030 怒らないのか?
「お待たせしました、遅くなってすみません。」
個室に小百合が来てくれた。 焼肉自体は始めてないけどここまでに美冬は大盛りのサラダを3つとキムチ盛り合わせを4つ完食。 うん… 遠慮してくれてるね…
「陽菜、この人が小百合。 私たちレイヴンの3人目よ。」
「あっ… はじめまして、山下陽菜です。」
「お久しぶりですね。 たしか3月にハンターの登録に来られましたね、覚えていらっしゃいますか?」
「え、覚えてくれていたんですか? 登録のときに対応してくれた方でしたよね?」
「覚えていますよ。 ハンディはありながらも意志の強さを感じさせる目をされていましたから印象的でした。」
2人ともすごいな… 俺なんて登録のときの担当なんて覚えてねぇよ…
まぁ… 10年も前のことだしな…
「れーじ… さゆり来たし… いいよね?」
うちの腹ペコ担当がもう無理みたいなんでとりあえず注文するか。
料理が出そろうまでは他愛もない話しをし、食べながらも取り留めもない話しをしている。 こういうときは美夏が明るく話しを進めて、それをみんなで笑う。
美夏の明るさに助けられるよ。
ちなみに美夏は食べてしゃべるだけだ。 美冬と美春さんが断固として焼かせないんだ。
焼肉ならって思ったけど、2人はすごい勢いで首を横に振るのでそういうことなんだろう。
食後のデザートとお茶が出されたので、ここからはマジメな話しに戻すか。
「陽菜に最初に確認したいことがあるんだけどいいか?」
これに同意してくれないと話しが進まないんだよ。
「はい、なんでしょうか?」
「気づいてると思うけど、このメンバーを仕切ってるのは俺だ。
この2パーティーの決定権と責任はすべて俺にかかってくる。
それを踏まえて、お前は俺の決定に従えるか?」
「はい。 従います。 みんなを見ていたらわかります、神薙くんは過激なことはしても私たちに酷いことはしないと思いますから。」
「親の言いつけよりも俺の言うことを優先してもらうこともあるだろうけどそれは大丈夫か?」
「お父さんからは、もし神薙くんからの指示があればなによりもそれを優先するように言われています。 なので大丈夫です。」
「わかった。 じゃあ、話そうか。
お前のお父さんがテレビ局を辞めるきっかけになったあの音声のハンターは俺だ。」
「え……?」
そこから少しぼかしながら俺のことを教えた。
実は別名でハンターをやっていること、支部長と揉めてダンジョンに入っていないこと、魔術を使えて今は美夏に教えていること、サブゼロの社宅マンションにここのみんなと住んでいること。
「そうだったんだ… 工藤くんにすごい魔石を渡してたって聞いたからなにかあるとは思ってたけどそういうことだったのね。」
「怒らないのか?」
俺は間接的に陽菜の父親を失業させたんだからな。
「それは大丈夫、お父さんは今の方が楽しそうだから。 パパのことがあったからハンターを支援できるのが嬉しいんだと思うんです。」
「ねぇ、お父さんって山下さんのことよね? パパっていうのは…?」
ゆかりの疑問は当然かな、父親が2人ってどういうことだって話しになる。
「あ、そっか… 実は私は山下夫妻の本当の子供じゃないんです。 私の本当の両親は山下のお父さんの弟夫婦です。
私はハンターのパパと元ハンターのママの子供として生まれたんですけど、10年くらい前の氾濫でパパはダンジョンで、ママは私をかばって亡くなりました…
そのときの怪我で足が動かなくなったんですけど… 子供のいなかった今のお父さん、パパのお兄さんが引き取って娘として育ててくれています。」
「ひな…」
「え!? 井上先輩!?」
いきなり美冬に抱きしめられたらびっくりするよな、俺は三上から聞いてたけど他の連中は初めて聞いたはずだからそりゃあね…
「ひなは頑張った。 あたしたちの前では泣いていいし甘えていいから。」
「う… うぅ… うえぇぇぇぇん」
「そろそろ落ち着いたか? 私たちはパーティーを組むんだから遠慮なんかするなよ。 これからは私たちを姉だと思って甘えたらいいからな。」
「井上先生…」
「そんな他人行儀にするな、名前で呼べばいいからな?」
「はい… 美春さん…」
「よし。 みんなもいいよな? けどうちに入るならかなり秘密が多いから住むのはこっちにしてもらうか?」
「そうですね、私が1人部屋になっていますのでそこに入ってもらえばいいと思います。」
「小百合さん… いいんですか…?」
「かまいません、ですが…」
「そうよね… 陽菜ってたしか幼馴染の2年がいたわよね? Cランクになったって言う。」
「浩二くんのことでしょうか…?」
「たぶんそれ。 そいつと会えなくなっても大丈夫?」
そこなんだよな… ハニートラップってなにも男相手だけじゃなくて女性相手のものもあるんだよな… 昔のとあるスパイは高位軍人の嫁さんにハニートラップを仕掛けて情報を取っていたって話しもあるくらいだし。
「ゆかりはそこまで、ここからは俺が言うよ。 俺はその浩二ってひとを知らない、だからそいつ経由で俺たちの情報が抜かれると困るんだ。 それはわかるよな?」
「わかります…」
「縁を切れとまでは言わないけど関わりは最低限にしてほしい。 今後はクランメンバーにも言えないようなことも言うし、それが浩二に知られるのは浩二にとってもいいことにならないんだ。 もちろん山下さんにもだけどな。」
「はい… でも… その… 浩二くんは強くて… みんなに迷惑がかかるかも…」
「陽菜さん、私たちのことを舐めていませんか?
美冬とゆかり、私はAランク、美春はBランクです。 Cランクが相手になるとでも?」
小百合も言うようになったね。 女性陣のことを呼び捨てにするってことはそれだけ親近感を持ってるってことだよな?
「そういうのはいいの! 陽菜ちゃんが私たちと一緒にいたいかだけ教えて!」
「美夏ちゃん… いいのかな… 私がみんなと一緒にいて… 足もこんなだし… 強くないし…」
「はぁ… さっき自分で言ったの忘れたの? あんたは美夏と美春さんを守るんでしょ? 今弱いんなら強くなりなさい!」
「ゆかりさん… はい… 私は… 私のことをハンターとして迎えてくれたみんなと一緒にいたいです…」
「ん。 れーじの特訓はやばいから頑張って。」
「んじゃ陽菜はそこにうつぶせで寝てくれるか?」
「「「はぁ!?」」」
え? 足のことで卑屈になるなら手っ取り早く足を治せばいいよな?
パーティーに入ることになったし、秘密は守るって言ってるし、ならさっさと治してきっちり動いてもらった方が俺らのためにもなるだろ?
「足を治すんだよ。 美春さんと美夏はよく見て勉強な、後遺症の治療は少し難しいからいい教材になるんだよ。」
「な… なるほど… 零司は自覚してるのか?
山下さんはおそらく陽菜を大切にしているからかなり高度な治療をできる病院に連れて行っているはず、通常の医療では治せなかったものを治すって言っているんだぞ…?」
「あのねぇ… 回復魔法がある時点で通常の医療の常識から外れてるのを忘れた?
美春さんってときどき常識にとらわれるんだよな、そこが魔術を使いこなせてない理由なの気づいてる?」
「うぅ…」
「そういう意味では美夏は先入観がないから伸びやすいんだよな。 美春さんは俺らの魔術を見て殻を破ってもらわないとな。
それより治療だ。 ちょっと触るぞ、くすぐったくても我慢してくれよ。」
「きゃっ」
返事を聞く前に陽菜の腰に手を当てる、そこから魔力を全身に流して今の状態を確認する… 上半身はとくに問題ないか…? 車いす生活をしているからか腕や肩周りの筋肉は発達してるな、肩こりが少し酷いか? まぁかなりでかい美冬と変わらないサイズあるしこれは治して… 胃が荒れてるのはストレスだな、これも治す。
「ふぁぁ… あっ… んっ……」
足に関しては筋肉が弱いこと以外は問題ないな、リハビリするしかないね。 ってことは神経とかか? 運動神経、感覚神経に問題なし… やっぱり脊髄の損傷が原因だな…
「じゃあこれからが本番だ、脊髄の損傷とそれによって歪んだ骨格を治していくから2人ともよく見ておけよ?」
陽菜の足が動かない理由は、足の動きを司る神経に問題はないから脳からの指示が届いてないだけなんだ。 これの治療は脳から末梢に向かって神経をたどって問題がある箇所を修復してやればいい。
「……ここだな、まずは神経をつなぎ直すから動くなよ?」
「ひゃぁぁ… んっ… んぁぁ……」
よし、神経はこれでいい、あとは骨格だな。
「ぁっ… あっ…… あぁぁぁぁ……!!」
「これで終わりだな、2人とも見てたか?
あれ? なんで赤い顔を? なんでみんな…?」
「もぅ… お嫁にいけません…」
「れーじのばか…」
「そうよ、責任とってあげなさいよ?」
「え? いや、治療だったぞ…? それにキスマーク… あ…」
「「「え?」」」
作者です
昔のとあるスパイはゾ〇ゲのことです。
ご興味があれば調べてみるのをおすすめします。
映画にもなりましたのでそれを見るのもいいかもしれません。
レビュー(⭐)、応援(♥)、コメント
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近況ノートに適宜連絡や感謝を書かせていただいております。
次回は2023.10.05 12時です。
10月は2日に1回、奇数日更新で頑張ります!
よろしくお願いします。
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