037 研究者も戦いなんだねぇ…
ちょっとびびらせすぎたかな?
でも魔術の暴発ってかなり危ないからこれくらいの覚悟はしておいてもらわないといけない。
「あの… 零司さん、他のことを質問してもいいですか?」
「なんでもいいよ、わかることなら教えるし俺がわからなくても他にわかるやつを探すから遠慮なく聞いてくれて大丈夫。」
「はい、あの… 先日魔石の買い取り価格について聞いたんですけど、魔石を全部エネルギーとして利用しても余るような気がするんですけどどうなんでしょう?
エネルギー以外にもどこかに使っているんでしょうか?」
いい質問だね。 たしかに魔石ってかなり高額で取り引きされてるからなんでか気になるのは当然といえば当然か。
「それは魔石が素材としても使えることが理由なんだ。 鉄なんかを作るときに魔石を砕いて混ぜてやると強度とか錆びにくさとかそういうものが上がるって研究データがあってね、今も最高の配合比率なんかは研究途中なんだけど新素材として最低限の研究はできたから少しずつ実用化していってるよ。
ハンターの装備品として始まった研究なんだけど、軍事転用や民生品にも流用できるからしばらくは魔石の価格が下がることはないと思う。
支配者層って自分の身を守るためにはほんと遠慮しないからね。」
「なるほどな… ここまで魔石が値下がりしないのは不思議だったがそういうことだったのか…
ということは… このマンションでは暴発しても大丈夫だというのは…?」
「そう、最初期の素材しか使ってないけどうちが関わってたからね。 そこらのシェルターよりよっぽど頑丈に作ってあるよ。」
とある建設業者さんと縁ができたときに素材の話しになってね。
うちで研究している素材を建材にしてみないかってなって、作ったのがここ。 でも新素材をガンガン使って作ったわけで、お値段の方もとんでもなくてさ…
買えるひとがいなさすぎるってことで俺が買い上げたんだよ。
「そういうことだったのか、うちの両親が言うようにサブゼロに敵わないわけだ。 零司や多くのハンターがいるなら魔石の供給は安定する。 その魔石を好きに研究に使えればそれだけ先んじることができる…」
そういうこと。
しかもサブゼロでは所属ハンターの魔石は一括買い上げをして売り上げを分配しているから使える魔石の量は他の研究所なんかとは桁違いになる。
協会には報告書を出してるし、魔石は要求されただけ渡しているからランクの査定に悪影響はない。 協会としては予算内で必要十分に魔石が手に入り、こちらは余分な魔石を自由にできる。 こうやってお互いにいい取り引きができていたんだけどね…
「なぜ零司さまがそこまでされるのですか?
ハンター向け企業は放っておけばできたでしょうし、ハンターからの魔石を一括で買い上げることなどのそのうち気づいて実行されたのでは?」
たしかにね。
これは協会の職員をしていたから気づいたとも言えるけど、これは小百合が善人だから思うことかもしれない。
「小百合の言う通り俺が会社を作らずに放っておくこともできたよ。
でもそうしなかったのは、ハンターが食い物にされるのを防ぐのが目的だったんだよ。 自由主義なやつが多いハンターが企業所属になるのって、要するに金回りが悪くなったからなんだ。
実力不足、怪我の治療費による借金、装備品の支払い、理由はそれぞれだろうけどそういうのがあって、借金で縛り付けて企業側の命令に従わされる。
そんなことになったら悲しいだろ?
上の世代のハンターにはそういう人たちが何人もいたよ。 だから俺はサブゼロで囲うことにしたんだ。 Sランクの看板を使えば協会との交渉も有利になるし、他のハンター企業からの妨害も跳ね返せるしな。」
という感じのいい建前は用意してあるんだ。
本音は自分を守るため。
神薙の実家がどう出て来てもいいように、ハンターや世論を味方にしておく。
俺たちとの取り引きによる利益が大きければ大きいほどこちらに味方する一般企業も増えるからな。
もちろん内部の敵にも気を付けないといけない。
そのために俺の個人資産で支援をしたり、株の名義は100%俺にしてあるし。
「零司くんは頑張りすぎよ? ずっと1人で走ってきたんだね…
これからは私たちがいるからね、ちゃんと頼ってよね?」
「そうだぞ? パーティーを組んだんだ、私たちがお前を支えるし、その… い… 癒しに… なるから… な?」
「美夏はまず魔術を使えるようになる。 そうじゃないとれーじも頼れない。」
「ちょっと! 2人とも! 私がいいこと言ったのに!!」
一通りの説明はできたかな、魔法と魔術の違い、魔石の使用用途。
他にも気にすればいくらでも思いつくだろうけど、それはその時に考えればいい。
新素材の研究開発、それを利用した装備品の開発。
ここまでは考えていたんだけど、それを軍事利用、民生利用するなんて発想は俺にはなかった。 やはり餅は餅屋。 研究者に任せたら利用方法をバンバン提案してくれたから売り込みまくった。
当然だけど特許はまだ取っていない。 他の研究者から3周ほど離してから取るのがいいんだそうだ。
魔石混素材の業界は始まったばかりな今特許を取ると、それを使った研究で次の素材は他所が出してくることになるんだって断固拒否されたよ。
研究者も戦いなんだねぇ…
戦いと言えば、協会はどうなってんだ?
ゴールデンウィークまでには結論がほしくはあるんだけどな。
レイヴンの3人はいいとしてもこっちの3人は実戦訓練しないと身にならないから早めにダンジョンで使わせたいんだよな…
「それで、彼の要求にはどう応えるんだ?」
「全面的に飲むしかあるまい。」
「そんなことができるか!! その金がどこから出ると思っている!!」
「それにあいつの首だな… 降格では許されんか…」
「おいおい、いくら身内でもそれは甘くないか?」
「皆さんは勘違いをしています。」
「なんだ!? 若造が偉そうに!!」
「君は彼のことを良く知ると聞いているから呼んだだけだ、必要以上にさえずるな。」
「はぁ… 彼の要求している首というのは退職の意味ではありませんよ。」
「は?」
「どういうことだ!」
「退職以外になにがあると言うんだ!!」
「わかりませんか? 物理的な意味での馘(くび)、頭を切り落として持ってこいと言っているんですよ。」
「ばかな! この時代に打ち首にでもしろと言うのか!!」
「そうだ! ありえんぞ!」
「何様なんだあいつは!!」
「そうか… 我々はそこまで彼を追い込んでいたのか…」
「おい! なんでそんな達観したような顔をしている!」
「やつの味方をするつもりか!?」
「俺は反対だったんだ! こいつみたいなハンター上がりがこの委員会に入ること自体が!」
「許さんぞ! あんな小僧なんぞ人質を取るなり、薬漬けにするなりして奴隷にすればよかろう! なにがSランクだ! たかがハンターだろうが!」
「まったくだ! 財産だって取り上げればいい! 適当に罪をでっち上げればどうにでもなる!」
「あぁ…… ここまで来てもあなたたちはそうなのか…」
「さっきからなんだ! お前はどっちの味方なんだ!」
「ふぅ… ここは私が始末を付けますから君は動かないように。」
「かしこまりました。」
「な!? おい! いい加減… に…」
「…さすがですね、腕は衰えていらっしゃらない。」
「そうでもありません。 発動まで0.2秒ほど遅れています、風の刃は得意魔術だったんですけどね。
あの支部長の上といえばこの委員会の者たちです、私を入れて12人のうち11人がこのように腐っていましたからね。
これで彼の言うところの上の始末はできたと思っていいでしょう。」
「はい、あとは下の者たちと金策、そして新支部長ですが…」
「下は君に任せていいですか?」
「あの者と深く関わった副支部長以下の者たちはお任せを。 ですが金策は…」
「金策はこの者たちが言っていたように毟り取って充てましょう、足りなければ親類からでも毟ればいい。
本人がそのように言っていたのです、同じことをされて文句は言えませんよ。
おっと、もう死人ですので文句も言えませんがね。」
作者です
「皆さんは~」「はぁ…~」「わかりませんか?~」の発言と
「そうか…~」の発言は別の人物のものとなっています。
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近況ノートに適宜連絡や感謝を書かせていただいております。
次回は2023.10.19 12時です。
10月は2日に1回、奇数日更新で頑張ります!
よろしくお願いします。
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