029 軽い気持ちならやめときな。




「お前ら、もう帰るぞ。 疲れたから今日は焼肉に行く! 今決めた!」


 今日も美冬が夕ご飯を作ってくれるって言っていたが、それは明日にでも回してもらう。 人間を殴るのはそんなに好きじゃないから悪いけどみんなにはやけ食いに付き合ってもらうことにする。



「え? お前らって言った?」

「どういうことだ?」



「美夏、美春さん、美冬、ゆかりと…」


「え? バレた? 小百合に隠形(おんぎょう)のコツ習ったのに…」


「俺から隠れるにはまだ甘いな。 気配は上手く隠せてたけど魔力が漏れてるからすぐわかる。 次からは魔力も隠せるようにしてみな?」


 なるほどね。 パーティーに美春さんが入ると固定砲台は美春さんになりそうだからゆかりは魔術で遊撃をしようとしてるのかな?

 こうやって色々考えてくれるのは嬉しいな。


「お店はどうするの? 小百合には私から連絡するわよ。」


「そうだねぇ… いつものいいとこに行くか。 あ、そこの車いすの君って山下さんの娘さんでいいよな?」


「ひゃい!?」



「え? 陽菜!?」

「この子あいつの知り合いか?」

「っていうかなんだよ、うちの学園の美人みんな連れて焼肉とか。」

「偽物のくせに…」



「よかったら俺らと晩飯行かないか? 全部奢るから。

 山下さんには俺の名前だして誘われたって言えば怒られないと思うし。

 どうかな?」


 ここで会えたのは良かったよ。 山下の娘については三上から聞いてたから少し気になってたんだ。 それに家族の目線でうちの会社のことをどう思ってるか聞いておきたいしな。


「あの… 私の足… こんなですし…」


「座った姿勢ではいられるんだろ? 段差は俺が抱えてだれかが車いすを運べば問題ないよ。 移動はタクシー使えばいいしな。 いやだったら申し訳なかったけど…」



「おいおい、あんなことした後にナンパかよ。」

「でも言ってることは紳士じゃね?」

「だな、それにハンターなら女の子1人抱えるくらい余裕だし。」

「脅す吉田との差がすげぇよ。」

「「それな。」」


「行ってきなよ。 陽菜って三上先輩以外と遊んだことないみたいだしいい機会じゃない? 全部奢ってくれるとかなかなかないよ?」


「それだよ。 この子たしか2年の三上と一緒にいなかったか?」

「私も見たことある! あの時の三上ちょっと怖かったのよね…」

「あー なんか取られたくないってアピールすごかったよな。」



 へぇ… 三上の息子と仲がいいのか。 そっちの話しはおいおい聞くかね。


「あの… 井上さんたちも私が行っていいの…?」


「もちろん! 山下さんって隣のクラスだよね? これまで話す機会なかったけどよろしくね!」


「れーじがいいなら問題ない。」


「遠慮することないわよ! いいお肉じゃんじゃん奢らせましょ!」


「引率は必要だろ、1人増えようが変わらんさ。」


「よろしくお願いします…」




 この間の料亭と迷った焼き肉屋に到着だ。

 ここも予約必須だし、個室だからヘンなのに絡まれることはたぶん少ない。 先に電話を入れて、車いすユーザーがいることを伝えたら問題ない部屋を用意してくれた。 布団のない掘りごたつって感じか? これなら問題なさそうだな。


「小百合はまだかかるんだっけ?」


「そうみたい。 引継ぎの資料を作らされてるんだって、普通なら指導だけでいいらしいけど新人にも使えるマニュアルまで作れって支部長が言ってるらしいわ。」


「またあいつかよ…」


 俺らや他の高ランクのハンターが休業してダンジョンに入らなくなったきっかけを作り、あの教師に好き勝手をやらせるきっかけを作り、今度は小百合に負担かけてんのか…

 あの条件は絶対に緩めないことを再確認だな…




「神薙さま、本日はご利用をありがとうございます。」

「えぇ、楽しませてもらいます。 連れが遅れているようなので先に軽くつまめるものと飲み物をお願いしても大丈夫でしょうか?

 それと、ミノタウロスをいくらかお分けしようと思うのですが。」

「それはすぐにご用意いたします。 あの、本当にミノタウロス… ですか? なかなか手に入らず私どももお客様にご迷惑をおかけしているのですが…」

「厨房か倉庫でお渡しします。 一応目利きのできる方を呼んでいただいても?」



 ここでもお肉を分けていきますよっと。 ミノタウロスの肉だけでもこないだの猛牛ダンジョンで何十キロもあるからこうやって顔見知りに分けていかないと貯まる一方なんだよ。 本来なら協会や会社に卸してもいいんだけど協会とは今は関わりたくないし、会社に肉まで入れてたらキャッシュが… ね。




 俺らには必要ないけど、山下嬢にはやっぱり必要だろうから自己紹介タイムでもしておくか。


「俺のことは知ってるみたいだけど一応みんな自己紹介はしておこうと思う。 俺は神薙零司(かんなぎれいじ)、1年でハンターランクは…どれだっけ?」

「あんたねぇ… 私たちと再会したときにはCって言ってたわよ?」

「じゃあCだな。 さっきの見てたらわかると思うけどポジションは前でも後ろでもなんでもできるよ。」


「すごい… 1年生でCランクってだけでもすごいのにまだ4月… それにあの先生ってAランクって…」


「Aランクは協会への貢献でなれたりするからあんまり当てにならなかったりするわ。 私は平坂ゆかり。 3年よ。 Aランクだけどなったばかりね。 魔術を使うから後衛になるわね。」


「Aランク!? すす… すごすぎます! よろしくお願いします!」


「井上美冬(いのうえみふゆ)。 3年でAランク、前衛。」


「えぇ!? 井上先輩もAランクなんですか! もしかしてお2人って…?」


「そうよ。 私と美冬、後から来る小百合が最近入ったけど、この3人でレイヴンってパーティを組んでるわ。」


「レイヴン… 本物に会えるなんて…」



 まぁ、そうなるか。 高ランクのハンターって他のハンターからしたら憧れの的だし、この2人は東城学園の生徒だ。 後輩からしたらアイドルみたいなもんかな?



「次は私か。 井上美春(いのうえみはる)だ。 養護教諭をしているが、最近ハンターにも復帰してな、ランクはBのはずだ。

 美冬と美夏の姉でもある。 後衛だな。」


「最後は私ね! 井上美夏(いのうえみか)だよ。 1年でランクは最近Dになったの。 ポジションは後衛ね、パーティーは零司くんと美春姉さんの3人で組んでるわ。 これでもお料理が好きなんだけどみんなして作らせてくれないの! ねぇ、陽菜ちゃんはなんでだと思う!?」


「え…? えっと…… なんででしょう?」


「美夏、飲み物とアイス以外の物に触っちゃダメ。」


「美冬姉さん!?」


「あぁ… 美夏は包丁もフライパンも触っちゃだめだ。」


「美春姉さんまで!? 解せぬ!!」


「ふふっ みなさん仲いいんですね、(私もそんな人と出会いたかったな…)

 えっと… 山下陽菜(やましたひな)です。 1年で、井上さんたちとは隣のクラスですね。 えっと… 一応ハンターで、ランクはFです…」


 隣のクラスってことはハンター科だよな。 車いすでハンターやるのはちょっときついよな…

 丁種は難易度が低いけどここの丁種は洞窟だしな…


「陽菜ちゃんを私たちのパーティーに入れたらどうなるのかな?」


「美夏? キャリーするの?」


「ダメなのかな? せっかくハンターになったのにダンジョン行けないのって…」


「零司はどう思う? お前がリーダーだろ。」


「そうだねぇ… 山下… いや、陽菜って呼ぶけどお前はどうしたい?」


「私は…」


「通常時の丙種くらいなら美夏と美春さんで余裕だ。 俺も入れば乙二種も行ける。

 そこにお前が入って何ができる? 何をしたい?」


「れーじ…」


「美夏、ダンジョンは遊び場じゃないよ。 軽い気持ちならやめときな。」


「私は… ダンジョンに入りたいです… パパが… パパみたいにみんなを守れるハンターになりたいんです!!」


「へぇ… じゃあどうやって守る? お前に何ができる?」


 頑張れ、俺を言い負かしてくれ。 陽菜の実の父親のことは聞いてる。

 母親のことも足のことも。


「今は何もできません、でもこれからできるようになります! だから神薙くん! 私を強くしてください! あの先生を倒せた神薙くんなら私を鍛えられると思うんです!」


 もうちょっとだよ、あと一押しだ。


「お前がうちに入るとしてどうする? どのポジションで何をする?」


「神薙くんと井上さんと井上先生… 全部できる神薙くんと後衛が2人… きっと神薙くんが前衛をする… 2人は弓を使う手をしてなかったからたぶん魔法… 私は前衛アタッカーはできないから後衛… 3人目の後衛? そんなのありえるの…?」


 悩め悩め。 それが気づきになるはず。


「私はレベルは低いだけど魔力操作は上手いって言われた… でも回復魔法も攻撃魔法も適性はそんなにありそうな気がしない… なら何ができるの? 魔力操作で…? 操作? 魔力を魔力のままで…? あ!!!!」


 気づいたかな?


「私は魔力で盾をします! 後衛の2人を私が守ってみんなが戦いやすい状況を作ります!」


「よく思いついたね、魔力を操作して盾か。 そうなると魔術を使えないと話しにならないのはわかるよな?」


「わかります。 私に魔術を教えてください!」


「わかった、でも条件がいくつかあるからそれをクリアできたらね。 まずは魔力操作をある程度できないと魔術を教えることもできないんだよ。」


「はい! 頑張ります! でも、神薙くんが魔術を…? 平坂先輩じゃなくて…?」


「今日の話しは親にも秘密にできるか? 言っていい部分はこっちで指定するから。」


「はい! だれにも言いません!」



 うん、どこまで話すかなぁ… とりあえず魔術は仕込む。 美夏にいい刺激になればいい。 家に関しては山下は家族ごと社宅マンションに入れるから問題ないな。


 問題は俺のことか…




作者です


キャリーは強い人にダンジョンに同行してもらい、叩くのはそのひとに任せて、

本人には踏破した経歴だけを取得させること。

パワーレベリングとは別物と考えています。


レビュー(⭐)、応援(♥)、コメント

何か残していただけるとモチベにつながり泣いて喜びます!


近況ノートに適宜連絡や感謝を書かせていただいております。

そういったものもあるというご連絡でした。


次回は2023.10.03 12時です。

よろしくお願いします。

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