第7話 天才スライム





 翌日、いつものように冒険者ギルドに行くと、既に来ていたモーモンが俺に駆け足で向かってきた。

 何がとは言わないが一部分が物凄く揺れていて皆の視線を釘付けにしている。全く人の弟子を変な目で見ないで欲しいものだ。


「師匠昨日はすいませんでした!!」


 近づくや否や深々と頭を下げてコチラに謝罪してきたモーモンは、困り眉がさらに八の字に困っていてそれがとても可愛らしい。

 しかし酒を呑ませたのは俺だというのに女の子の方から謝られるとは、


「気にすんなよモーモン、俺も気付けばよかったよな。苦手なら言って断ってくれて良いんだからな? 遠慮すんなよ」


 本心からの言葉だった。

 実際、酒が苦手な奴に飲ます程俺は最低な男では無いのだ。


「いえ、私も普段は大丈夫なんですけど昨日は気がついたら何も考えられなくなっちゃいまして……いつの間にか気持ちよく……」(気持ちよく酔い潰れた)


 モーモンが話した途端、周りからの圧を強く感じた。


「モーモン言い方、言い方良く無いからか」

「もぉ?」


 いややたらと反応が可愛いな、ってそうじゃなくて。


「見てみろよ周りを、男共の俺を見る眼光がヤバいだろ? あれはおそらく俺とモーモンがやましい事をしたと思ってるぞきっと」

「やましい事? なんですそれ?」

「そりゃお前公衆の場で言っちゃいけない事だよ」


 もぉ? と最初こそ本当に分からないと言った感じであったモーモンだが、何か理解したのか一瞬で顔が真っ赤になって手を激しく振った。


「もぉぉ!? わ、私と師匠はそんなことしてませんよぉ!!! 昨日は酔ってしまった私を師匠が宿に送ってくれただけですよぉぉ!!」


 この否定の仕方がまた可愛いのだが、送っただけじゃないけどね、揉みったけどね、まあそれは内緒にしとくか。

 今だに手をブンブン振り否定しているモーモンを他の冒険者の皆は穏やかな笑顔で見ている。モーモンは癒し系女子なのだな。


 すると受付嬢さんが俺達の下へとやって来た。物凄く機嫌が悪そうだが、


「クズーヤさんはモーモンさんと飲みに行ったんですね。私とは行ってくれないのに」

「うっ、仕方ないだろ? 弟子だしな」

「ふぅーん? そうですか?」

「そんなことよりわざわざこっちまで来るなんてなんかあったんだろ? 話してくれよ」


 そうでした、としばらく俺をジト目で睨みつけていた受付嬢さんはため息を溢し、手元の書類に目を通して言い放った。


「クズーヤさんに依頼です」



「師匠、今日は先程受付嬢さんから受けた依頼をやるんですよね?」

「そうだぞ」

「さっきから街中を歩いてますけど、どんな依頼なんですか?」


 モーモンの問いにどう伝えるべきか、しばらく考えてみるがすぐに思考を止める。


「まぁ見れば分かる」

「もぉ? そうですか?」


 詳しく告げることなく二人で街を見て歩く。森でモーモンの戦闘スタイルを確認していたのもあり、なかなか二人で街を歩く機会がなかったのでこの時間がとても楽しく思える。いつか昼間にでも買い物に行きたいものだ。

 そうしてしばらく歩いていくと目的の場所へと着いた。


「おー冒険者さんですか。待っておりました」


 着くとそこには複数人の人達がおり、俺達を到着を待っていてくれたようだ。


「師匠ここは?」


 不思議そうに辺りを見渡すモーモンの問いに俺は応える。


「ここは畑だ」

「畑?」

「この街は農業にもかなり力を入れていてな、街の人は六割くらいが農作業してんだよ」

「なるほど、それで今日はここで依頼があるんですか? 見た感じ何もなさそうですけど」

「まあ理由は大方想像つくけど」


 一応話を聞こうか、と先程声をかけてくれた方に再び聞いてみた。


「それでどうかしたのか?」

「実はですね。少し問題がありまして」

「問題?」

「はい。案内しますので着いて来ていただいても良いですか?」

「行くぞモーモン」

「はい師匠!」


 案内をされて畑を進む。等間隔に植えられた植物には美味そうな野菜やら果実などが実っている。実に美味そうだ。

 そして畑をしばらく歩いていると、案内してくれたおじさんが立ち止まり口を開く。


「この子なんですが……」


 おじさんが示す場所、そこにいたのは、


「……師匠この子って」

「おう」




「スライムですよね?」

「そうだな」


 そう、畑の隅に案内された場所には粘液体魔物でお馴染みのスライムがいた。大きさは男性の中でも背が高い方の俺が見上げるレベルで、真っ白な体をしている。


「かなり大きい個体のスライムだな」

「そうなんです。育てていたら大きくなってしまって」

「み、皆さんなんでそんな冷静なんですか!? スライムですよ魔物ですよ!?」


 落ち着け落ち着け、と状況に驚きハンマーを構えるモーモンを慌てて止めて説明する。


「モーモンはもしかして知らないのかもしれないだろうがこのスライムは倒しちゃ駄目だ」

「……ど、どういう事ですか?」


 止められたモーモンだが、俺の言葉を完璧には信用していないのかハンマーを持って手を下ろさない。その緊張感は良いな本当に成長が楽しみだ。

 ってそうじゃなくて、


「これはスライムだけどコイツは人類と共存してるスライムなんだよ」

「共存?」

「そう共存だ。なんでも昔にとても知能のあるスライムが王様と契約したとかで、それからそのスライムの子孫とかと人類は共存してるらしいぞ」

「そ、そうなんですか?」

「それに見てみろ白いスライムなんて見たことないだろ? 色んな街にもいるけど白い奴は皆無害なスライムなんだよ」

「そうなんですか?」

「なんならモーモンも知らないだけでコイツらには世話になってるぞ。ゴミの処分、水源の浄化とか他にも色々普段の生活にいてくれてるぞ?」


 知らなかったです、とようやくハンマーを下ろしてくれた。

 良かった。可愛がってる農場の人達がいる前で危うく倒してしまうところだったわ。


「それで依頼の内容は」

「はい、実はウチの子がかなり大きくなってしまってたので____」




「ダイエットに付き合って欲しいのです」




「……もぉ? どゆことですか?」


 モーモンの困惑顔をよく分かるぞ。初めてならそんな反応するよな。




        ~おまけ~


 


 周りの反応




『『『『何も考えられないくらい気持ち良くなった!!?』』』』


 この瞬間、皆の心が一つになった。


『『『『コイツやりやがったな!!?』』』』


 この後すぐにモーモンは弁解したが、危うくクズーヤが全冒険者と一部の受付嬢からクズと認識されるところであった。



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