034 ちょっと陽菜は言い過ぎ




「お前… 聞いていたのか?」


「最後のところだけですけどね、どういうことですか?

 まさか陽菜をダンジョンに入れるんですか?」


 夫人は俺を睨みつけてくる。 当然か、普通の娘でもダンジョンに入るのは親としてはいい気はしないだろうし。

 いい親だね…


「本人が望めば連れて入ります。 安全には十分に配慮して「当たり前です!」」


「嫁入り前の娘が怪我をしたらどうするんですか! 私は反対です! 大事な娘なんです! 陽菜がこれ以上傷つくのは見たくないんです!」


 いい親なのは認めるけど悪いね、俺はあんたのエゴに付き合うつもりはない。



「見たくないのはあんたのエゴだろ、陽菜本人がどう思っているかとは関係ないよな?」


「そんなことはありません! 陽菜だってわかってくれます!」


「だったら本人に聞いてみなよ。 俺は本人が希望しなきゃ連れて行かないし、今回の引っ越しも同居も全部白紙にしてもかまわない。」


「言いましたからね! 夫のことは感謝していますが陽菜のことは別です。 陽菜には身体のことも理解のある浩二くんと結婚して安定した生活をしてほしいんです。」


 おいおい… 浩二も一応ハンターだろ? ハンターに安定なんて普通ないぞ?

 この人はハンターについてなにも知らないのか…?




「お母さん…」


 陽菜の気配は感じていたから来るのを待って任せることにするよ、俺がなにか言うより本人の口からの方が納得するだろうし俺が言うと確実に恨まれるからなぁ…


「陽菜! 陽菜はずっとうちにいればいいのよ、こんなひとに無理についていく必要はないの! なにか弱みでも握られているの? そんなのはお父さんとお母さんがなんとかするから!

 ね? こんな人たちとは離れなさい? ハンターなんて、「お母さん!」…え?」


「お母さんはさっきから何を言っているのかな?

 こんなひと?

 ねぇ…、 それって零司さんのこと…?

 ねぇ…、 ねぇ…、 ねぇ…!?」


「ひ… 陽菜…?」


 あ… これはちょっとまずいか…?


「零司さんは私のことを知ってくれた、わかった上で受け入れてくれたの。 私のことを救ってくれたんだよ。 それをこんなひと? ねぇ… 何を考えているの?」


 あ… 陽菜の目に光がない… これってやばいやつじゃないか…?


「この人じゃなくてもわかってくれるひとはいるわよ! それこそ浩二くんだって、ほかの人だって話してみたらわかってくれるわよ。」


「じゃあそのひとを今すぐここに連れて来てよ。 その人に本当にできるの? 私を理解して、私の心を救って、私をハンターとして一人前にできるの?

 そんなひとがどこにいるの?

 零司さんしかいないんだよ? こんな身体の私をハンターにしてくれるって言ってくれたのは零司さんが初めてなんだよ? ステータスがあるからハンター科に入ることになったけど、ダンジョンに入るように言ってくれた人っていなかったよ?

 私はハンターになりたいんだよ、それをわかってくれたのは零司さんしかいなかったんだよ?」


 え…? なんか俺の評価が高すぎなんだけど?

 ハンターになってもらうのはこっちの都合だし、心を救うって言われても過去は気にしないだけなんだけどな。


「それでもなんでこの人なのよ! 女性を何人も側においてるし、そもそもこのひとは「神薙の偽物」なんでしょ!?」


「……おい、ご夫人… 言っていいことと悪いことの区別はつくか?

 陽菜の母ということで黙って聞いていたが今のは看過しかねるぞ。」


「美春さん… ごめんなさい… でもこれは私に話しをさせてください。」


 はぁ… こんなところにも「偽物」がついてくるのか…


「お母さんがなんでそのことばを知っているのかは追及しないよ。

 そんなことよりも私がこれだけ言ってるのに私の言葉よりほかのだれかの言うことを信じるんだね。

 いいよ、お母さんはそれまでの人だったんだ。 今までのことを感謝してるから手は出さないであげる。

 でももうこれっきり。

 もう親子としては会わないし、今度そういうこと言ってるって知ったらどうなるかわかんないから。

 零司さんを傷つけるならもう私の敵だから。」


 ―――コツン


「いたっ」


 ちょっと陽菜は言い過ぎ。

 軽くデコピンで止めてやった。


「俺を大事に思ってくれるのは嬉しいけどそれで親と縁切りはやりすぎだ。

 だから間をとって、お母さんとしばらく距離を置こう。

 山下もいいよな?」


「はい、今ので私もそう思います、2人とも頭を冷やすべきですね。

 零司さん、すみませんでした。

 妻とは話し合ってみます。 陽菜のこと、よろしくお願いします。」


 あれ? さっきまでは反対みたいじゃなかったか?


「よかったのですか? 私には先ほどまでは私たちとの同居に反対しているように聞こえていましたが。」


 美春さん…

 俺が控えたのに言ってくれてありがとう!


「陽菜自身が決めたことのようですから。 私としては脅されたりしていたのではないのなら本人の希望を優先したいと思っています。 まだまだ子供ですが自分のことは決められる年齢だと思っています。

 皆さんも陽菜のこと、どうかよろしくお願いします。」




 そのあとは微妙な空気なのでさっさと荷物をアイテムボックスに入れて退散。

 どうせなら陽菜に両親と昼ご飯をって思っていたけどこの空気だと無理だと判断したよ。 それにしても山下夫人ってなんていうか…


「ねぇ陽菜ちゃん、陽菜ちゃんのお母さんってうちの学校の生徒と付き合ってたりするんじゃない?」


「そうねぇ… 支部では「偽物」なんて聞かないし。

 言ってるのって1年ばかりじゃない?」


「いや、そうでもないぞ、他の学年や教師でもそれなりにいる。 あの実技教師のように私を口説くときに「「偽物」より俺が」って言われるからな。」


「あ! 美春さん零司の彼女扱いされてちょっと嬉しいんでしょ?」


「え… うん… ちょっと… でも昨日が1番… って何を言わせるんだ!」


「それわかるわ! 私たちを守るためにAランクの先生と戦ってくれたとかほんと惚れ直したよね!」



「そうだったんですね、さすが零司さまです。」


「はぁ… そういうのいいからとりあえずなんか買って帰ろう…」



 山下夫人に嫌われているのは察してたからどうでもいいんだけどさ、


 高校生と不倫の疑いなんて聞きたくなかったよ!!!




「あぁ三上さんいいところに、ちょっと聞きたいんですがいいですか?」


「椿か、どうした?」


「いえね、今回の休業ってどれくらいかなーって思いまして。

 ゼロさんの出資があるんで資産は余裕あるんですが会社としてのキャッシュが少し厳しくてですね…」


「はて? このあいだの役員会では年単位で大丈夫のようなことを言っていたと思うが?」


「そうなんですけど、その後で他のクランに貸し付けるって話しがあったじゃないですか、零司さんから返済能力の査定を条件に可能な限り貸すように指示がありまして…」


「たしかに思いのほか多くのクランが休業宣言をしていたな。」


「はい、みんな最近の協会には不満があったということなんでしょうが想定より多くてどうしたものかと…」


「うちの資金だけでは間に合いそうにないと?」


「えぇ、ハンター向けの武器・防具なんかの売り上げも少し厳しいですね、ただでさえうちの商品はBランク以上向けのものが多いですから。」


「そうか… それで椿としてはどうしたいんだ?」


「当座をしのぐために銀行ではなくゼロさんにお金を借りようかと思います。 これ以上株を出してゼロさんに買い取ってもらうにしても配当もあの方にはあまり意味はなさそうですので。」


「たしかにな、渡した配当金をそのまま資本金に回していると聞いたときは耳を疑ったよ。 わかった、私からゼロさまに話しを通してみる。」


「お願いします。 今回貸し付けを行うクランは九州と関東、東北に拠点を置いているところに限定しています。」


「まったく… 販売部が喜びそうだな。」


「はい、競合には悪いですがハンターにはいい物を持ってもらいたいですから。」


「あの噂は本当なのか?」


「えぇ、九州のあそこの製品は安いですが品質は… 同価格帯のうちの廉価版よりひどいですね。 あんなものを使うから負傷率が下がらないんです。」


「そうか… 今後は廉価版の製造を増やすことも視野に入れるべきだな。」




 三上からメールがあり、

 今回の休業騒動で他クランに貸し付けを行うために、ゼロからサブゼロ(会社)にお金を貸してほしいこと、またDランク、Cランク向けの廉価版の武器・防具の増産を検討してほしいとのことだ。

 急いでいそうなんでゼロ名義の口座から50億を振り込みその旨と、増産に関しても許可すると返しておいた。

 三上がこういうことを言ってくることは珍しいから椿が相談したのかもね。


 協会に要求している金額ってこうやって一瞬で溶けるからそんなに高額ってつもりはないんだけどさっさと答えを出してくれないものだろうか。




作者です


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近況ノートに適宜連絡や感謝を書かせていただいております。


次回は2023.10.13 12時です。


10月は2日に1回、奇数日更新で頑張ります!


よろしくお願いします。

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