第8話 溶け出す衣服と歓喜の声
「あのクズーヤさん?」
「どうしたモーモン。あと師匠な?」
「そ、そうでした師匠……じゃなくて」
一つ聞いて良いですか、と聞いて来たモーモンは自身の姿を見たのちに言った。
「何で私達こんな軽装になっているんですか?」
軽装、確かにそう言えば軽装だ。
正確には装備を外してただの洋服に着替えただけだ。元からそんな重装じゃない俺はそこまで服装は変わらないが、モーモンは違う。
彼女は巨大で重量のあるハンマーを使う関係上足腰にしっかり装備を着ける者は多い。モーモンも例外なく下半身はかなり重装備。
つまりそんな彼女が鎧を外して薄着になっているという事は、
「見てみろあの嬢ちゃん!」
「とんでもない……」
「ダイナマイトボディじゃ!!」
周りの爺さん達の歓喜の声が聞こえる。人の弟子を何て目で見てんだこら……でも気持ちは分かるぞ。薄着のモーモンもかなりのもんだな。
「おっとそうだ理由だったよな」
はい、と律儀に返事をするモーモンに目の前にいるスライムを指差し告げる。
「さっきも言われただろ? 今からこのスライムのダイエットをするんだよ」
「ダイエット……それさっきも言ってましたよね? でもなんでこんな格好に?」
「それを教えるためにちょっと実演しようか」
プルプルと震えるスライムに近付き、手をスライムの体内に突っ込んだ。その行動に驚き声を上げているモーモンに粘液でベタベタになった手を見せながら話す。
「今これスライムの中に入れたから手が凄い事になってるだろ?」
「……あの師匠なんともないんですか? 大丈夫なんですか?」
「ん、モーモンそろそろだからよく見てな」
不思議そうに俺の腕を見ているモーモンだったが、やがて異変が起こった。
「師匠煙が!!」
「おうもうか、早いな」
モーモンの驚く反応も分かる。そりゃそうだ突然腕から大量の煙が出たら誰でも驚くだろう。しかも粘液の付いた箇所からだけ、間違いなくスライムが原因だと思うはずだ。
だからここですぐに説明した。
「巨大に成長したスライムを元の大きさに戻す手段は大きく分けて二つあるんだ」
「二つですか?」
「あぁ、一つは”分体”だ。これはスライムが自身の身体を使って子を増やす手段なんだよ。そうすると必然的に小さくなる」
「なるほど……でも待ってください? 師匠のそれって絶対分体じゃないですよね?」
そうこれがもう一つ、と相変わらず煙の出る腕を眺めながら、
「スライムの体液を人の肌に触れる事で魔力を”気化”させる方法だ」
「気化?」
そう、手間は掛かるが確実にスライムを小さくすることのできる方法なのだ。
スライムだけじゃなく基本的に魔物は空気中に存在する魔力を体内に吸収する生き物、逆に人間は体内に一定数の魔力を持っており、それを消費する生き物。
つまり魔物は”吸収”することに、人は”消費”することに対応している。
「それがどう関係が?」
まあ待て話を最後まで聞いてくれ。
「結論として消費することしかできない人の肌に触れさせることで溜め込んでいた魔力を自然に帰すことができるわけよ。時間は掛かるけどこれなら確実に小さくなれる」
「なるほど! 本当ですね師匠の腕に付いてたスライムさんの体液、蒸発して無くなってますね」
「だろ? ただこの方法はスライムにしか出来ないぞ。これもスライムと人間が共存していけてる理由の一つだな」
ほぇぇ、と納得するモーモンだったが、
「でもそれって分体? をすれば良いんじゃないんですか?」
モーモンの言いたい事は確かに分かる。けれどそう言うわけにもいかないのだ。
「こんな大きなスライムが元の大きさに戻るために分裂したらとんでもない数になるだろ?」
「あ、確かに」
「だから依頼が来たら定期的に手伝わないと入れないんだよ」
「なるほどです」
理解が早くて助かる。
「それじゃ早速始めようか」
「はい!」
モーモンと共にスライムの体内に身体を付ける。俺は一回スライムの体内に身体をドップリと付けて全身に浴び、モーモンは警戒しながら手だけを付けた。
すると先程と同様に魔力の気化に伴う煙が発生する。
「凄い本当に煙が出てます! でも熱くはないんですね」
「そりゃ熱かったら困るな。人体に害が無いって確認されてるから出来ることだよ」
「もぉぉ……面白いです」
「……」
このモーモンが短く『もぉぉ』って鳴くのは口癖なのだろうか? もしそうならとんでもなく可愛らしい口癖だなおい。
「それにしても師匠は凄いです……よく全身に付けれますね」
「まぁ慣れてるからな」
「それによく見ると師匠もかなりの筋肉……触ってみたいです……」
ゴクリ、とモーモンは汗を垂らしながら喉を鳴らす。止めろ止めろなんて目で見てんだよ。
そして身体に付いた体液がもう気化して無くなった。なかなか早いな、これなら早く終わりそうだ。
仕事のし易さに安心していると、とある異変に気付いた。
「え、なんでモーモンまだ残ってるんだ? てか煙少なくね?」
そう、モーモンの手に付いた体液から本来であればかなりの量の煙が出るはずなのだが、明らかに俺よりも煙の量が違う。半分くらい違うのだ。
異変に気付いたモーモンの困り眉がさらに八の字になり、涙目を浮かべている。
「ク、ク、クズーヤさんどうすれば!? しかも何だかこれヒリヒリします!!」
「ヒリヒリ!?」
どういうことだ!? 共存している白いスライムの体液は無害のはずなのに!!
____って、待って!!?
「モーモン! 服見ろ服!!」
「もぉ??」
俺に言われ自身の服を確認するモーモン、そして自分の状況を見た。
結論から言おう。
スライムの体液が腕からいきなり広がり始め、モーモンの服が溶け始めたのだ。
「もぉぉぉぉぉ!!?」
悲鳴を上げるモーモンとそれを冷静に見る俺の図。
「クズーヤさん!? 服が服がぁぁ!!!」
「え、あぁそうだな。溶けてるな」
「冷静過ぎませんか!?」
ふと思い出して見たが王都や都会の大人のお店などではスライムの体液で何か面白いことをするサービスが流行っているらしい。
そしてそれは異種族の娘達に対して行うプレイとかなんとか……、
「もしかして異種族にはスライムの気化が出来ないのか?」
「分析してる!!!」
その可能性はある。元々異種族は人間というより魔物からの派生と言われていたはずだ。
つまり異種族は人間と違い魔力を吸収することが出来るということになる。なるほどそれなら説明がつくぞ。
おそらく異種族がスライムの体液に触れてしまうと、同じ”魔物”と判断されてしまうのだろう。それを体液が消化しようとしているのかもしれない。
何故すぐ消化されないかというと、人間でもなく魔物とも違う不思議な作りに体液が戸惑っているのだ。
だからヒリヒリはするが消化はされず、着けている衣服はその微弱な消化にも耐えられずに溶ける。
「なるほど、また一つ謎が解けたな」
「クズーヤさん助けてくださいよぉぉぉ!! いつの間にか身体中に絡みついて!! 助けてくださいクズーヤさぁぁぁん!!」
まぁ待て待ってくれ。
白い触手がモーモンの太腿や腕、腰やら脇に尻と大変見た目は絵面的にヤバくなっている。こんなの細かい描写を書いたら消されるわ。
「消されるって何言ってるんですかぁぁぁぁ!!?」
あーこっちの話だから気にしないでくれ。
そして後ろからさらに歓喜の声が、
「うひょぉぉ!! 見てみろナイスバデェじゃ!!」
「儂が棺桶に入る時はあの枕が良いぃ!! あれじゃなきゃ嫌じゃぁ!!」
「あぁ、この光景が天国か……婆さん今行くぞ……」
年寄りの言う棺桶に片足突っ込んでるジョークは恐ろし過ぎるわ。表現して良いものか悩むレベルだ。
でもその気持ちは分かる。
「クズーヤさん……み、見ないでください……」
「……」
俺はこの光景を脳内の記憶領域に刻む混むことにした。
あ、言い忘れていたが全然エロくないよ? 本当だよ?
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