて失い、それまで貯めていたお金もその治療費に大部分を持っていかれたところをゼロさまに治療してもらい、仕事まで世話していただいたんだ。
今の生活もすべてゼロさまのおかげだということを忘れたのか?
「そんな何年も前のことはもういいじゃない!
会社の株もくれないようなケチなひとなんでしょ!
あなたがどれだけ家族を犠牲にして働いてるのよ!」
「もういい、しばらく家を空ける。」
「好きにしたらいいでしょ!
どうせ女のところなのはわかってるんだから!!」
私は元Aランクなので特例が適用されて不貞行為にはならないことも忘れたのか…
いや、妻以外の女性はいませんけどね…?
「あなたが女のところに行くなら私だって好きにさせていただきます!!」
もう修復は無理かもしれませんね…
作者です。
山下氏に続いて三上氏のサイドストーリーでした。
彼らについては本編での掘り下げは少し難しいと感じていたのでこういう形をとらせていただくことにしました。
どちらも不定期に挟んでいこうと思いますので、こちらの2つもご愛顧いただければと思います。
登場人物のKS以外にはきちんと幸せになってほしいので2人にもそれなりの未来を用意したいですね。
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