厄介な組み合わせ

三鹿ショート

厄介な組み合わせ

 私と彼女は、この街に恐怖を与えていた。

 何故なら、我々の手によって多くの人間がこの世から去っていたためである。


***


 私と彼女は、目立つような人間ではなかった。

 特筆するような特技の持ち主ではなく、見目も十人並みであるために、突然姿が消えたとしても心配するような人間は存在していない。

 我々はそれを自覚しているものの、そのような人間であることに耐えることができなかった。

 だが、他者からもて囃されたいという願望も抱きながらも、それを叶えることができるほどの実力を有していない。

 どのような内容でも構わないために、話題の人物と化するには如何すれば良いのかと、私と彼女は頭を悩ませた。

 結果として、我々は選ぶべきではない道を選ぶことになったのである。


***


 一人で帰宅している男性を彼女が誘惑し、物陰へと連れ込んだところで、私は男性を背後から殴打した。

 突然の痛みによって相手が蹲ったことを合図に、彼女もまた、隠し持っていた刃物で相手を切りつけていく。

 動かなくなったことを確認すると、肉体を切り開き、内部から取り出した多くの臓器を地面に叩きつけては踏み潰した。

 運動は苦手だったが、この行為によって汗を流すことは、心地よいものだった。

 最後に、我々は自分たちの犯罪行為であることを記載した紙切れを相手の口の中に突っ込むと、その場を後にした。


***


 このような行為を繰り返した結果、世間は我々のことを凶悪な二人組だと騒ぐようになった。

 しかし、然るべき機関に逮捕されるような失敗を犯していないために、我々に辿り着く人間は皆無だった。

 ゆえに、正確には世間が我々のことで騒いでいるわけではないのだが、自分たちが真相を知っているのならば、それで充分である。

 この事件によって、私と彼女は、路傍の石塊から、街の人間たちを恐怖で支配する大きな存在と化したのだった。

 我々は笑いが止まらなくなり、毎日のように酒を飲んでは互いを褒め合った。

 このまま数えることが難しくなるほどの被害者を生み出そうと、赤ら顔で話したものである。

 だが、何事にも終わりは訪れるものだった。


***


 私に愛の告白をしてきた相手は、私が勤務している会社に新入社員としてやってきた女性だった。

 その女性の教育係に任命された私は、たとえ大きな失敗を犯したとしても、落ち込んでいる相手を叱責することなく、慰めることを忘れることがなかった。

 理不尽な上司からも庇っていたことなども重なったためか、何時しか女性は私に対して恋愛感情を抱くようになったと伝えてきたのである。

 教育係として当然のことをしたまでだが、好意的な想いを伝えられたことが一度も無かったために、私は浮かれてしまった。

 その女性と交際を開始したこともあり、私は彼女と共に自身の手を汚すことがなくなっていった。

 彼女は私に対して不満を口にするようになったのだが、私は彼女とは異なり、自分を認めてくれるような人間と出会うことができたのである。

 ゆえに、己の悪名のために街を恐怖で支配する必要が無くなったのだ。

 彼女に別れを告げ、私は恋人との時間を楽しむことにした。


***


 久方ぶりに彼女に呼び出されたために会いに向かうと、其処には私の恋人が変わり果てた姿で転がっていた。

 いわく、私の恋人は性質の悪い人間たちによって襲われ、その生命を奪われたということだった。

 彼女はその様子を目撃していたのだが、多勢に無勢であるために、救うことができなかったらしい。

 彼女を責めることは筋違いなのだろうが、私は彼女を怒鳴った。

 しかし、彼女は冷静な様子で、私の恋人を襲った人間たちを知っていると伝えてきた。

 名前や集まっている場所などを耳にした私は、彼女に意識を向けることを止めた。

 そして、早速とばかりに彼らの下へと向かうことにした。


***


 酒を飲んで眠っている彼らの生命を奪うことなど、赤子の手を捻ることよりも容易だった。

 彼らから取り出した内臓を一つの場所に集め、燃やしていると、不意に彼女が私の肩を叩いた。

 意識を向けると、彼女は私が彼らの生命を奪っているところを撮影していたらしく、その内容を私に見せてきた。

 彼女は口元を緩めると、

「やはり、あなたはこの行為を愉しんでいるではないですか。今後も、私と共に被害者を増やしていこうではありませんか」

 撮影されている私は、確かに笑みを浮かべていた。

 恋人を奪われた悲しみよりも、他者の生命を奪うことの楽しみが強かったということなのだろうか。

 だが、そのようなことはどうでも良かった。

 初めて私を愛してくれた人間がこの世を去った今、私には生きている理由など存在していないのである。

 ゆえに、誰に従い、誰のために動こうとも、私にとっては何の意味も無いことだった。

 私が投げやりに首肯を返すと、彼女は笑みを浮かべた。

「あなたは此方の世界の方が向いているのです。ぬるま湯の生活は、今日で終わりなのです」

 その言葉が何を意味しているのか、私は考えることもしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

厄介な組み合わせ 三鹿ショート @mijikashort

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ