005 これは保健室に入り浸るやつが多くなるのもわかるな




「おーい、お前ら そろそろいいか? 美夏が男を連れ込むなんて意外だが手当てが済んだならさっさとどっか行け?」


 声をかけられて少し驚いたが、ここは保健室だ。 そりゃ養護教諭が戻ってくるのは当たり前だよな。


 養護教諭?は女性にしては大柄な170センチくらいの長身で少しきつめな目元をしているが口元のほくろがセクシーな美人だ。 さらに白衣を押し上げるその山脈は感動するほど。 これは保健室に入り浸るやつが多くなるのもわかるな。


「ちょっと! 美春姉さん! 何よその言い方! 私はそんなふしだらじゃありませんよーだ!」


「あーはいはい。 そんなことはどうでもいいから出てけ? 早退すんなら私から言っておいてやるから。 お前が噂の神薙か、男嫌いなこいつが気を許すのは本当に珍しい。 お前さえよければ仲良くしてやってくれ。」


「それは…はい。 でも俺でいいんですか?」


「なんだ? 噂のことか? そんなもんどうだっていいさ。 決めるのは他のやつらじゃなく美夏自身だ。 そういう意味では私もお前に興味はあるぞ?

 あの実技担当からの報告書で何度か負傷していることは知っていたが傷跡や後遺症は1つもない。 頭んなかが空洞じゃなければお前になにかあると気づくだろう?」


「ぶっ!」


 井上… ほんとにツボってるな。


「見捨てられるまでは側にいますよ。 それじゃ、俺たち2人はこれで早退ってことで処理をお願いします。」




「ふぅ……」


 この私が気圧されるってあいつは本当にすごいな…

 顔に出さないようにするのに苦労したよ。

 あの感じだと保健室に入る前から気づいてたんだろうから気配察知能力もなかなかに高い。

 実技の教師には授業で負傷した生徒についての報告を行う義務がある。

 そこあった名前に私は驚きを隠せなかった。

 「神薙 零司」 それは元パーティーメンバーの平坂から聞いていた名前だからだ。

 その報告書の内容と平坂から聞いていた内容には大きな乖離があり、同一人物とは思っていなかった。

 だが、先ほど見た彼は平坂の言っていた通りの実力の片鱗を見せた。

 私が一瞬だけ殺気を出したらそれに反応し殺気を返して来た。

 それは私を殺せるだけの実力があることを表していたし、それが彼の上限ではないことも同時に表していた。

 こんなに首筋が寒くなったのはいつ以来だろうか…


 神薙が学園で実力を隠している理由はわからないが、彼が美夏の側にいてくれるなら安心だ。

 きっと美夏のことを守ってくれる。


 まったく、高校生になったばかりの子供に何を期待しているんだ私は…





「すみません、パーティーのメンバーについてのお話しはこちらで大丈夫ですか?」


 あの後すぐに俺たちはダンジョン協会の東城学園支部に来ている。 この支部は東城学園の生徒を主な顧客にしている。 なので制服でこんな時間に2人来ているとそりゃあヘンな目で見られる。


「こちらで大丈夫です。 ハンター証を提示してください。」


 さすが受付嬢はめんどくさいことは言わずに仕事をするみたいだね。 他の学生ではない一般のハンターたちは遠慮なくじろじろとこっちを見ているけど。


「確認いたしました。 それでどういったご用件でしょうか?」


「私のパーティー脱退をお願いします。 他のメンバーには伝えていませんが、これ以上一緒にやるつもりはありません。」


「そうですか、3Mには期待していたのですが仕方ありません。 このまま少々お待ちください。 そちらのお客様はなにかご用はおありですか?」


「あ~… そうですね、副支部長の平坂さんにお話しがあるので少しお時間を頂けるようにお伝えいただけますか?」


「副支部長… ですか…? 失礼ですがあなたは?」


「あぁ… これが俺のハンター証です。」


「お預かりします。 神薙さま… ですね、かしこまりました。

 ~~受付の国見です。 はい、神薙さまと言われる方がお見えです。 はい、はい、わかりました。お伝えします。

 神薙さま、副支部長がこちらも話したい事があるとのことです、この後面談室へご案内いたします。」


「わかりました。 ありがとうございます。」


「井上さま、手続きが完了いたしました。 井上さまはEランク、他のお2人はFランクへ降格となります。 理由としましては3Mは3人でEランクと認定されていたお2人とお1人でもEランクと認定された井上さまというのが協会としての評価でした。 その井上さまが脱退されましたのでこの結果となります。 あのお2人はもう少し経験を積んでから丙種へ行っていただこうと思います。」


「そうですか… ありがとうございました。」


「井上さま、もしよろしければパーティーの紹介などもできますのでご相談いただければと思います。 では神薙さまは面談室へご案内いたします。」


「いえ、彼女も一緒で大丈夫です。 面談室は13番でいいですか?」


「え? あ、はい。 13番と聞いております。」


「なら案内は不要です。 失礼します。」




 う~ん… 今の受付嬢って仕事はできる感じだけど、ほかの2人のことを言うってどうなんだろ。

 もしかして逆恨みに気を付けろって遠回しに注意してくれてるのか? 一方的に抜けると報復があるって聞いたことがあるけど学生でそういうのあるのかねぇ?

 まぁ気を付けるに越したことはないわな。




「あの… 神薙くんはここに慣れてるの…?」


「そうでもないかな。 13番の面談室って平坂専用の部屋なんだよ。 あいつと話すときはいつもその部屋だからね。」


「そっか… でも副支部長さんのことを呼び捨てはよくないと思うよ?」


「いいんだよ。 それだけのことをしてやってるから。 入るぞ~」


 そう言って「13」と書いてあるプレートのついたドアを開けた。




作者です

9/1まで毎日18時に最新話を更新しますので

ご期待に沿えるよう頑張ります!

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