013 まぁ俺は普通じゃねぇから最後までやるけどな




 なんか最後の方では美春さんと小百合がよくわからないことを言っていたが、今後はもっと気軽に行ける店で食事をしようということで結論となった。


 これっきりとか言われないか少し気にしていたんだが、そんなことはなかったな。




 それよりも問題は…


「んで? ここの管轄でやべぇとこはあといくつあんだよ?」


 溢れそうなダンジョンの間引きである。


 こういうのは管轄している支部に所属している上級のハンターが対応するものなんだが丙級の「狼の森」でさえあれだ。 ならそれよりも難易度の高いところが順調なわけがない。


「甲種で1つと乙二種で2つ… ほんとすまん…」


「零司さま、私からもお詫びを…」


「一応聞いといてやる。 なんでこうなった?」


 甲種はともかく乙二種はCランクから行ける。 学園の3年ともなればCランクが何組かいてもおかしくはない。




 井上姉妹には先に帰ってもらい、俺と小百合は協会に戻って来ている。

 丙種ダンジョンがあの様子なら他も危ないかもと思ったら案の定だ。

 本来、丙種ダンジョンが氾濫間近になることは少ない。 それはそもそもの難易度が低いこととどこの支部にもある程度の若手と低ランクで燻っているやつはいて、そいつらの飯の種になっているはずだからだ。

 それがあの状態… 5人パーティーで5匹の群れを2つでも潰せば1人2万。 ハンターとしてみれば収入は高くないがやっていけないほどじゃない。




「いや… 言い訳になるからそれは…」


「あのなぁ、再発防止のために理由を言えっつってんだ。 平坂が言えねぇなら小百合が答えろ。」


「はい… こちら所属のCランク以上のハンターは親もハンターのいわゆる二世の方たちが多く… その…」


「そういうことか。 ほんとくそだな。」


 2人が言葉を濁すのも仕方ないと理解はできるがいい気分ではないな。

 要するに氾濫間際のダンジョンの踏破を依頼されるのを待っているんだろう。 さっき俺が受けたようにこういうのは依頼料が出るからな。 親にそういうものがあると入れ知恵されたら儲けに釣られて依頼されるのを待つのはわからないでもないが… いや… まさかとは思うが…


「おい… まさか釣り上げまでしてるのか?」


「はい… 1か月ほど前より乙二種に関しましては達成報酬700万円で依頼しているのですが足りないと…」


「まぁ700なら微妙なところだがどんなダンジョンだ?」


「乙二種は猛牛ダンジョンと怪鳥ダンジョンだ。 甲種は地竜ダンジョンなんだ。」


 なるほど、どれもフィールド型だな。


「猛牛のは草原で、怪鳥のは森だったか? 地竜は荒野だっけか?」


「その通りだ。 広さがネックだが…」


「そんなことはどうでもいいや、依頼金額はいくらだ?」


「乙二種は各700万、甲種は1,500万だ。」


「現金で3,000万用意しな、それと3つのダンジョンの48時間の立ち入り禁止。 それができるなら受けてやるよ。」


「どこもしばらくはだれも入っていない。立ち入り禁止はすぐにできるが…… いいのか?」


「俺が受けるしかねぇだろ。 ここで甲種が氾濫なんてされたらどうなる? 動けるやつが動くしかねぇよ。 それに釣り上げしてるやつはあれだろ? 成功報酬1,000万に成否にかかわらず半額前金とでも言ってるんだろ? 俺の方が条件としては妥当だと思うが?」


「すまん… 頼む…」


「あぁ、それと。 レイヴンを呼んでるとは思うが入ってねぇよな? あの2人で氾濫前の甲種はまだきついぞ。」


「明日の朝にここへ来る予定だった… 甲種のためにな…」


「んじゃしばらく待たせといてもらえるか? 話したいことがあるし、昼前には一旦出てくるわ。」


 あの2人があれからどんな成長をしているか見てみたい。 それに小百合の件もあるしな。


「いつも苦労をかけてすまん…」


「そうだな。 しばらく裏は休むから体制をなんとかしろよ? 支部長が調子に乗らせてんの俺でもわかるからな?」




「…なんで小百合がついて来てんだ?」


「少しでもお力になれればと思たのですが… お邪魔でしたでしょうか…?」


「いや、あの2人について行くなら甲種の空気は感じた方がいい。 装備はどうする?」


「寮においてありますが…」


「時間が惜しいな、俺の手持ちを渡す。 武器は何を?」


「ナイフ、短剣。あと弓を使います。」


「んじゃ、とりあえずこれとこれな。 風竜のローブと短剣だ。 使う時には魔力を流すようにな、それでしばらくやってれば風魔法を覚えるだろ。」


「お借りします。」


「いいよ、プレゼント。 これから頑張ってくれ。

 甲種からいくぞ、他は溢れてからでも対処できる。」




 ゲートをくぐればそこはダンジョン。

 やって来ました甲種地竜ダンジョン。


 はぁ… ここも魔素が濃いな… ほんとこの支部大丈夫かね?


「ここは効率重視でやるから悪いけどレベリングは手伝えない。 すまんな。」


「いえ… お気になさらず。 甲種には初めて入りましたがここまで魔素が濃いものなのですか?」


 魔素っていうのはダンジョンをただようモンスターのにおいみたいなもの。 これが濃いとそれだけ強いモンスターがいたり、たくさんのモンスターがいるってことになる。

 魔素が濃いからモンスターが強いのか、モンスターが強いから魔素が濃いのか。

 学者が研究してるらしいが、俺らハンターは現状が理解できれば理屈はどうでもいい。


 それよりここの魔素の濃さは昼間の狼の森とは次元が違うな。 よくもまぁここまで濃くなるまで放っておいたものだ。




「サーチ」


 俺の… ゼロのダンジョン攻略はとりあえずのサーチから始める。

 これでモンスターの大まかな配置や強さ、種類がわかるからな。

 ただ、良くも悪くもサーチの魔力に釣られて向かってくるやつが一定数いる。 こちらから行かなくて済むのはいいが、たまに釣れ過ぎるのが難点だな。


「これは… サーチ…? それにしては強い…」


「とりあえず50キロほど飛ばしてみたんだが、十分だったな。」


 このダンジョンは思いのほか小さいみたいだな。 甲種ダンジョンの中での話だが…

 甲種ダンジョンって1階層の面積が100キロ四方で30階層や50階層まであるような迷宮型ダンジョンもあるから正直助かる。


 これなら朝までに3つともいけるかもな。


「あの… サーチって普通は1キロも探れればいい方と言われますが…」


「それはAランクのやつらの話しだろ? 俺がSランクなの知ってるよな?」


「それは… はい…」


 AランクとSランクには圧倒的な差がある。 これはキャリアの長いハンターと協会職員しか知らないことだ。 そもそも一般のハンターにはSランクの存在自体が知らされていない。

 一般から見ればAランク自体が雲の上の存在なのにまだその上があると言われれば心の折れるやつもいるだろうから。


「Sまでなればって言うか、これくらいできねぇとSにはなれねぇよ。」


「は… はぁ… これだけでも私の常識が通じないことがわかります…」


「さーて、そろそろ団体さんが来るから離れてろよ? 高みってものを見せてやるよ。」





 怒涛の如く押し寄せるのは竜の群れ。


 竜といってもこれは下級の竜だな。 なんとかラプトルみたいな二本足で走りながら爪と牙で襲ってくる走竜や、ワニのような見た目でハンターの鎧ごと食いちぎる顎竜。 この辺を1体ずつまでは個人Aランクになれてるハンターのパーティーなら勝てるだろうがこの大群はむりだろうなぁ… 

 その他にも背中に鎧みたいな甲羅を持つ鎧竜とか、合わせて300くらいいるしな。 問題はダンジョンの名前にもなってる地竜が群れのまんま奥に固まってるってことか。


 迎えにいくのめんどくせぇ…




「まぁ、いつも通りやるか。 “闇”」


 俺が発動させたのは闇属性の魔導、これが使い勝手が良くて多用している。

 形は自在に変わるし自由に動く、下位互換の影と違って環境を選ばないしな。



 ここから先はただの蹂躙、四つ足の竜には腹の下から突き上げで串刺し。 二本足の竜は突き上げた闇から枝分かれさせて切り裂く。 ここには飛ぶタイプがいないから楽なもんだ。

 こういうときはモンスターが実体を残さずに消えるっていう生態でほんと助かるよ、毛皮とか肉とかを解体して集めるならこんな戦い方できないからなぁ。




「ふぅーー」

 とりあえず第一波は討伐完了だ。


 普通ならここまでで撤退だな。

 協会からの依頼もこれで最低限はクリアだしたぶん何人か落ちてるだろ。


 まぁ俺は普通じゃねぇから最後までやるけどな。




作者です

1章の終わりまでは毎日18時に最新話を更新しますので

これからもよろしくお願いします!


004につきまして、タイトルに(ST回)と追記しました。

ステータスを書いた回には(ST回)、

今後に説明が多い回には(説明回)と付けるようにします。

見返すときの目印にできればと思いました。


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