記念ショート02 3人でお花見




応援(♥)200突破! 感謝です!




「花見をするぞ。」


 ゼロは唐突にそんなことを言う。


 意味がわからない。

 あたしたちはゼロに助けられてその流れで鍛えてもらってる。


 早く強くなって恩返しをしたいし、今みたいに指導のためのパーティーじゃなくて普通に仲間としてパーティーメンバーになりたい。


 だから遊んでる暇はないしあたしは花見に興味はない。



「ゼロさんはよくお花見をしているんですか?」


 ゆかりがあたしの代わりに質問してくれた。

 あたしはどうしても口下手でうまく言葉にできないからこういうときにゆかりにはいつも助けられてる。


「いや、俺もしたことないんだけど仲のいいやつってこの時期には何人かで集まって花見ってのをするんだろ?

 実はしてみたかったんだよね。」


 とても不思議に思う。

 ゼロってSランクのハンターですごく強いし正直モテる。

 なのに花見をしたことがない?


 ……友達いないの?


「美冬? いま、なーんかヘンなこと考えなかったか?」


「べつに何も。」



 危なかった。

 Sランクのぼっちとか思ってないから。


 Sランクのぼっち… なんかすごく可哀そうになってきた…



「ね、ねぇ… そろそろやめなさい…?

 ゼロさんもさすがに怒ると思うわよ。」


 しかたないから考えるのをやめよう。

 でもそんな時間があるなら訓練とかしたいし、もっと教えてほしい。


「美冬はもっと訓練とかに時間を使いたいと思ってるかもしれないけど、そればっかだと煮詰まって効率も下がるんだ。

 時々は息抜きをしないとな?

 だから明日は花見をします。 決定!」



 決められてしまった。

 あたしたちはゼロに教わる立場だからしかたないけどいいの?

 こんなことしてて強くなれるの…?




 指定された集合場所へ行くともう2人ともいた。

 時間はちゃんと5分前なのになんで?


「いやぁ、楽しみで早く来ちゃったよ。

 今日はよろしくな。」


 う、うん…

 ゼロが楽しそうでよかった。


 でもその服っていつもの戦闘服を着崩しただけじゃない?

 私服着ないのかな。



 お昼ごはんには早いから3人で桜並木を散歩する。


 うん、きれい。


 だけどこれに意味はあるのかな?


 ゼロの指示だから従うけどあたしにはよくわからない。


 ゆかりは楽しそう。


 すごく笑顔でゼロに話しかけてる。


 ほんとにゼロのことが好きなんだと思う。


 あたしはどうなんだろう…


 ゼロのことは尊敬してるし、感謝もしてる。


 でもそれが好きかって聞かれるとよくわからない。


 たぶん好きになるってことがわかってないんだと思う。


 ちょっとゆかりが羨ましいな。



「桜ってすごくきれいだよな。

 日本人って昔から桜のように生きようって言うだろ?

 きれいに咲いて、儚く散るってさ。

 何かあるとすぐに散ってしまおうとすることを桜に例えるのが俺はどうしてもそれが受け入れられなくてね。

 きれいに咲くのは大いに結構なんだけどすぐに散ってしまうのはちょっとな、ハンターをしているからっていうのもあるんだけどもっと必死に生きてほしいなって思うんだよ。

 卑怯なこととか不正なんかをしてまで生きようとするのは違うと思うけど、病気や怪我なんかで苦しくても最後まで生きることを諦めないでほしい。

 そうして最後まであがいてもがいて、それでもダメなときに初めて散るんだ。 最後の瞬間まで生きることを諦めないでほしい、そう思うんだけどなかなかね…」



 ゼロのこんな悲しそうな顔は初めて見た…


 いつも自信家であたしたちを引っ張ってくれるのに…


「ゼロさん… なにかあったんですか…?」


「いつのこととかは言えないんだけど、ちょっと前に救援に入ったときにね。

 ほとんどは助けられたんだけど間に合わなかったやつがいたんだ…

 回復魔法を使えるメンバーがいなかったのもあるけど本人が諦めてしまっていたらしい… 俺があと30分早く着けばって言われたし思ったよ。

 これまでも助けられなかったことは何度もあったんだけどこれほど時間があればって思ったことはなくてさ。

 だから少なくともお前ら2人には生きるのを諦めてほしくない。

 たしかに桜はきれいだし散りざまに美しさを感じるのもわかるんだけど… ね。」



 そっか、いきなり花見って何かと思ったけどあたしたちにこれを伝えたかったのかな。 生きててほしいって思ってくれてるんだ…



「湿っぽい話しはこれで終わりな!

 俺たちは生きてるんだ、生きてるなら食わなきゃな!」


 そう言って出してくれたのは重箱に入ったお弁当。


 美味しそうだけど売り物っぽくない…?

 もしかして手作り?


「一応食える程度には作れるんだけどひとに出したことはなくてさ、自信はないけどよかったら食ってくれ。」


 ほんとに手作りだ…


「ゼロさんの手料理を私たちが初めて食べるってことですよね?

 私たちでいいんですか?」


 ゆかりは何を言っているの?


 出されたものはちゃんと食べないとダメ。


「いいから出してるんだよ、俺の好みの味付けにしてるし見た通り男料理だから口に合わなかったら残してくれていいからな?」


 卵焼き、から揚げ、小さめのハンバーグ、ポテトサラダ、きんぴらごぼうに野菜の胡麻和えとおにぎり…

 たしかに男の人が好きそうなメニューで女の子向けじゃない。



「いただきます。」


 まずは当たりはずれの少なそうな卵焼きを…


「え…? おいしい…」


 思わず言ってしまった。


 でも本当においしい。


 男の人の手料理って初めて食べたけどちゃんと美味しいものを作れるんだ…



「ほんとか? よかったぁ……

 実は不安だったんだよ、でもよかったぁ… 美冬とは好みが合うのかもな。」



 あ………


 ここでその笑顔は反則だと思う。


 ゼロは強くて、やさしくて、でも弱いところもあって…


 それにかわいい…


 こんなのを見せられたら落ちない女はいない…



 ひとを好きになるのってすごい、好きを自覚したらゼロの全部が好きになる…


 そっか、元々全部好きでそれに気づかなかっただけなんだ…


 ゆかりには悪いけどゼロのこと独り占めにさせてあげられない。


 あたしもゼロのことが好きだ。




 ゆかりは女の子だからそこそこ、ゼロも普通くらい?

 あたしは元々食べる方だけどこのお弁当はいっぱい食べた。


 ゼロの好みの味付けならそれを覚えないと。


 任せてね。


 胃袋を掴んであげるから。




 鶏肉と卵がコカトリスで、ハンバーグがミノタウロスだって聞いたのが食べ終わってからでほんとによかった…


 知ってたら味なんてわからなかったと思う。





作者です。


今回はナンバリング外の応援(♥)200突破記念ショートです。

まさか連載開始と言いますか、活動開始から1か月以内の新人の私がここまで応援(♥)をいただけるとは思っておらず日々感謝と感動です。


さて、今回は本編では高3の2人が高1から高2にかけての春休み頃のお話しです。

ゼロ(零司)が2人を指導している時期で、1年と少し前になります。


何があってゼロは2人と知り合ったのか、いつからいつまで行動を共にしていたのか、その辺りについて詳しくは本編で過去の話しとして書く予定ですのでお待ちいただければと思います。


ここまでのお付き合いをありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。



次回の更新は

2023.09.25 18時 の予定です。

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