008 不公平よ!

誤字修正 2023.09.23




「よかったよ。」


「うん? 何がだ?」


「神薙くんに仲のいいひとがいて。 学校ではその… ね?」


「お前は俺のオカンか! んなことよりさっさと行くぞ! 丙種の狼の森な。」


 平坂のやつ… いらんこと言いすぎなんだよ。


「そう! なんでそこにするの? 丁種だとゴブリンの巣穴に言ってたからゴブリンに慣れてると思うんだけど…」


「そりゃ、そういうやつが多くて狼の森は人が少ねぇんだ。 あと半年ほどこのペースだとたぶん溢れる。」



「狼の森」は狼系のモンスターばかり出るダンジョンで、Eランクなりたてにはちょっときつい。

 それに狼ってのは人間よりも鼻も耳もいいし、連携してくるから難易度は高めになる。

 難易度が高いならそれだけ稼げるかっていうとそうでもなくて、狼の森で数を倒せるなら稼げるけど安全マージンを取りながら群れの対処をして数を稼げるやつは他でもっと稼げるし、そこまでの実力が足りないならそもそも避ける。

 そんなわけであそこは人気がない。

 不人気で間引きが追いついてないとダンジョンは溢れる。


 丙種、Eランクでも入れるダンジョン。 そう思って溢れたら大変なことになるんだ。 一般人とハンターは根本的に能力が違う。 Eランクのハンターが頑張れば素手で倒せるあそこの狼のモンスターも一般の警察だと対処できずに一方的にやられる。 警察がもってる拳銃くらいじゃ傷もつかないんだ。 



「溢れたら…」


「そう、ほっておけば犠牲者は1,000人単位になりかねん。 だからさくっと攻略するんだよ。 ほら、行くぞ。」




「ここが… 丙種…」


「おう、それにしても魔素が濃いな… これは1か月くらいしか猶予はなかったぽい。」


「そんな!? あふれる直前のダンジョンは希少種が出たりするって… それに安定させるのにかなりの数を倒してボスまで倒さないといけないって聞くよ…? 2人で大丈夫なの…?」


「しっかり予習してて偉いな。 実地で覚えた俺とは違うね。 とりあえず役割分担な?

 俺がモンスターを見つけて、押さえつけるからお前はトドメ。 まずは魔法からな。 んで、魔力が怪しくなってきたら武器で。

 それと報酬はザコについては半分ずつ。 希少種とボスは俺が1人でやるから俺が全部でいいか?」


「それってパワーレベリングって言うんじゃ…?」


「そうだよ? でも魔法の使い方も武器の扱いもしっかり教えてやるから一般的なパワーレベリングの弊害は起きないと思う。 それに今はDランクとしての実績とステータスを上げることが優先な?」


「わかったわ。 でも報酬は…」


「うん? ボスとかのも分けた方がいい?」


「逆よ! 私はトドメだけなのよね!? それなのに半分って多すぎない!?」


「野良パーティーは山分けが基本だからなぁ。 今日で俺もDランクになるから割合とかはそれから決めたらいいよ。」


「わかったわ… 今日だけよ。」


「物分かりがよくて助かるよ。 井上じゃなかったら放置してるかもな。」


「それ! なんでよ!」


「どれ?」


「井上って! なんで美冬姉さんは美冬で私は井上なの!?」


「そりゃ初めて会った時に美冬ですって言われたからかな? たぶん。」


「不公平よ! 私のことも名前で! 美夏って呼んで?」


「そりゃいいけど、学校ではどうすんだ? 切り替えるのめんどくせぇんだけど。」


「い… いいわよ。 私も零司くんって呼ぶから!」



 なんだそれ?

 下の名前で呼ぶのは別にいいんだけど学校だと色々言われないかねぇ?

 それに俺のこともそう呼ぶって… ねぇ?

 学校でもってこいつ… 平坂が言ってたのってマジなのか?

 


「ま、まぁそれより! マジで人がいないみたいだからちょっと遠慮なく切り開くわ。」


 ここは火でもいいけど延焼がめんどくさいから風かな。


 ――――ドンッ


 よし、これで見通しがよくなったな。


「あ…… え……? 今なにを…?」


「うん? 風魔法のエアハンマーってあるだろ? あれをかなり大規模にしたやつを撃っただけだよ。 技術なんてなにもないただの力技だから覚える必要はないよ。」


「エア… ハンマー…? うそでしょ!? エアハンマーで10メートル幅で1キロくらいの道ができるなんておかしいよ! 普通はこの木だって倒せないわよ!?」


「そりゃあ魔法ならむりだろ。」


「魔法なら? 魔法じゃなかったらなにが…?」


「それはそのうち教えるよ。 今は自分の成長を考えな? お! さっそくお客さんだねぇ!」



 その後は俺がなにかやるたびに美夏はきゃーきゃーと騒ぐ騒ぐ。 まぁレベリングは順調だからいいか。



「ほいっ」

 俺は影を操り5匹のフォレストウルフを拘束する。 そのまま締め上げて瀕死にして…


「美夏! そろそろいいぞ!」


「了解! アクアニードル!」

 美夏は非常に飲み込みが早い。 最初は長々と詠唱しないと魔法を使えなかったけど、今では詠唱破棄まで来てる。 あとは魔法の精度を上げることと無詠唱だけど今日中にはむりかな。


 魔法の詠唱にはいくつか種類があって、工藤がやっていたように長々と呪文を唱えるのが詠唱。 長い呪文の要点を抽出して詠唱時間を短くするのが略式詠唱。 魔法の名前だけを言うことで発動させるのが詠唱破棄。 無言で集中するだけでいきなり発動できるのが無詠唱。

 詠唱破棄と無詠唱はどんな魔法を使うのか、どの程度の規模かなんてことをしっかりイメージしないと使えないんだけどよく使えるようになったよな…


「さて… そろそろ武器の方もって思ったんだけど時間も押して来たからボスの討伐に行こうと思う。 ここからは俺がやるから休憩がてら見学しててね。」





作者です

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